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転生三男坊、猫耳剣士と黒猫従魔と始める異世界建国録  作者: PawPaw2025Cat
第1章:猫耳剣士とギルドの街
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第2話:「初任務と“風袋”の導き」

――第2話/「初任務と“風袋”の導き」

 翌朝、俺たちはギルドの掲示板の前にいた。冒険者の基本は依頼の受注。昨日の登録でパーティ認定を済ませたので、今日は初仕事というわけだ。


「ねえレイ、これなんてどう?」


 ミルが指差したのは、Cランク任務の札だった。【対象:魔鼠の巣の掃討】【報酬:金貨3枚】【依頼主:ロドナ町地下整備室】。内容としては初心者向けの範囲ギリギリ、といったところらしい。


「報酬は悪くないけど、掃討系って結構面倒じゃね?密集してると連続戦になるし」


「でも経験値稼ぎにはぴったりよ。それに地下迷宮系は、時々“落とし物”や“隠し部屋”もあるらしいの。運が良ければ、レアな素材が手に入るかも」


「ふむ……おいレイ、決めるなら早くしろ。俺の背中、見てみろよ」


 言われて振り返ると、シャドウの背中の毛がピンッと逆立っていた。


「……お前、また“変なの”感じてるのか?」


「正確には“呼ばれてる”って感じだな。下の方から、なにかが」


 猫の直感、というやつだろうか。シャドウのこういう感覚は今のところハズレがない。俺は札を取り、受付に持っていった。


「レイ・フレルとミル・ニャルティアのパーティ、“黒猫の爪”として依頼を受けます」


「はい、登録いたしました。地下路地・第3区画の入口から入ってください。鍵と地図はこちらに」


 受付嬢は淡々とした手つきで道具を渡してきた。いよいよ冒険者らしい任務が始まる――そう思った時、シャドウが俺の肩に飛び乗ってきた。


「なぁレイ、ついでに訊くが……あの“風袋”、持ってるか?」


「……ああ、あれか」


 俺は上着の内ポケットから、小さな布の袋を取り出した。前世ではお守りみたいな感覚で常に持っていたもの。触れると不思議な温かさがあって、転生したときもなぜか一緒に来ていた。


「それ、ずっと気になってたんだよ。俺からすれば“仲間”みたいなもんでさ」


「仲間?」


「うん。それ――一応、俺と同じ“神具系”なんだよ」


 ミルが目を見開いた。「それ、本当にただの袋じゃないの?」


「うん。袋っていうより……ま、寝てる奴?」


 シャドウの曖昧な言い方が気になった。袋を見つめていると、一瞬、布の表面に光が走ったように見えた。


「……まさか、これも“目覚める”のか?」


「かもな。ただ、タイミングは“本人次第”だ。無理に起こそうとすると逆効果かもしれない」


 シャドウがそう言った瞬間、袋の中からふにゃ、と小さな呼吸音のようなものが聞こえた。


 ミルは驚きと興奮が入り混じった顔で俺を見た。


「……本当に、いろんなものを引き寄せる人ね、レイ」


 そう言われて、俺は思った。


――これが、俺の“運命”ってやつなのかもしれないな。

 ロドナ町の地下、第3区画の入り口は、古い石造りの倉庫の奥にあった。管理人の老人に鍵を見せると、無言で鉄製の扉を開けてくれる。下り階段を数段進むと、空気は一気にひんやりと湿り気を帯び、静かな腐葉土の匂いが鼻をかすめた。


「うわ……思った以上に“ダンジョン”してるわね」


 ミルが剣を腰から抜いて言った。俺も木剣を手に、シャドウは肩の上で目を細める。


「魔鼠は群れる。早めに始末しねぇと、巣ごと暴れるぞ」


 通路は狭く、天井が低い。片手で松明を掲げながら進むと、壁に刻まれた魔法式がところどころで淡く光り、最低限の明るさは確保されているようだった。


 やがて開けた空間に出た。中央に小さな水路、周囲に足場。そこに、いた。


「チュィィィッ!」


 鼠というには大きすぎる。一匹で中型犬ほど、群れでざっと十匹はいる。牙は鋭く、目には赤い光。


「来るわよ!」


 ミルが先に飛び出す。剣が一閃、魔鼠の一体がその場に崩れ落ちた。残りが一斉に向かってくるのを、俺は迎え撃つ。反射的に魔力を放つと、手のひらから衝撃波が飛び、前方の鼠を吹き飛ばした。


「ちょ、おま、無詠唱でそれ!?初心者じゃないでしょ!?」


「まあ、ちょっとだけ、ね」


 俺はそう言いながら、魔力の感覚を探る。無限魔力とはいえ、制御しなければ暴走の危険がある。シャドウは俺の背後で尻尾を立てながら空気を読んでいた。


「左から来るぞ!」


 シャドウの声に反応して回転しながら斬る。魔鼠の爪がスレスレで頬をかすめたが、即座に一閃で落とす。


「連携取れてきたじゃないの、レイ!」


 ミルが嬉しそうに叫ぶ。彼女の動きは機敏でしなやか。猫族特有の反射とバランス感覚、そして攻撃の緩急のセンスが絶妙だった。


 十数分後、魔鼠の死骸を周囲に転がしたまま、俺たちは小休止を取っていた。


「ふぅ……思ったより体力使うわね、これ」


「油断すんなよ。まだ“巣”がある」


 シャドウがそう言った瞬間、袋――そう、“風袋”がわずかに震えた。


「ん……?」


「レイ、今なにか……」


「風袋が、勝手に――!」


 袋の口が勝手に開き、中からふわりと淡い光が漏れ出す。中には、丸まった何かがいた。黒と銀の毛並み、丸くふくらんだ体。――猫だ。


 猫だった。けれど、ただの猫ではない。その額には小さな星の痕跡があり、光を宿したような尻尾がぴくぴくと動いていた。


「……う、にゃあ……あれ……ここどこ?」


 しゃ、しゃべった。


 今度はミルが驚く番だった。


「猫……? 袋の中に……え、なにこの子!」


「……まさか、おまえ……おまえが“風袋”か?」


 俺がそう問いかけると、猫は一度まばたきをしてから、小さな声で答えた。


「たぶん……そう、だと思う……にゃ?」


 その猫は、まだ眠そうに目をこすりながら、俺の足元でふにゃ、と伸びをした。毛並みは黒と銀の混じったふわふわ系。見た目は愛らしいのに、その背中から漂う空気には、どこか“霊的”なものがあった。


「ふああ……にゃあ……ここ、あったかい……あ、レイだ。久しぶりだにゃ……?」


 聞き覚えのないような、でもどこか懐かしい声。小さい頃、ずっとポケットに入れていた風袋の中から、まさか本当に猫が出てくるとは思わなかった。しかも、喋った。


「……おまえ、本当に“風袋”なのか?」


「そう……呼ばれてた気がするにゃ。あんまり覚えてないけど、レイのそばにいたくて、ずっと眠ってたのにゃ……」


「眠って……俺の中で?」


「ちがうにゃ。袋の中。レイの“想い出”と一緒に……」


 風袋は、ぺたんと俺の膝に乗って丸まりながら喋った。その尻尾が、時折まるで風を感じるように揺れる。


「すごい……この子、ただの従魔じゃない。精霊寄り、もしかすると“神具従属型”……?」


 ミルが驚きを隠せない様子でじっと風袋を見つめている。その瞳には、猫神の巫女としての直感が宿っていた。


「うん、たぶん……レイの魔力と混じって、ずっと変化してたみたい。だから、今こうして……“起きられた”のにゃ」


「……俺が、おまえを目覚めさせた?」


「ちがうにゃ。レイが、“仲間がほしい”って思ってくれたからだにゃ」


 その言葉に、胸の奥がじんと熱くなった。確かに俺は、気づかないうちにこの世界で“仲間”を求めていたのかもしれない。ミルと出会い、シャドウと話し、ギルドに登録して、誰かと歩く未来を思い描いた。――その想いが、風袋を目覚めさせた。


「ふむ……こりゃあ正式に登録しないといけないかもな」


 シャドウが肩の上から言う。「この子、潜在的な従魔じゃなくて、契約済みの“神具従魔”。つまりレイ、お前の“魔力と想い”が育てた存在ってことだ」


「名前……どうしようか?」


「え?」


「“風袋”って名前、ちょっと変じゃない?もう、猫になったんだしさ」


 俺がそう言うと、ミルが微笑んで言った。


「“ミナ”ってどうかしら。“風の導き”って意味を持つ古語よ。猫神ネルに仕える風の精霊の伝承から取られてる」


 猫は、いや――ミナは、嬉しそうにぴょこんと尻尾を立てた。


「ミナ……いい名前にゃ!じゃあ、今日からミナなのにゃ!」


 こうして、俺たちの仲間に新たな存在が加わった。黒猫のシャドウ、猫耳剣士のミル、そして目覚めた風の袋――いや、猫のミナ。不思議と、俺の中に“これでようやく揃った”という感覚があった。


「レイ、そろそろ行こう。奥に巣穴があるはずよ」


「うん。行こう。――俺たち“全員”でな」


 ミナはふにゃと鳴いて、俺の足元をぴょこぴょことついてきた。その姿はまだあどけない。でも、その尾が揺れるたび、微かな風が背中を押してくれるような気がした。


 ギルドの初任務。出会いと覚醒。そして仲間との“最初の旅”が、ようやく始まった。

 

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