13.加賀見さんのおうちにお呼ばれしたら、みんな大号泣
「……なんで、おぬしらまでくるんじゃ?」
「あんたが怪しいからでしょうが! そもそも、なんなの、その言葉遣い。最初の挨拶の時は普通だったわよね?」
「うぐ、実は……」
「別にいいじゃん。私は嫌いじゃないけどー? ゆうなちゃんに危害を加えなければ、ね?」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いてください。私、誰かのお家に行けてすごく嬉しいです!」
放課後、私たちは加賀見さんの家に向かっていた。
同行するのは透子さんとエリカさんである。
名前呼びするのはまだまだ慣れないなぁ。くすぐったい。
「だったら、あたしの家に来てよー! 大歓迎するから」
「エリカ、ふざけないで? 抜け駆けは許さないわよ」
朝霧さんとエリカさんは相変わらずケンカをしている。
いや、ケンカするほど仲がいいってことなのかも。
「えと、ここがうちなのじゃ」
「大きいですね!」
加賀見さんのおうちはすごく大きい。
由緒正しい、ザ・日本家屋って感じである。
ちょっと緊張してきた。
「ここがわしの部屋なのじゃ。ちょっと待っとれ、すぐにお茶とお菓子を持ってくる」
「うわ」
ご家族は今はいないらしく、そのまま通される。
ひんやりした廊下を通って、案内された先には加賀見さんのお部屋があった。
床に散らばるのは、一面の紙、紙、紙!
丸まった紙ごみも多数見受けられる。
「これはひどいわね。窒息しそう」
「うっはー、やばい! うけるー! 燃えそう」
「めったなことを言うでないわ……」
透子さんとエリカさんが驚くのも無理はない。
どうやったらこんなに散らかるんだってくらい、紙ごみで溢れている。
加賀見さんにとっては日常のことらしく、なんとも思っていないようだ。
うー、体がうずうずする。
「加賀見さん、差し出がましいですけど、お部屋、私がお片付けしてもいいですか?」
「えぇ!? 悪くはないけど、なんでまた」
「私、お掃除好きなので!」
かくして掃除は始められた。
散らばっている紙にはどうやら何かの絵が書かれているようだ。
でも、他人様のごみについて詮索するのもよくない。
私は無心でゴミを拾う。
「ふん、ふーんふふん」
お掃除のお片付けって楽しい。
思わず創作鼻歌が出てしまう。
私、散歩の時も鼻歌交じりになったりするんだよね。
「……いい」
「すごいチル」
「和むのぉ」
楽しければ効率が上がる。
お片付けはあんがい早く終わってしまうのだった。
時間にして15分足らず。
最後の方は私だけが掃除をさせてもらっていた気がする。
「藤咲殿、ありがとう。お茶とお菓子をお持ちしたのじゃ」
加賀見さんは私たちをねぎらって、お茶と和菓子を出してくれた。
有名な所のどら焼きだ。
うわぁ、嬉しい。
私がどら焼きにかぶりつくと、隣でエリカさんが「おいしい!」と声をあげる。
確かに甘すぎず、上品なお味。
高いところのお菓子かもしれない。
「あ、あのぉ、藤咲殿、お願いがあるんですじゃが」
「ううん、いいよ? 他にどこを掃除すればいいの?」
「あ、いや、掃除ではなくて、これなんですけど。ちょっとセリフ部分を読んでほしいっていうか、その」
まだ掃除したりない所があったのかと思ったが、そうではなかったらしい。
加賀見さんが差し出してきたのは、マンガだった。
下書きって感じだけど、それなりにしっかり書きこまれている。
キレイな絵だけど、私が見たことのある作家さんのものではなさそう。
「ふ―ん、マンガじゃない」
「わかった! これ、ふみふみが描いたんでしょー? なんかそれっぽいもん!」
「ふ、ふみふみ? えと、……実はうち、じゃなくてわしは、漫画家を目指しておるんじゃが、ちょっと最近、つまっておって」
加賀美さんからはもじもじしながら話し始める。
自分の夢や目標を人に話すときって緊張するよね。
気持ちはよくわかる。
「あ、わかったぁ。ゆうなちゃんに自分の好きなセリフを読ませたいんでしょー? やらしいよ、それー。変態なんじゃないのー? 読み上げ系の変態」
エリカさんからとんでもない言葉が飛び出す。
いやらしいだなんてそんなことはないと思うんだけど。
「うぐぅ!?」
「はぐぅううう」
しかし、加賀見さんは胸を抑えて机に頭を打ち付ける。
図星だったのだろうか。
さらには透子さんまで、同じリアクション。
二人とも、似ていると思う、なんだか根底のところで。
「私、読みます。大丈夫ですよ」
「おぉ! ありがとうなのじゃ!」
エリカさんの邪推は置いといて、同級生の書いたマンガなんて興味があるに決まっている。
とはいえ、せっかく読みあげるのなら、その前の部分も知っておきたい。
「え、前の部分を読みたい? いいけど」
加賀見さんから紙の束を渡されるので、じっくり読んでいく。
どのページもしっかり書きこまれていて、加賀見さんの熱意が伝わってくる。
話も面白いし、すごく光栄だ。
「じゃあ、さっき指定されてたの部分を読みますね。
(以下、読み上げ)
アリア:「あなただけでも逃げて、私はもう……だめ」
エマ:「だ、大丈夫だよ、助けが来る、だから、だから」
アリア:「生きて……」
エマ:「アリア? アリア! ……嘘だろ」
(以上、読み上げ終わり)
えへへ、どうでしたかね? あれ?」
加賀見さんの指定してきたのはしんみりするシーンだった。
序盤で主人公の少女エマが戦火によって幼馴染の女の子、アリアを失うところだ。
ASMRではささやき声はするけど、かすれ声は出さない。
その意味で、すごく新鮮な体験だった。
「うそよぅうう、そんな、アリアが死ぬなんて……」
「ゆうなちゃんが死ぬなら、私が代わりに死ぬ!」
「うち、もう死んでもいいのなのぉおおお」
透子さんはハンカチで目頭を押さえていた。
エリカさんに至っては錯乱に近いリアクション。私は死なない。
加賀見さんは大号泣。キャラが崩壊しつつある。
「ありがとう、ありがとう! これでうち、次に行ける気がしますの!」
「は、はぁ……」
加賀見さんの小さな手にがっちりと手を組まれて感謝される私。
いや、別にそこまでのことはしてないと思うんだけど。
それでも、何か発見があったのなら嬉しい。
リアル世界の私は誰の役にも立ててないって気がしているから。
時計を見ると、もう6時を指している。
楽しい時間はすぐに過ぎていく。
「私、今日は用事がありますので、そろそろ行きますね。加賀見さん、本当にありがとうございました。お茶もお菓子も美味しかったです」
きりの良い時間になったので、私はお暇することにした。
今日も配信をする予定なのだ。
どんなことをするか考えるために、少し時間が欲しかった。
「私たちは加賀見さんとお話があるから少ししたら帰ります。本当はお送りしたいんですけど、申し訳ございません」
「そうだねー。しっかり話しておきたいことがあるからー。仲良しになったしぃ」
「え、話!? ひ、ひぃ」
透子さんとエリカさんはもう少し残っていくという。
三人とも今日の片づけを通して、距離が縮まったんだなと実感する。
友だちと友だちが仲良くするのって嬉しいなぁ。
……あれ?
今、三人を友だちって認識してた?
高校に入って、やっと友だちができたって実感しているのかもしれない。
「ふふーん、ふふーん」
駅までの距離を嬉し恥ずかしな気分で歩くのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるんじゃっ……!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。