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転生三男坊、猫耳剣士と黒猫従魔と始める異世界建国録  作者: PawPaw2025Cat
第1章:猫耳剣士とギルドの街
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第4話|星印と昇格試験

第4話|星印と昇格試験

 トリエンの町――ロドナとは違い、ここは冒険者・錬金術師・魔術ギルドの各支部が集中し、王都に近い“監視都市”として知られている。

 レイたちが訪れたその日も、中央広場では数件の討伐依頼が貼り出され、冒険者たちが騒然としていた。


「ここがトリエン支部……なんか、空気がピリッとしてるね」


 猫耳剣士のミルが、しっぽを揺らしながら周囲を見渡す。

 シャドウはレイの肩であくびをかみ殺しながら、ぼそりとつぶやいた。


「魔術ギルドと兼任する支部だからな。星印持ちとなると、逆に警戒されるぞ」


「俺、まだ何もしてないんだけど……」


「それが問題なんだ。あんたの“存在”がすでに特例なんだよ」


 ギルドの扉を開けると、奥行きのある木造のホールが広がっていた。正面の掲示板には各種依頼、右手のカウンターには整った制服姿の職員。左奥には試験受付とランク昇格専用の窓口まである。


「……ようこそ、トリエン支部へ。ご用件をどうぞ」


 受付にいた黒髪の女性が、丁寧に頭を下げる。対応は柔らかいが、目の奥に“識別する者”の視線があった。


「レイ・フレル。ロドナ支部にて冒険者登録済み、D級認定、星印保持者です。情報の引き継ぎと昇格審査の件で来ました」


 カウンターの向こうで、女性の手が止まった。


「……星印確認のため、星晶板をご用意いたします。失礼ですが、こちらに手をかざしていただけますか?」


 提示された魔導具“星晶板”に手を添える。レイの胸元がわずかに発光し、反応が伝導する。


 周囲にいた冒険者たちが、さっと視線を向けた。

 なかには、目を細めてこちらを値踏みするような魔術師風の男もいる。


「――確認完了。“星印共鳴度・AA”判定。これは……かなり高いわね」


「共鳴度AAって高いんですか?」


「最高位に近いです。通常、王都本部に招かれるか、あるいは――」


 その時、背後から声がかかった。


「なるほど。君が“特異共鳴者”か。ちょうどいい」


 長身の男が現れた。青銀のローブに身を包み、胸元には《ギルド教練官》の証が輝いている。


「レイ・フレル。君には“昇格試験”の推薦が入っている。今週末、“三塔試験区”で特別昇格枠の実技試験を受けてもらう」


「突然ですね……」


「星印持ちに“突然”はつきものだ。事前に一件、試験対象となる依頼をこなしてもらう。それも含めて、君の“今”を見たい」


 男の視線は冷静で、どこか試すようでもあった。


「その依頼、どんな内容なんです?」


 ミルが一歩前に出ると、教練官は手元の書類を提示する。


【試験任務指定】

任務:迷宮跡“ティールの亀裂”調査/魔物掃討

推奨人数:3名以上

危険度:B-級

報酬:試験評価による変動+素材別支給


「なるほど……本気の試験ってことか」


 レイは静かに頷いた。新たな壁、新たな出会い、そして新たな力を得るため――

 この“次の一歩”を踏み出さなければならないのだ。

  トリエン支部での再認証と、昇格推薦――。

 それはレイにとって「力が認められた証」であると同時に、「星印持ちとして監視対象になる」ことを意味していた。


「試験の前に、この“指定任務”をクリアしろってことね?」


 ミルが教練官の手渡した書類を確認しながら眉をひそめる。


「“ティールの亀裂”……名前からして物騒ね。これ、迷宮跡じゃないの?」


「そう。かつて封印結界で閉ざされた場所だけど、最近になって局所的な魔力漏れが観測された。星印持ちの反応に“同期”する可能性があるらしくてね」


 教練官は静かに言った。そこには、ただのギルド職員以上の“思惑”が滲んでいた。


「……つまり、俺の星印が“何か”と共鳴する可能性があるってことか」


「そう解釈してくれていい。言い換えれば――試験と探索を兼ねた“誘導”でもある」


「ふむ、面白くなってきたな」


 シャドウが肩の上でしっぽを揺らす。


「それと、この任務には“同行者”をもう一人、推薦している」


 教練官が横を向くと、後方の待機スペースからひとりの少女が歩み出た。


 すらりとした細身の体、肩まで伸びる赤紫の髪、真紅の瞳。

 その腰には魔導短杖と小さな調合鞄。肩には何やら煙を吐く小型のフラスコ型従魔が乗っていた。


「紹介する。“国家認定・見習い錬金術師”、フローラ・イーゼルだ」


「フローラ・イーゼル。……君が、レイ・フレル?」


 少女はまっすぐにレイを見つめ、少しだけ口元を引き上げた。


「星印を持つ転生者。……興味はあるわ。サンプルとしても、戦力としても」


「……なんか怖いこと言ってないか?」


「気にしないで。ただ、必要なものを“形”にするのが私の仕事。あなたの“欠片”がどう反応するのか、見てみたいだけ」


 フローラの態度に、ミルがすっと一歩前に出る。


「レイに“妙な調合”とかしたら承知しないからね?」


「あら、剣士さん。あなたの神経反応も測ってみたいけど?」


「にゃーお……バチバチしてんなあ」


 シャドウが苦笑まじりに空気を和ませる。

 そんななか、ミナがぽてんと足元に着地して言った。


「新しいお姉ちゃん、ちょっと変なにおいするけど……悪い人じゃないにゃ」


 その一言で、場がほんの少しだけ和んだ。


「ともあれ、チームは三名+従魔で構成される。出発は明朝。“ティールの亀裂”第3階層が目標だ」


 教練官が静かに告げる。


 レイは一同を見渡し、小さく頷いた。


「じゃあ――試験、受けてみるか。次の一歩を踏むために」

  トリエン支部での再認証と、昇格推薦――。

 それはレイにとって「力が認められた証」であると同時に、「星印持ちとして監視対象になる」ことを意味していた。


「試験の前に、この“指定任務”をクリアしろってことね?」


 ミルが教練官の手渡した書類を確認しながら眉をひそめる。


「“ティールの亀裂”……名前からして物騒ね。これ、迷宮跡じゃないの?」


「そう。かつて封印結界で閉ざされた場所だけど、最近になって局所的な魔力漏れが観測された。星印持ちの反応に“同期”する可能性があるらしくてね」


 教練官は静かに言った。そこには、ただのギルド職員以上の“思惑”が滲んでいた。


「……つまり、俺の星印が“何か”と共鳴する可能性があるってことか」


「そう解釈してくれていい。言い換えれば――試験と探索を兼ねた“誘導”でもある」


「ふむ、面白くなってきたな」


 シャドウが肩の上でしっぽを揺らす。


「それと、この任務には“同行者”をもう一人、推薦している」


 教練官が横を向くと、後方の待機スペースからひとりの少女が歩み出た。


 すらりとした細身の体、肩まで伸びる赤紫の髪、真紅の瞳。

 その腰には魔導短杖と小さな調合鞄。肩には何やら煙を吐く小型のフラスコ型従魔が乗っていた。


「紹介する。“国家認定・見習い錬金術師”、フローラ・イーゼルだ」


「フローラ・イーゼル。……君が、レイ・フレル?」


 少女はまっすぐにレイを見つめ、少しだけ口元を引き上げた。


「星印を持つ転生者。……興味はあるわ。サンプルとしても、戦力としても」


「……なんか怖いこと言ってないか?」


「気にしないで。ただ、必要なものを“形”にするのが私の仕事。あなたの“欠片”がどう反応するのか、見てみたいだけ」


 フローラの態度に、ミルがすっと一歩前に出る。


「レイに“妙な調合”とかしたら承知しないからね?」


「あら、剣士さん。あなたの神経反応も測ってみたいけど?」


「にゃーお……バチバチしてんなあ」


 シャドウが苦笑まじりに空気を和ませる。

 そんななか、ミナがぽてんと足元に着地して言った。


「新しいお姉ちゃん、ちょっと変なにおいするけど……悪い人じゃないにゃ」


 その一言で、場がほんの少しだけ和んだ。


「ともあれ、チームは三名+従魔で構成される。出発は明朝。“ティールの亀裂”第3階層が目標だ」


 教練官が静かに告げる。


 レイは一同を見渡し、小さく頷いた。


「じゃあ――試験、受けてみるか。次の一歩を踏むために」

  その夜、レイたちは“星猫亭”に戻っていた。


 星灯樹の葉が静かに風に揺れ、宿の中庭は幻想的な光に包まれている。

 ミナは木の下で丸くなり、シャドウは梁の上からぼんやりとレイたちを見下ろしていた。


「明日、迷宮か……気が抜けねぇな」


「準備もだけど、あのフローラって子も気になるわよね」


 ミルがそう言って、ぐいと紅茶をひと口すする。

 彼女は剣の手入れを終え、いまはリラックスモードのようだった。


「錬金術師って、どうしても“裏がある”って思っちゃうんだよな」


「シャドウ、それ偏見」


「違ぇよ。経験則ってやつさ。物理より理屈が勝つやつらは、戦場で一番面倒くさい」


「でも、フローラは“前線型”だと思う。魔導具と薬の扱い方……かなり実戦慣れしてる」


 レイが静かに言った。

 その観察眼に、ミルが少し目を細めた。


「ふぅん、そこまで見てたの?女の子のこと」


「そ、そんなんじゃない。ただ、共闘する以上は気をつけて見てただけで……」


「……ふふっ。冗談よ。あんたは真面目だから、わかってるわよ」


 そんな軽いやりとりが、ほんの少しの緊張をほぐしてくれる。


 そこへ――ふわりと、風のように現れた存在がいた。


「……静かな夜だね、レイ」


 巫女衣をまとったネリィだった。

 彼女は星灯樹の下に立ち、夜空を見上げている。


「ネリィ……星、また動いた?」


「ううん。動きはない。でも……明日、君の“星の音”がまた少し変わると思う。そういう夜」


「星の音が……変わる?」


「うん。迷宮には“記録されてない星の断片”が眠ってる。君がそこに触れれば、星神が揺れる」


 ネリィの声は、あくまで穏やかだったが、そこに宿る意味は重い。

 星神フィル=シエラとの“共鳴”が、さらに深まるかもしれない。


「ミナは、レイと一緒にいくにゃ?」


「もちろん。一緒に行こう、ミナ。お前の風……きっと役に立つ」


「うにゃっ!」


 ミナが嬉しそうにしっぽを立てた。


 ミルはそんなやりとりを見て、苦笑しながら言った。


「……なにそれ、仲良しすぎでしょ。私の立場がないじゃない」


「じゃあ、全員で仲良しってことでいいだろ?」


「……うん、そうだね」


 星明かりの夜。

 小さな仲間たちと過ごす静かな時間は、嵐の前のほんの束の間の休息だった。


 翌朝、彼らは“ティールの亀裂”へ向かう。

 そこには、星と闇、そして新たな試練が待ち受けている。

  朝靄の中、トリエンの町外れ――“ティールの亀裂”と呼ばれる迷宮跡の入口に、レイたちは立っていた。


 地面には、亀裂というには不自然すぎる断層が広がり、中央には転移陣のような魔法陣が刻まれている。

 ギルドの監視官が控えており、簡単な確認を済ませると、試験開始の印を告げた。


「試験範囲は第三階層。出口の魔導標を起動できれば合格。……それと、途中の“記録晶”には忘れず接触してくれ」


「了解。行くよ、みんな」


 レイ、ミル、フローラ、そしてシャドウとミナ。

 四者四様の足音が、転移陣の輝きに飲まれて消えていった。


 


 * * *


 


 第一階層――薄暗い石の回廊。壁には崩れかけた文様、床のあちこちに割れた瓦礫。

 だが、空気には確かに“魔力の残滓”が漂っている。


「ここ、元は神殿だったのかもしれないにゃ」


 ミナがぽそっと言う。レイはその言葉に頷いた。


「たしかに……魔力の流れが“祈り”の方向だ。封印型の陣の配置に近い」


「油断しないで。こういう場所こそ、変異体が潜んでることがあるわ」


 フローラが魔導杖の先端に小瓶をセットする。揺らめく緑光が、周囲の“魔毒”を可視化していく。


「ミル、前衛頼む」


「任せて!」


 そのとき、回廊の奥――影の中から、低く唸るような音が響いた。


「来るぞ!」


 シャドウが跳ねる。次の瞬間、石の床を割って跳ね出したのは、牙を持った“石皮獣”。

 外殻は岩のように硬く、目は赤く染まり、瘴気を纏っていた。


「三体。反応は異常。通常個体じゃないわ、これ!」


 フローラが叫ぶと同時に、レイが前に出た。


「クロノ・フィールド展開!」


 時間操作魔法によって敵の動きを一瞬遅延させ、ミルが斬りかかる。

 だが、石皮獣の外殻は予想以上に硬く、刃が弾かれる。


「っ、固っ!」


「なら――ミナ!」


「了解にゃ!」


 ミナが空中で一回転し、風の尾を広げる。

 その風が巻き上がり、石皮獣の視界を乱した。


「今だ、レイ!」


「重圧崩し!」


 レイの拳が、空間のひずみと共に魔力を圧縮し、敵の外殻に叩き込まれた。

 “ガンッ”という鈍い音とともに、石皮が砕け、内部の核が露出する。


「核を狙って!」


 ミルの一撃が、今度こそ確実に石皮獣の心核を貫いた。


 一体、撃破。


 その後、シャドウが影から回り込み、残りの二体を翻弄。フローラの調合爆薬が命中し、瘴気を焼き払う。


「クリア。……早い段階でこんな強敵ってことは、第三階層はもっとヤバいわね」


「でも、行くしかない。あそこに“星の欠片”がある気がする」


 レイは胸元を押さえた。

 星印が、わずかに脈動している――まるで、何かを“呼んで”いるかのように。

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