19.連絡先を交換しただけなのに、なんで泣くんですか!?
「ゆうなちゃぁああんっ、話し聞いてよぉおおっ!」
「あ、エリカさん、ひきゃあっ!?」
今からお昼というタイミングで、クラスメイトの鏑木エリカさんに抱き着かれた。
相変わらずスキンシップが過剰な人なのである。
……それにしても、すっごい柔らかい。いい匂い。
「エリカ、ゆうなさんから離れるか、死ぬか、今すぐ選びなさい。両方でもいいわ」
「もぉおお、とーこ、ひどいよぉおっ! 話を聞いてよぉ。はぐはぐ」
エリカさんはおいおいと泣きながら、机の上にフランスパンを一本置いた。
それに噛みつきながら、身の上話を始めるのだった。
「今度、めちゃくちゃ大事なショーがあって、練習ばっかりで弱ってるの。私、こう見えて緊張しぃなんだよー?」
「は、はぁ、そうなんですか……」
エリカさんがあがり症と聞いても、にわかには信じられない。
いつだって堂々としていて、自分の道を貫いているから。
それにしても、なぜ、エリカさんは私の太ももの上に頭を乗せているのだろう。
「あんたは、離れなさいっ! まったく、ゆうなさんに甘えるんじゃないの!」
「うにゃあああ」
エリカさんは透子さんに引きはがされて、元の席に座らされる。
相変わらず、仲良しの二人である。
「でもね、冗談じゃなくて、結構ピンチなんだよぉ。モデルって素のままでいいって思われるかもだけどー、服の良さを引き出すポーズとか、ウォークとかしなきゃいけないし、まじでめんどいんだよー。裸でいっそ出られないかなぁー」
「裸で……」
「思い切り良すぎよ! 服のためのモデルでしょうが」
裸でランウェイを歩くって言うのは極端にしても、エリカさんはエリカさんなりに努力しているのに気づかされる。
「でも、自信がないんだよぉー。みんな、めちゃくちゃ、かっこいいんだよ!?」
エリカさんはそう言うと、フランスパン一本を完食した。早い。
モデル業界なんて想像もできないけど、かっこいい人たちがさらに切磋琢磨をしてる業界であることはわかる。
だけど、エリカさんの存在感は格別だと思うのだ。
太陽みたいなキャラクターだし、もっと自信を持っていいと思う。
「皆の衆、おはようなのじゃー」
「加賀見さん、おはようございます」
振り返ると、今度は加賀見さんが立っていた。
エリカさん同様、この時間に遅刻してきたらしい。
「顔色、悪いですけど、大丈夫ですか?」
「あぁ、うん、まだまだいけるのじゃ、ふふふ」
加賀見さんはフラフラしながら、そこらの開いている椅子に座る。
土気色の顔をしていて、目の下にがっつりクマがある。
どう見ても、寝不足だ。
「実はこの間の漫画の締め切りが迫っておるのじゃよぉっ! 二徹しても続きが全然、降りてこないのじゃ! うちはもう詰んだのじゃ!」
「ひぃ!?」
加賀見さんは、のじゃ、のじゃと言いながら、机に頭をぶつけた。
相当血迷っているように見える。
「だらしないわね、しっかりしなさいっ!」
「うぅう、ネームが、ネームが襲ってくるのじゃ」
「幻覚を見るな! 家で寝てなさい」
ここでもサポートに回ってくれるのが透子さんである。
いつも頼りになるお姉さんって感じですごいなぁって思う。
「わし、自分のこと天才って思ってたけど、自信ないなったのじゃあ~。とんだピエロ野郎なのじゃぁ」
加賀見さんは机にほっぺたをつけたまま、愚痴を言い始める。
そんなこと言って欲しくないと私は思う。
この間読ませてもらった漫画は引き込まれるほど面白かったのだから。
「とーこはいいよねぇ、勉強もできてスポーツもできてさぁ、顔もいいし、言いたいことはずけずけ言うし、人の心とか考えない冷血動物だし、口悪いし」
「途中から、ただの悪口になってるんだけど? それに、私にだって……悩みぐらいあるわよ」
透子さんはそういうと、きゅっと口を真一文字に結んだ。
今まで見たことのない表情。
「えー、なにー? 美人すぎてごめんとか言ったら、さすがのあたしでも殴るよー?」
「同意、モップの角で殴るのじゃ」
透子さんの悩みとなると、ぜひ、聞いてみたいものだ。
朝霧透子さんと言えば、頼りがいのある女の子で全知全能みたいなイメージがある。
そんな人に悩みがあるなんて信じられない。
「そんなんじゃないわよ。……最近、勉強が進んでないのが親にバレたの。次の模試で結果が悪かったら、スマホ、夜は禁止になるかもしれなくて」
「それリアタイ禁止命令じゃん、はい、死んだ! にゃははは!」
「うちらに負けず劣らず地獄なのじゃ! うははは!」
「何笑ってんのよ、あんたたち、なぐさめなさいよ!?」
なんだかよくわからないが、透子さんもまた天を仰ぐ。
どうやら涙をこらえているようだ。
透子さんはお医者様を目指しているって言っていたから、人一倍、努力しなきゃなんだろう。
「私だって、全知全能の女神じゃないのよ!? ダメ人間になることもあるの!」
透子さんの言葉に気圧されてしまう。
そうか、完璧超人に見える透子さんでも悩みがあるんだ。
エリカさん、加賀見さん、それに透子さん、三人とも自信を失ってしまっている。
彼女たちの凄さを知っているからこそ、何かしてあげたいっていう気持ちが湧いてくる。
今の私が、楽しく学校生活をおくれているのは彼女たちのおかげなのだから。
「ぁ、あのっ、お願いがあるんですけどっ! みんなと連絡先を交換したいって思いまして……。いや、ご迷惑ならいいんですけどっ!」
私は三人を励ますためにも、一世一代の大勝負に出ることにした
正直、断られたら、明日、学校に来れないかもしれない。
「む、無料でいいんですか!?」
「まさか! いくら払えばいいの!?」
「まさかオークション形式!?」
思っていた反応と違うのが返ってきた。
えっと。なんだこれ。
友達と連絡先を交換するのってお金が発生するものなの!?
「ぁの、えと、む、無料というか、普通にお願いできればと思いまして。いや、気持ち悪いですよね!? すみませんっ、私なんかが10年早かったです」
「めめめめめめめ、滅相もないですっ!」
「今のはジョークだよっ!」
「分かりにくいボケでごめんなさいなのじゃ!」
「な、なるほどぉ、冗談ですか」
私みたいなコミュ障は冗談を言われると、止まってしまうのが悲しい。
あまりにも三人が鬼気迫ってたので真に受けてしまった。
「えーと、こちらです」
「はひぃ。これ、夢? 夢じゃないわよね!? 前世の私、徳、積み過ぎ!?」
「やったーっ! 今度、おすすめのカフェに行こうねっ!」
「ぬははは、うち、これでイラストとかおくる……なのじゃ!」
透子さん、エリカさん、加賀見さん。
私のスマホに友達の連絡先が現れる。
生まれて初めてだ。
感動で涙腺がずきずきする。
「我が人生に悔いはないっ!」
もっとも、透子さんがなぜか泣いてるので泣くに泣けないんだけど。
私は秘密の計画を練る。
三人をもっともっと応援するために、あることをしようと思いついたのだ。
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