12.加賀見さんにいきなりプロポーズめいたことを言われる
「藤咲さん、うちの隣で一生、掃除をしてもらえ……んじゃろうか?」
次の日。
少しだけ早めに教室に到着すると、加賀見さんが現れる。
彼女は開口一番にこう言うのだった。
「……はい?」
一生なんて言われるとびっくりしてしまう。
冗談だとは思うのだが、プロポーズみたいだ。
もしくは罰ゲームなのかもしれないけど、掃除好きの私にとっては結構嬉しいことかも。
「い、い、いや、そういうわけじゃなくて、ええと、その、掃除の」
加賀見さんは何かを言いたそうにもじもじしている。
だが、彼女が最後まで言い終わらないうちに、割って入る人がいる。それも二人も。
「藤咲さん、おはよう。この間はごめんなさいね」
一人は朝霧さんだ。
相変わらずの美人さんである。髪サラサラ。
風邪は治ったらしく、顔色は普通に戻っている。
「おはよう、会いたかったよー! 透子のせいで風邪ひいちゃってさー。もぉ、藤咲ちゃんロスだよぉ」
もう一人は鏑木さんだ。
彼女は私に抱き着いてくる。
なんかもう色々当たってるんですが。
「……で、その隣にいるのはどなたかしら?」
「ひ」
朝霧さんの射抜くような視線が加賀見さんに注がれる。
相変わらずの眼力である。
加賀見さんを怖がらせないためにも私は動くことにした。
「えと、同じクラスの加賀見ふみさんで、昨日、一緒に掃除当番をしたんです」
「掃除当番ねぇ、それでこんな虫が」
「あれ? 藤咲ちゃんの掃除当番、ずっと先じゃなかったー?」
「あぁ、えっと……」
私は二人に昨日、急遽、掃除当番になった理由を伝える。
皆岡さんに急用ができたので、私が代行で入ったのだった。
「ふふふ、なるほど。皆岡さん、私の藤咲さんにそんな親切をしてくれるのね」
「へぇ、びっくりだねー、皆岡かぁ、ふぅーん、なるほどねぇ」
朝霧さんと鏑木さんはニコニコ笑顔だ。
どことなく貼り付けたような笑いな気がするけど。
「あ、あのぉ、一応、皆岡さんはあくまでも緊急の用事があっただけですからね? 普通になんでもないですからね?」
「もちろん、わかってます。うふふ、普通にしますよ? 表では」
「そんな風に言われると、何かするみたいじゃーん? 大丈夫だよー」
朝霧さんたちには念を押すのを忘れない。
この間みたいに血圧があがって鼻血が出たら困る。
「それで、加賀見さん、掃除の話だよね? 何かあったの?」
「ぅえ、そ、そう! 昨日、掃除を手伝ってもらったので、お、お礼にうちにお茶でもごちそうしたいなーと思っておって」
「そうなんですか! 嬉しいです!」
まさかのおうちへのお誘いだった。
クラスメイトの家への訪問は小学生のとき以来だ。
実質、初めてと言ってもいい。
加賀見さんはずいぶん、恩義にあつい人なんだなぁ。
「怪しいわね? お世話になったのなら、菓子折りひとつ持ってくればいい話じゃない? わざわざ家に呼び込むなんて」
「ぐぅっ!? あ、怪しくないのじゃ! お礼の気持ちじゃし、えと、うちにはそのアニメのブルーレイもあるし」
「なんかそれ、男が家に誘う時とそっくりー。家で見なくてもよくないー? 本当にお茶するつもりー?」
「ぬぉおおお!? な、なんじゃその解像度の高さ!?」
加賀見さんは朝霧さんと鏑木さんから集中砲火を浴びている。
朝霧さんはお姑さんみたいな風格。
鏑木さんの言っていることはよくわからない。
「ちなみに、私、将来、外科医になりたいと思ってるの。メスの練習台になってくれる人、探してるのよねぇ」
「とーこ、そういうのダメだよー? 見えるとこやっちゃアウトだからねー?」
「ひ、ひぃい、なんじゃこいつら!?」
「そもそも、あなた、入学式の時にはメガネだったはず」
「ぬわーっ!?」
言い争いの末、加賀見さんは大声を出して、朝霧さんの言葉を遮る。
かなりまずい雰囲気だ。
この空気を和ませるにはどうしたらいいんだろう?
そうだ!
私はこの間の一件を思い出す。
「と、透子さんも、エリカさんも落ち着いてください。加賀見さんは怪しい人じゃないです! それに、私は加賀見さんのおうちに行きたいですよ」
私は立ち上がって、加賀見さんの前に立つ。
小さき者同士、かばってあげないとかわいそうだ。
「おうっほ」
「はにゃああ」
二人は腰が砕けたみたいにへろへろと席に着く。
私の説得が効いたのだろうか。
やっぱり、真剣に心を通わせるって大事だ。
「藤咲さん、いえ、その……ゆ、ゆ、ゆうな様が仰るならそれでいいですけど、その静まれ、私の心臓」
「あぁ、ゆうなちゃん、好きー。名前で呼んでくれて嬉しい、んにゃああ」
透子さんは胸をドンドンっと叩きながら、びくびくと痙攣する
相変わらず心臓が弱いみたいだ。大丈夫だろうか。
エリカさんは机の上で猫みたいにぐでぐでになる。
ゴロゴロと猫をあやしたときの音までしてくる。
「そ、それじゃ、えと、ありがとうなのじゃ。またあとで、えへへ」
加賀美さんは自分の席へと戻っていった。
心なしか、髪の毛がぴょこぴょこ動いている気がする。
加賀見さんって不思議な人だと思う。
彼女は周りの席の人たちとあんまり喋っている様子はない。
授業で当てられても、声は小さい。
多分に内気な性格なんだと思う、私みたいに。
それなのに、私に話しかけてくれた。
これって……もしかすると友達なのかもしれない、加賀見さんも!
私は放課後のお呼ばれがすごく楽しみになる。
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