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怨霊乱舞!ド変態、魂の叫びに墨を入れる


魂喰らいの祠、その入り口で蠢く無数の怨霊たち。虚ろな目が一斉に桃色助平太、カゲリ、そしてプルルンに向けられる。常人ならば腰を抜かすか、一目散に逃げ出すであろうこの地獄絵図に、助平太は筆と墨壺を構え、恍惚の表情を浮かべていた。

「おお、おお!この絶望に染まりきった瞳!苦悶に歪む口元!そして、その透き通るようなお体!まるで、最高級の薄絹を纏ったご婦人の如し!しかも、これほどの数の『薄絹美女』に一度にお目にかかれるとは!この助平太、筆が、筆が止まりませぬぞ!」

助平太は、迫りくる怨霊の一体に、まるで踊るように近づくと、その顔を覗き込みながらサラサラと筆を走らせ始めた。

「ふむ、貴女のその眉間の皺、実に味わい深い!もう少し、顎を引いて、そう、その角度!素晴らしい!まさに『無念の極み』でござる!」

「グオオオオ(困惑)……」

怨霊は、目の前の男の奇行に理解が追いつかず、伸ばしかけた手を中空で止まらせている。その隙を、カゲリが見逃すはずもなかった。

「はあっ!」

カゲリは、助平太の描く怨霊とは別の個体にクナイを投擲。クナイは怨霊の胸(があったであろう場所)を正確に貫き、怨霊は苦悶の声を上げて霧散した。

「助平太殿!見惚れている場合か!数を減らすぞ!」

「おっと失敬!しかしカゲリ殿、ただ倒すだけでは芸がありませぬ!彼女たちの『最期の美』を、この助平太が永遠に記録しなくては!」

「このド変態!遊んでないで戦えだゾ!うわっ、こっち来た!」

プルルンが助平太の頭の上で悲鳴を上げる。数体の怨霊が、プルルンめがけてそのおぞましい手を伸ばしてきたのだ。

「プルルン殿、ご安心を!その恐怖に歪むお顔もまた、実に愛らしい!しかし、ここは拙者の見せ場でござるかな!」

助平太は、プルルンに迫る怨霊たちに向かって、突如として奇妙な踊りを披露し始めた。それは、阿波踊りのようでもあり、能のようでもあり、しかし決定的に破廉恥な動きを加えた、名状しがたい舞であった。

「秘技・悩殺悶絶!『黄泉比良坂よもつひらさかくねくね踊り』!」

「グギギギギ……(さらに困惑)……」

怨霊たちは、助平太のあまりにも破廉恥で意味不明な踊りに完全に動きを止め、その虚ろな目に戸惑いの色が浮かんでいる。中には、あまりの衝撃に後ずさりする怨霊さえいる始末。

「今だ、カゲリ殿!」

「……ったく、この男は!」

カゲリは呆れつつも、的確に怨霊たちを仕留めていく。プルルンも負けじと、怨霊の足元に粘液を飛ばして転ばせたり、擬態した小石をぶつけたりと奮闘する。

「おお!その倒れ方!まるで、夜露に濡れた牡丹が崩れ落ちるかの如し!そのおみ足の角度、実に、実に……えろい!」

助平太の変態的実況と、カゲリの的確な攻撃、そしてプルルンの小賢しいサポートにより、怨霊の群れはみるみるうちに数を減らしていった。中には、助平太の変態ぶりに耐えきれず、「こんな奴に成仏させられるくらいなら……」と自ら昇天していく怨霊まで現れる始末であった。

やがて、最後の怨霊が霧散すると、祠の入り口には静寂が戻った。しかし、その床には、助平太が描き殴った大量の「怨霊百面相図」が散乱していた。

「ふぅ……実に、実に濃密な時間でござった……。これほどの『魂の叫び』に触れたのは初めてでござる。拙者の芸術家魂も、メラメラと燃え上がりましたぞ!」

助平太は汗を拭いもせず、満足げに自分の作品を眺めている。

「……お主、本当に何者なんだ。その筆さばき、ただの変態のそれではないぞ」

カゲリが、やや呆れつつも、どこか感心したように呟いた。

「うふふ、拙者はただの『美の探求者』。筆は、その探求のためのささやかなる道具に過ぎませぬ」

「さ、ド変態の戯言はいいから、とっとと祠の奥に行くんだゾ!アタイはもうこんな気色悪いところ、一刻も早くおさらばしたいんだ!」

プルルンが急かす。

三人は、警戒しつつ祠の内部へと足を踏み入れた。祠の中は、外から差し込むわずかな光と、壁に灯された数本の蝋燭だけで薄暗く、ひんやりとした空気が漂っている。そして、壁一面には、無数の御札が貼られていた。その御札一枚一枚から、微かな呻き声と、言いようのない怨念が滲み出ている。

「これは……魂を封じられた者たちの……」カゲリが息を呑む。

「なんと!これほど多くの『乙女の溜息』が凝縮されているとは!まるで、最高級の媚薬を樽ごとぶちまけたような、むせ返るような色香!ああ、この助平太、この香りだけでご飯三杯はいけそうでござる!」

「お前は本当にどこまでもド変態だな!」

助平太が恍惚としながら御札の一枚に鼻を近づけた瞬間、その御札が赤黒く発光し、バチッと音を立てて火花を散らした!

「うわっ!」

「やはり罠か!」

カゲリがクナイを構える。しかし、攻撃はそれきりだった。

「ふむ……この御札、ただ魂を封じるだけでなく、何らかの術式が施されているご様子。おそらく、外部からの干渉を拒むための結界か、あるいは……魂を『加工』するための装置の一部やもしれませぬな」

助平太は、焼け焦げた御札の匂いをくんくんと嗅ぎながら分析する。

祠の奥は、意外にも広くなっていた。中央には石造りの祭壇があり、その上には黒曜石で作られた禍々しい短剣と、何かの液体で満たされた水晶の杯が置かれている。そして、祭壇の周囲の床には、複雑な魔法陣のようなものが描かれていた。

「これは……何かの儀式場か?」カゲリが眉をひそめる。

「この短剣、そして杯……まさか、集めた魂をこの短剣で切り刻み、そのエキスを杯に注いで飲もうとでもいうのでござるか!?なんと冒涜的で、そして……背徳的なまでに蠱惑的な儀式!」

「お前の感想はいちいちズレてるんだゾ!」

プルルンが祭壇に近づき、その表面をぺたぺたと触った。

「……この魔法陣、アタイの知ってる『魂縛りの術』と『妖力増幅の術』が組み合わさってるみたいだゾ。しかも、かなり強力で新しい術式だ。こんなの、そこらの妖怪じゃ使えないはずだ……」

その時、祭壇の陰から、ヌッと巨大な影が姿を現した!

「何奴だ!」

それは、身の丈八尺はあろうかという、全身が青黒い鱗に覆われた、亀のような頭を持つ大男だった。その背中には、まるで岩石のような巨大な甲羅を背負い、手には血塗られた大鉞おおまさかりを握っている。その顔は、まさしく獄卒のゲンブであったが、以前助平太が見た時よりも、その体躯は一回りも二回りも大きくなり、全身からおぞましい妖気が立ち昇っている。

「……フン、嗅ぎ回る鼠どもめが。よくぞここまで辿り着いたものよ。だが、ここがお前たちの墓場となる」

ゲンブの声は、地鳴りのように低く、威圧感に満ちていた。その目は赤く濁り、正気とは思えない光を宿している。

「おお!獄卒のゲンブ殿!そのお姿、以前にも増して逞しく、そして……実に『むっちり』となられましたな!その甲羅の硬質感と、そこからはみ出す贅肉のアンバランスさ!まさに、剛と柔の奇跡的な融合!この助平太、貴殿のその肉体美に、ただただ感服するばかりでござる!」

「……貴様、やはりただの変態ではないな。その目で俺を見て、恐怖を感じぬとは」

ゲンブは、助平太の常軌を逸した賛辞に、わずかに眉を動かした。

「恐怖などと!むしろ、この滾るような興奮をどうしてくれるのでござるか!さあ、ゲンブ殿!その鍛え上げられた肉体で、拙者と熱き『美の問答』を交わそうではござりませぬか!」

助平太は、筆をまるで剣のように構え、ゲンブに向かって一歩踏み出した。

「面白い。ならば、その減らず口、我が鉞の錆にしてくれるわ!」

ゲンブが大鉞を振り上げ、地響きと共に助平太に襲いかかってきた!

「カゲリ殿、プルルン殿!ここは拙者にお任せを!あの豊満なる肉体は、拙者の筆でなければ捉えきれませぬぞ!」

「馬鹿者!一人で敵う相手か!」

「このド変態、死にたいのかゾ!」

カゲリとプルルンの悲鳴が、祠の中に木霊する。果たして、助平太は、この強大な敵を相手に、どのようにその変態性を発揮するのか?そして、魂喰らいの祠に隠された真実とは?鬼灯島の闇は、ますます深く、そして濃密になっていくのであった。


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