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ASMR系VTuberの私、ぼっちのはずがなぜかクラスの美少女に溺愛されてます!  作者: 海野アロイ
第一章 ASMR系Vtuberの私、ぼっちのはずがクラスの美少女に囲まれています!
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23.藤咲あさひ談:私の妹は怪物だったみたいです

「今日も配信してるの? 頑張るねぇ」


 私の名前は藤咲あさひ、大学二年生だ。

 私には妹がいる。

 それも、とてつもない妹が。


 彼女の名前は藤咲ゆうな。

 私と4歳違いの妹。

 それぐらい年が離れていれば、普通は「とてつもない」なんて表現をしないだろう。

 しかし、うちの妹はすごい。本人は自覚していないみたいだけど。


 もっとも、生まれたころから、「とてつもない」妹だったわけではない。

 事実はむしろ逆で、ゆうなは子供のころから病弱だった。

 しょっちゅう熱を出していたし、特に小学三年生以降は持病も見つかって入退院を繰り返していた。

 性格は優しくて、思いやりがある方だと思う。

 あんまり前に出ていくわけじゃないけど、人のことをよく見て、的確なことを言うし。

 あぁ見えて、すごく芯が強いのだ。

 私は妹のいいところを世界で一番言えるって自負している。


 だけど、ゆうなは友達は少なかったと思う。

 今はぼっちだなんて茶化せるけど、多分、親友なんていなかったんじゃないかな。

 私はゆうなが家に友だちを連れてきたのをみたことがないし、友だちの話題も聞いたことがない。

 いじめられているとかではないと思う。

 病気がちで引っ込み思案だから、親しい友人を作れなかったのかも。


 中学校に入ると、ゆうなはますます沈んでいった。

 体調不全が頻繁になり、学校にもなじめていないようだった。

 不登校寸前、いてもいなくても分からないような教室の隅っこにいる女の子。

 たぶん、それが私の妹だった。


「私、VTuberになる!」


 妹とは対照的に、私は自分の道を切り開いていった。

 子供のころから声の仕事がしたかった私はVTuberを目指したのだ。

 大手の事務所の募集にエントリーして、面接をして、演技をして、面接をして。

 何度目かの挑戦の後、私はVTuberとして契約を結べるようになった。

 それが高校三年生の時。

 私の人生は順風満帆だった。毎日が楽しい。



「お姉ちゃん、私もそれ、やってみたい」


 ある日のことだ、自宅で演技の練習をしていると、ゆうなが話しかけてきた。

 引っ込み思案なゆうながそんなことを言うなんて珍しい。


「いいよー? ちょっと試してみよっか」


「ありがとう!」


 私もまだまだ慣れていなかったが、妹に少しだけ試させてみた。

 久々に見る笑顔だった。

 関心を持つっていいことだよね。


「よし、私も、自分でやってみる!」


 妹は珍しく、強い口調でそう言う。

 趣味としてVTuberをしている人はある程度いる。

 少しでも妹の暮らしに弾みがつくのなら、それは歓迎したい。


「頑張ってね。何かわからないことがあったら聞きなよ? 私もまだまだ始めたてなんだけどさ」


「ありがとっ! どんなVtuberがいるのか調べてみる!」


 それから妹は変わった。

 中学二年生の秋ぐらいのことだと思う。

 いろんなVTuberを調べ、いろんな企画を観て、いろんな配信に熱中していた。

 ASMRにはまってるって知ったのは実はだいぶあとからのことだ。


 そして、中学三年生の五月、彼女はデビューする。

 今はスマホのアプリさえあれば簡易的なアバターも作れるし、配信開始までできてしまうのだ。


「へぇー、お姉さんじゃん。もっと自分に似た、かわいい系のアバターの方がいいんじゃないの?」


「それじゃ、なんか自分みたいで入っていかないんだもん。お姉ちゃんのだって違うじゃん」


「それは言いっこなし! いろんな都合っていうのがあるの」


 アバターについてあれこれいうと、ゆうなは少し怒って見せた。

 しっとりした大人の女性を思わせるアバターだ。

 ゆうなの今の姿とは似ても似つかない。


 もっとも、誰にだって変身願望はある。

 私にだって、誰にだって。


 それに、この時点でもまだ私はゆうなの配信は趣味の延長だって思っていた。

 私は大学入学とともに一人暮らしを始めていて、何が起きているか知らなかったのだ。


 彼女が配信を開始してから半年後、私は異変に出くわす。

 久しぶりに実家に帰ると、大きな段ボールが届いていたのだ。

 中身はマイクだ。

 それも普通のマイクじゃない。

 MEUMANNというメーカーの知る人ぞ知る、超高級マイクだった。

 なにせマイクと言いながら、人間の頭の形をしているのだ。

 それを使って録音すると、本当に人間がそこにいるかのように聞こえる超高性能マイク。

 お値段にして100万円以上。

 ASMRを専門にしている一部の配信者しか使っていないし、うちの事務所でも本当にうまい人しか触らせてもらえないものだ。

 こんなものがなぜうちに?

 私はASMR配信なんてやったことないし、声質的に向いてない。

 いや、届け先の住所を確認してみよう。

 

「あ、やっと届いた! やったぁ!」


「へ? これ、あんたのなの!?」


「うん! Youtubeの収益で買ったの! 本当は減価償却とかいろいろあるらしいんだけど、買いました! やったぁ!」


 そう、購入したのは私の妹だった。

 彼女のチャンネルは半年で超高級マイクを買うほどにまで成長していたのだ。

 チャンネル登録者は5万人強。

 人数としては私の方が多い。


 だけど、そんな問題じゃない。

 大抵の個人Vチューバーは3ケタもいかないのだ。

 それが半年で5万、たぶん、もっと伸びる。

 

 私はあわてて、ゆうなの最近の配信を再生する。

 嬉し恥ずかしの初回配信は観ていたけど、それ以降は自分のことで忙しくてチェックできていなかった。


「は、はひぃ、これ、ゆうな!? 私の妹なんですか!? 」


 開いた口がふさがらなかった。

 それどころか、丁寧語になった。

 尋常じゃなく上手い、声も良くて引き込まれる。

 いや、この魅力はテクニカルなものじゃないのかもしれない。

 発声にも、滑舌にも問題はあるのかもしれない。


 だけど、ゆうなの、いや、悠木ゆめめの声は危険なほど、意識を刈り取ろうとしてくる。

 深い森の中にいる怪しくも美しい魔物のようだ。

 聴覚にある種のへきを持っている人間にはたまらないだろう。


「私の妹、やばいんじゃないか、これ」


 かくして。

 私は悠木ゆめめという化け物を目覚めさせたことに気づくのだった。

 普段はぽわぽわしているくせに、マイクの前に立ったら天才に変貌する。

 同業者として恐ろしさすら感じる。

 

 配信活動を始めた彼女は少しずつ体力も回復していった。

 何か励みになるものを見つけたからだろうか。


 もっとも、配信活動は順調だったが、ゆうなは学校では一人だったらしい。

 「私にはリスナーさんがいるからいいもん」なんて強がっていた。

 気持ちはわかるよ、私もリスナーさんが一番、大事だから。 


 しかし、しかし。

 高校に入って、数週間後、ゆうなの様子は明らかにおかしくなった。

 顔が明るくなったのだ。

 鼻歌の回数も増えたし、メイクをしたり、一人でニヤニヤしていたりした。


 話を聞くと、友達ができたという。

 友だちという言葉を彼女の口からきけて、私はすごく嬉しかった。

 さらに驚いたことには、今度、家に連れてくると言う。

 信じられない。

 ここはひとつ、姉として私も挨拶をしたほうがいいかもしれない。

 くふふぅ、美人なお姉さんですねって言われるかも。

 そんなふうにほくそ笑む私。


 しかし、運命はピークに近いときこそ要注意。

 現実を振り出しに戻すような出来事が起こりがちだ。



「ゆうな!? ゆうな、ちょっとしっかりして!」


 朝起きると、ゆうながリビングのソファに倒れこんでいた。

 顔が赤い。

 おでこを触っただけで、高熱が出ていることに気付く。

 

「私、あと一週間で、一周年記念配信があるのに……」


 熱で体を震わせながら、うわごとのようにつぶやく。

 このバカ妹!

 高熱があるくせに何言ってるのよ!


 私はすぐさまタクシーを呼び、最寄りの病院までゆうなを連れていくのだった。


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