21.朝霧さん、有料級ボイスメッセージで覚醒する
「ゆめめ様、あぁ、今日も優しくて天使だった」
私の名前は朝霧透子。
私には日課がある。
それは、私の愛するVTuber、悠木ゆめめ様の中の人である藤咲ゆうなさんの観察日記を書くことだ。
ゆうなさんの正体が発覚して以降、私の筆は乗りに乗り、かなりの分量に達しようとしていた。
もちろん、ゆめめ様の配信での応援、過去の配信を見る復習作業、そして、Xでの布教活動も忘れない。
高校に入って以降、私は過去最高に忙しくなっていた。
しかし、である。
そんな私も現実という壁にぶつかることになる。
「と、透子さん、そろそろ本気で勉強しないとスマートフォン、夜は使用禁止にしますよ?」
推し活に熱を入れすぎる私を見て、卑怯な父母が結託したのだ。
ゆめめ様の配信は基本的に夜の11時とか、それぐらいの時間帯だ。
奪われてしまうとかなりキツイ。
この間は話のはずみでそんなことを話してしまい、ゆうなさんに本気で心配された。
推しに情けない姿を見せてしまって、すごく罪悪感がある。
あぁ、私はなんで天才じゃないんだろう。
授業の内容は別に予習復習しなくてもついていける。
しかし、全国模試なんてものはそうはいかない。
ある程度、対策をしなくてはならないのだ。
『藤咲ゆうな、悠木ゆめめ、ふじさきゆうな、ゆうきゆめめ、だいすき、すきすぎてつらい、いっそ殺してほしい、でも大好き、一生推す、大好きすぎる、いいにおいする』
「はぅっ!?」
そんな風にいざ机に向かっても、いつの間にか意味不明な文字列を出力する始末。
これが推しとの暮らしを手に入れた人間の支払うべき代償なのか。
空恐ろしさすら感じる。
このままではまずい。
このままでは、推し活ができない。
『にゃはは! ゆめめちゃんはもらったぜー?』
『残念だったのじゃー! おとといきやがるのじゃ!』
幻想の中のエリカが、加賀見ふみが、ゆめめ様を抱いてどこかへ連れ去ろうとしている。
怒りと失望でわなわなと体が震え始める。
ゆうなさんと連絡先を交換したときには天にも昇る気持ちだったけど、愚痴を言うわけにもいかない。
あぁ、神様、私はどうしたらいいんですか!?
その時だった。
私のスマホが震えたのは。
「ゆ、ゆうなさんっ!?」
そう、送信元はゆうなさん(ちなみに表示名は『神』)だった。
『神からのボイスメッセージがあります』という表記なのだ。
「お、おぅふぅーっ」
もはや思考すら届かない状態でスマホを操作する。
何をするって?
そりゃ、「送信元:神」からの画面をスクショするに決まっているじゃないの。
「で、でも、どうかしたのかしら? ゆ、ゆうなさんが私に用があるとは思えない。それに、さっき見たのは……」
画面をもう一度、にらみつける。
そこにはボイスメッセージ、つまり肉声でのメッセージがあるということ。
普段は配信でしか聞くことのできないその声を私だけのために!?
そんなもの有料ボイスでもやってないことだ。
いや、そもそも、ゆめめ様はそういうのやってない。やってほしい。
「も、もしかして……」
嫌な想像をしてしまい、背筋がぞくっと跳ねる。
『朝霧さん、私の正体に気づいてたんだね。私、VTuberやめます。あなたのせいで、悠木ゆめめは終わりです。さよなら、探さないでください』
そんなメッセージが脳内に響いたのだ。
もちろん、そんなはずはない。
私は最大限、バレないように行動しているつもりだ。
でも、でも、万に一つの可能性がある。どうしよう。
『朝霧ぃ、私の秘密、知っちゃったねぇ? ねぇ、どうする? 朝霧のせいで私が辞めちゃったら、どうするのぉ? ねぇ、このざぁことぉこ』
錯乱のあまり、メスガキになったゆめめ様の声まで聞こえる。やばい。
正直、今すぐ聞きたい、でも怖い。
相反する感情が私の脳内でせめぎ合う。
「ええい、もうどうなってもいい!」
私は涙をこらえながらイヤホンを耳にはめて、再生ボタンを押す。
どうか、ゆめめ様が引退するのだけは辞めてほしいと願いながら。
『つい、この間の話なんですけど、透子さんが話しかけてくれたこと、すごく感謝していて。透子さんのおかげで、私、すごく……』
途中で、ゆうなさんのメッセージが途切れる。
再生エラーかなと思ったけど、そうではなかった。
かすかに聞こえる鼻をすするような音、私じゃなきゃ聞き逃しちゃうよ。
スマホの向こうのゆうなさんの感情が高ぶったのかもしれない。
「ゆうなさんが私のために……」
感応というのだろうか、私の涙腺もまた刺激されていた。
今まで私はゆうなさんのことを、悠木ゆめめ様の中の人として、一線を引いて見ていた。
極上の癒しを与えてくれる存在として、崇めてさえいた。
だけど、ゆうなさんもまた一人の人間でしかないのだと気づかされる。
ゆうなさんと友だちとして、もっともっと親しくなっていいんだ。
許しを得られた気がして、胸の中が温かくなっていく。
しかし、問題はすぐに起きてしまう。
『今度、透子さんにお勉強を教えてもらえたら嬉しいです。』
「……ふぁ?」
その言葉を聞いた60秒後、鼻血をたらしている私がいた。
どうやら意識が飛んでいたらしい。
服にはかからなかったが、スマホと机は血まみれになっていた。
ゆうなさんからのメッセージで、私の思考が限界突破したのだ。
「べ、べ、べ、勉強教えてですってぇえええ!」
彼女の心が伝わってきて、すごくすごく嬉しかった。
鼻にティッシュを詰めたまま、私はベッドの上を転がる。
嬉しすぎて、嬉しすぎて、このまま失血死するかもしれない。
「……こんなことしてる場合じゃないわ」
やっと我に返った私は即座に起き上がり、机に向かう。
ゆうなさんに勉強を教えることになったら、「わかりません」なんて言えない。
だから、私は勉強をする。
推しの為に勉強するのなら、これも立派な推し活なのだ。
『メッセージ、ありがとうございます。本当に、本当に嬉しいです。ふつつかものですが、末永くお願いします』
ゆうなさんにメッセージを返す。
頭の中は妙にクリアになっていた。
今ならどんな公式でも、英単語でも、吸い込まれるような気がする。
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