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鍵の謎解き変態道!~江戸の賢人と迫る妖の手~


め組の詰所の一室。夜明けの光が障子に差し込む頃、桃色助平太、カゲリ、プルルン、そして新たに仲間に加わった辰五郎は、卓を囲んで作戦会議を開いていた。卓上には、鬼灯島で見つけた金属片と、辰五郎の半纏から取った纏印の拓本が並べられている。

「ううむ、この金属片のギザギザと、この纏印の巴の渦巻き…実に、実に官能的な曲線美!まるで、絡み合う恋人たちの肢体の如し!この二つが合わされば、一体どのような『悦楽の扉』が開かれるのでござろうか!」

助平太が、いつもの調子で二つの品をいやらしい目つきで撫で回している。

「このド変態!朝っぱらから気色悪いこと言ってんじゃないゾ!真面目に考えるんだ!」

プルルンが助平太の鼻先に噛みつかんばかりの勢いで怒鳴る。

「辰五郎の旦那、この纏印について、何か古い言い伝えとかはねえのか?例えば、鍵みてえなもんと関係があるとかよ」

カゲリが冷静に辰五郎に尋ねる。

辰五郎は腕を組み、唸りながら記憶を探っていた。

「そういやぁ…じいさんのじいさんの、そのまたじいさんの代から、『この印籠しるしは、いつか来るべき日のために、江戸のどこかにある“大いなる力”の扉を開く手助けになる』みてえなことを言ってたって聞いたことがあるな。ガキの頃は、ただの火事場の景気づけだと思ってたが…」

「大いなる力の扉…それはもしや、『禁断の蔵』のことでござるかな!?そして、その手助けとなるのが、この纏印と金属片…つまり、『天逆毎の鍵』!」

助平太の目が、俄かに期待の色を帯びて輝き始めた。

「おコン婆の言ってた通り、江戸で一番の鍵師か、古文書の専門家を訪ねるのが手っ取り早いだろう。そいつらなら、この金属片の正体や、纏印との関連について何か知ってるかもしれねえ」

カゲリが具体的な提案をする。

「鍵師ねぇ…そういや、神田の裏通りに、腕は確かだが、ちいと変わりモンの錠前屋の爺さんがいるって話だ。『開けられぬ錠はなし、作れぬ鍵もなし』と豪語してるらしいが、仕事を受けるかどうかは気分次第で、おまけに極度の女好きだって噂だぜ」

辰五郎が、どこかで聞いた噂を思い出す。

「なんと!女好きの鍵師!それは、拙者の出番ではござりませぬか!そのお爺殿と、熱き『おなご談義』を交わせば、きっと心を開いてくれるに違いありませぬぞ!」

助平太は、新たな出会い(と、そこから派生するであろうお色気ハプニング)への期待に、早くも股間をそわそわさせ始めた。

「…嫌な予感しかしないんだゾ」

プルルンが深いため息をついた。

かくして一行は、神田の裏通りにあるという錠前屋「からくり堂」を目指すことになった。道中、助平太はすれ違う町娘のうなじやふくらはぎにいちいち反応し、その度に辰五郎に「テメェ、よそ見してんじゃねえ!」とどやされ、カゲリに冷たい視線を送られ、プルルンに「このド変態!」と罵られるという、もはやお馴染みの光景を繰り返していた。

からくり堂は、埃っぽく薄暗い、およそ繁盛しているとは思えない構えの店だった。中から、ギコギコと何かを削る音と、時折、老人の咳き込む声が聞こえてくる。

「ごめんくださいまし!『美の探求者』桃色助平太、並びにその一行、ただいま参上仕った!」

助平太が、芝居がかった口調で声を張り上げる。

奥から現れたのは、腰の曲がった、しかし目だけは鋭く光る小柄な老人だった。年の頃は七十を過ぎているだろうか。その手には、使い込まれたヤスリが握られている。

「…なんだぁ、騒々しい。今日はもう店じまいだ。それに、儂は気に入らねぇ客の仕事は受けねえんでな」

老人は、助平太の全身をじろりと見ると、面倒くさそうに言った。

「おお、これはこれは、頑固一徹、職人気質の親方とお見受けいたした!そのお目、実に鋭く、そして…その皺の一本一本に、長年培われた『技』と『おなごの思い出』が刻まれておりますな!」

「……気色の悪いことを言う若造だ。それ以上近づくと、そのふざけたツラをヤスリで削るぞ」

「まあまあ、お爺さん、落ち着いてください。私たちは、この金属片と、この紋様について、お知恵を拝借したくて参りました」

カゲリが冷静に間に入り、金属片と纏印の拓本を老人に見せる。

老人は、それらを手に取ると、眉間に深い皺を寄せ、鑑定するように矯めつ眇めつし始めた。その真剣な表情は、先程までの偏屈な老人とは思えないほどだ。

「…ほう、こいつは…まさか、『天逆毎』の…?」

老人の呟きに、助平太たちの間に緊張が走る。その時、店の奥から、可憐な声が響いた。

「お爺様、お茶が入りましたけど…あら、お客様ですか?」

現れたのは、年の頃十六、七ほどの、桜色の着物がよく似合う、いかにも深窓の令嬢といった雰囲気の美しい娘だった。その手には、湯気の立つ茶碗が乗った盆がある。

「おおおおおっ!なんという透明感!まるで、朝露に濡れた白百合の如きお嬢さん!その潤んだ瞳、そして、お盆を持つその指先の繊細な動き!ああ、この助平太、今、猛烈に『お近づきになりたい』という衝動に駆られておりますぞ!」

助平太の目が、完全に娘にロックオンされた。

「こ、このド変態!また始まったゾ!」

「助平太殿、今は集中してくれ!」

プルルンとカゲリが慌てて助平太を羽交い絞めにする。娘は、助平太の異常なまでの熱視線に怯え、老人の影に隠れてしまった。

「……この変態侍、叩き出してくれねえか」

辰五郎が、心底うんざりした顔で老人に頼む。

老人は、深いため息をつくと、助平太を睨みつけた。

「…孫娘に手を出すようなら、その大事な竿竹を錆びた南京錠で封印してやるぞ。…いいか、その金属片は、確かに『天逆毎の鍵』の一部だ。そして、その纏印の紋様も、鍵を構成する重要な『図形』の一つ。儂の知る限り、天逆毎の鍵は七つの破片に分かれ、それぞれが江戸の七つの『霊的結界』の場所に隠されているという」

「七つの霊的結界!?」

「そして、その鍵を全て集め、江戸城の『禁断の蔵』の封印を解いた時…国をも滅ぼしかねない『大いなる力』が解放されると言い伝えられておる」

老人の言葉に、一同は息を呑んだ。鬼灯島の事件は、想像以上に大きな陰謀の一端に過ぎなかったのだ。

「しかし、儂がこれ以上の情報を教えるには、一つ条件がある」

老人は、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

「儂の店から、先祖代々伝わる『からくり秘宝箱』を盗んでいった不届き者がおる。そいつを捕まえ、箱を取り返してくれたら、次の鍵の破片のありかを示唆する『古文書の写し』をくれてやろう。どうだ、この話、乗るか?」

「からくり秘宝箱…それはまた、そそられる響き!その箱の中には、一体どのような『お宝』が…むふふ、例えば、おなごが身に着けた下着コレクションとか…」

「お前の発想はそれしかないのか!」

「やってやろうじゃねえか、爺さん!その泥棒野郎、俺たちが引っ捕らえてやる!」

辰五郎が、威勢よく胸を叩く。カゲリも頷き、プルルンも「仕方ないから手伝ってやるゾ!」と悪態をつく。

こうして、助平太一行は、鍵師の老人からの依頼で、「からくり秘宝箱」を盗んだ犯人を追うことになった。老人の話では、犯人はどうやら最近江戸で暗躍している「闇カラス組」と呼ばれる盗賊団の一味らしい。

江戸の町を奔走し、聞き込みを続ける助平太たち。その背後に、新たな刺客の影が忍び寄っていることには、まだ気づいていなかった。それは、先日逃した女頭目が差し向けた、蜘蛛の糸を操る妖艶なくノ一と、影に潜んで奇襲をかける不気味な覆面の怪人であった…。

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