20.心を込めてボイスメッセージを送ろう
「よっし……」
自分のお家で、私はスマホに向かっていた。
そこに表示されているのは、メッセージアプリ。
私は今から三人にボイスメッセージを送ろうと考えたのだ。
本当はビデオ通話をしたり、メッセージを交わしたり、色々なことがしてみたい。
だけど、三人は今、すごく切羽詰まった状態にいるのだ。
時間のない中、私のわがままに付き合ってもらうわけにはいかない。
そこで考えたのが、三人に自信を取り戻してもらうボイスメッセージを送ること。
長文のメッセージを送るのは気が引けたのだ。
「透子さんへ……」
Vtuberとしての配信ではないので、声はそのままで行くことにした。
そう、これは藤咲ゆうなという個人の行動なのだ。
「えっと、いつも親しくしてくれてありがとうございます。本当は直接言うべきとは思うのですが、お電話だと時間を取ってしまうと思ったので。つい、この間の話なんですけど、透子さんが話しかけてくれたこと、すごく感謝していて。透子さんのおかげで、私、すごく……」
ここで鼻の奥がきゅぅっと痛くなり始める。
涙腺が緩み始めている証拠だった。
透子さんに声をかけてもらえて、最初は戸惑ったけど、すごく嬉しかった。
あの時のあの行動が、私の今を作ってくれていると思うと、感情がこみ上げてきてしまったのだ。
あぁ、ダメだ、私、変に感傷的になってるのかも。
涙をこらえている間も、録音時間のカウントアップは進んでいく。
しっかりしなきゃ!
「えっと、ごめんなさい。今の私はすごく毎日が楽しいです。ありがとうございます。今度、透子さんにお勉強を教えてもらえたら嬉しいです。私、お勉強、全然なので。ぁ、これからも、よろしくお願いします」
なんとか持ちこたえて、録音を終了する。
うわぁ、緊張した。
正直、配信の時よりも、よっぽど緊張したかもしれない。
「あとは送信すればOKなんだけど……どうなんだろ?」
念のため、話した部分を聞き返す?
たぶんきっと、すごく重い人みたいなことを言ってそうだ。
どうしよう、透子さんに引かれるかもしれない。
もう一度、録ろうか考えるけど、私の偽らざる気持ちなのは確かなわけで。
「えいっ!」
私は震える指で送信のアイコンをタップする。
透子さんは私がどんなことをしても、笑って許してくれる気がする。
だからこその決断だった。
よし、次はエリカさんに行ってみよう!
「エリカさんへ……。いつも、仲良くしてくれてありがとうございます。エリカさんは美人過ぎるので緊張していたんですけど、最近やっと、慣れてきました。えっと、エリカさんは私がこれまであった中で、一番、美人でかわいくて、太陽みたいな人です! だから、自信を持ってください」
話しながら、エリカさんのいいところを想像する。
美人なこと、裏表がないこと、どれもこれも素敵だと思う。
それに、私はエリカさんの魅力に気づいていたのだ。
「それと、なんていうか、エリカさんの美味しそうに食べてるところが好きです。幸せそうに食べているのを見ると、かわいいなぁって思います」
それは彼女が食べている場面だ。
息を呑むほどの美人さんなのに、食べ方が豪快で、気取ってなくてすごく親しみを感じる。
いい人なんだなぁってわかるのだ。
「それじゃ、今度のショーが無事に終わったら、カフェとか一緒に行ってみたいです。おしゃれな所は緊張しますけど。すみません。えっと、これからもよろしくお願いします」
録音終了。
純日本人な私はスマホに向かってぺこぺこと何度もお辞儀をした。
エリカさんへのメッセージはなんだか食べ物中心になってしまった。
それでも、思いの丈を伝えられたと思う。
透子さんに送ったからか、それほど緊張せずに送信アイコンをタップできた。
それでは、最後は加賀見さんだ。
「加賀見さん、いつも仲良くしてくれてありがとうございます。この間、読ませてもらった漫画、すごく面白かったです! 絵もキレイだし、何より、セリフ回しが好きです。貴重な体験をさせて頂いて嬉しかったです」
加賀見さんと言えば、漫画だろう。
彼女の描いているそれは下書き部分でさえも、紙をめくる手を止められなかった。
今は自信喪失してるかもしれないけど、きっと復活できると思っている。
「それと、お願いがあります。できれば、でいいんですけど、これからはお名前で、ふみさんって呼んでもいいでしょうか? もちろん、私のことはゆうなって呼んでくれて構いません。できれば、でいいんですけど、えと、よろしくお願いします」
最後は気になっていたことをお願いしてみる。
加賀見さんだけ、苗字呼びのままだったのだ。
面と向かって言うべきなんだけど、ちょっと気恥ずかしくて。
次に会う時には、きちんとお願いしよう。
これで、三人のお友達に全員送信完了だ。
大したことをしていないのに、胸の奥がほかほかする。
少し夜風に当たりたい気分だったので、ベランダに出ることにした。
夜風が気持ちいい。
「ふぅ……って、お姉ちゃん」
窓を開けて涼んでいると、私と二人暮らしをしている姉もベランダに出てきた。
私の姉、藤咲あさひ、大学二年生だ。
「やっほー。ゆうなも、今は配信中?」
「ううん、今日はまだやってない。お姉ちゃんは?」
私は家族には自分の配信活動について話している。
いや、そもそも、Vtuber活動を始めたのはこの姉の影響なのだ。
「今も絶賛配信中だけど、今は休憩中。ゆうな、たまには私の配信見てよー」
私の姉は高校三年生からVTuberをやっている。
つまり私の先輩ともいえるのだった。
もっとも、お姉ちゃんは大きな事務所に所属していて、私は個人。
背負ってるものがぜんぜん違う。
「うーん。だって、お姉ちゃんの配信、怖いゲーム多いし、他のVTuberさんとわちゃわちゃしてるし」
「そうだけどさぁ、あんただって、友だちとわいわいできたら、嬉しいでしょ? あ、ごめん、まだ友だちいないんだっけ?」
「友だち……いるもん! できたもん!」
「おぉおお、すごい! 今の配信で話していい? リスナーさんにうちの妹が一生ぼっちで心配って話してたんだよー」
「プライベートなことを言わないでよ! 一生じゃないから!」
とはいえ、この先輩はとても質が悪い。
配信者にあるまじき性分で口がぽんぽん滑るのだ。
以前、配信を見た時にはあやうく実家の住所を喋りそうになっていた。
それ以来、怖くて配信を見てない。心臓に悪いから。
「ゆうな、よかったね。お友だち、大事にしなよー?」
「う、うん。ありがとう」
「うへへ、なんか元気でた。それじゃ私もがんばるぞー」
お姉ちゃんはうぅーと言いながら背伸びをして、自分の部屋に戻っていった。
これから防音室でゲーム三昧なんだろうか。
「友だち、かぁ」
たぶん、きっと生まれて初めての感覚かもしれない。
学校に行くのが、楽しみになるなんて。
「私も今日、ちょっとだけ配信しようかな」
お姉ちゃんに影響されたのか、突発的に配信をしてみようかなと思い立つ。
今までは配信時刻を予告するのが普通だったから。
私の意識も少しだけ変わり始めているのかもしれなかった。
「くしゅんっ」
くしゃみが出る。
あぁ、まだまだ夜は寒いなぁ。
私は慌てて自室に戻るのだった。
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