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序章:星の継承、時空の目覚め

序章:星の継承、時空の目覚め

 死ぬときって、もっとドラマチックなもんだと思ってた。走馬灯が走るとか、涙を流して誰かの名前を呼ぶとか、そういうやつ。でも実際の俺の最期は、想像よりも、ずっと静かだった。赤信号を無視した大型トラック。あのとき、誰かが叫んだ気がした。俺に、じゃなくて……遠くで。瞬間、体が浮いたような感覚。重さも、痛みも、恐怖も、なかった。そして気づけば、真っ暗な空間にいた。音も、色も、感情すらも存在しない、完全に“何もない”場所。なのに、やけに落ち着いていた。


「……よく来たな。おまえはここで、“選ばれる”ことになった」


 そんな言葉が、空間に溶け込むように響いた。どこから声がしたというよりも、言葉が直接、頭の中に流れ込んできた感じだった。目の前に“ひかり”が現れる。人のようで人ではない。時間の流れがそこだけ歪んでいるような、奇妙な存在だった。


「おまえの魂は、ひとつの環を繋げる力を持っていた。だからこそ、この“断絶しかけた世界”に――欠片を託す価値があると判断された」


「……世界?」自分の声が出た。意外だった。実感があった。この空間は夢じゃない。俺は本当に死んで、本当に“どこか別の場所”に来てしまったのだ。


「世界は終わりかけている。いや、正しくは“継承を拒んでいる”。だが、それでも星は回り、欠片は託される。そして、おまえが持つ“選択の意志”が、全てを決める鍵になる」


 理解が追いつかない。でも、なぜか恐怖はなかった。俺は死んだ。そして今、何かに呼ばれている。


「いいか、少年。おまえには三つの“贈り物”が与えられる」


 ひかりが、手を伸ばす。


「第一の力――“無限魔力”。それは、どんな魔術も限界なく操る力。だが制御を誤れば、世界を破壊する諸刃の刃だ」


「第二の力――“無限収納”。想念に触れた物を、記憶と共に保管できる空間。時間すらも凍らせることができる、永劫の箱」


「そして第三の力――“時空干渉”。瞬間を斬り裂き、空間を歪ませ、未来を仄かに知る力」


 ゲームみたいだ、と思った。でも、なぜだかそれが夢のようには感じられなかった。現実味がある。感覚が、脳に直接焼きついてくる。


「そして、これは“贈り物”ではなく“欠片”だ」


 ひかりが、胸元に浮かぶ淡い光の欠片を、そっと俺の中へと押し当てた。温かくて、どこか寂しくて、まるで誰かの願いが宿っているようだった。


「その欠片は、“星神”のものだ。かつて世界を照らした理そのもの。だが今は砕かれ、眠っている。おまえがそれを目覚めさせる鍵となる」


 欠片は、俺の中に溶けていった。


「名前を……」


「レイ。俺の名前は、レイだ」


「良い名だ、レイ。では、そなたの旅に祝福を――“星環の継承者”よ」


 空が光に満ちていく。それはまるで、星々が再び生まれる瞬間のようだった。


――そして俺は、転生した。

 

 再び意識を取り戻したとき、天井があった。石造りではない。立派な木目と漆喰。天井に描かれた薄い花模様が、ゆっくりと目の焦点に浮かび上がる。布団の感触。木製のベッド。窓の隙間から入る光が、穏やかに揺れていた。自分の体が動く。眠っていたのか、転生の直後だったのか、感覚が混乱していた。


「目を覚まされましたか、レイ様」


 静かな声がした。ベッドの横に控えていたのは、銀髪の執事服を着た老人だった。物腰は柔らかく、どこか品のある雰囲気が漂っている。


「……ここは?」


「フレル家の西館でございます。レイ様は落馬により頭を打たれ、しばらく眠っておられました」


 落馬。おそらくそれが“前世の記憶が入る前のこの体”の状態だったのだろう。俺はレイ・フレル。辺境領にある小規模な男爵家の三男。継承権はなく、騎士見習いにもなれず、屋敷内でもそれほど期待されていない立場……それがこの体の設定らしい。


「しばらくは安静に。魔力量の測定や家の行事は数日後に延期されております」


 魔力量?あ、そうか。ここは魔法のある世界なのだ。まさに“異世界転生テンプレ”というやつだ。でも不思議と、心は冷静だった。むしろ、現実味を帯びている。魔法も、世界も、空気すらも。


 少しずつ身体を起こし、部屋の中を見渡す。家具は木製で統一されていて、装飾こそ質素だが、手入れは行き届いている。使用人の気配も、遠くに感じられる。そして――視界の端に、黒いもふもふがいた。


 ベッドの足元。絨毯の上に、黒猫が座っていた。漆黒の毛並みに、金と紫のグラデーションが浮かぶオッドアイ。ただの猫ではない。間違いない。あれが――


「シャドウ……だよな?」


 黒猫は、尻尾をひとつふわりと揺らした。


「ようやく起きたか、主人様。ま、正直いつもの“転生混乱期”ってやつで寝てると思ってたが」


 ……喋った。黒猫が、普通に人間みたいに言葉をしゃべった。しかも、完全に馴れ馴れしい。


「おまえ、俺のことを――」


「“レイ”。おまえがそう名乗ったからな。創造神の言葉、俺もちゃんと聞いてたぞ。おれはシャドウ、契約済みの従魔ってやつだ」


 まさかの契約済み。自分ではまったく記憶にないが、転生時に“魂ごと契約”されたらしい。なんという親切設計。というか、チートすぎる。


「俺、おまえのこと……どこかで知ってた気がするんだ」


「そりゃまあ、何度目かの“転生先”では出会ってたかもな」


「何度目?」


「んー、言っても信じないだろうが、俺たちの縁は結構深い。ま、それはおいおい思い出すとして……今のおまえ、ちゃんと魔力量測れる状態か?」


 シャドウは尻尾をぴんと立てて言った。その瞬間、部屋の扉が軽くノックされる。


「失礼いたします、レイ様。魔力量測定のため、魔導士の先生がお見えです」


 来た。異世界の“定番イベント”その2――チート能力のお披露目だ。


「どうする? 測ってもいいのか?」


「測らないと進まないだろ。むしろ壊すつもりでやるよ」


 俺はそう言って、布団を蹴って立ち上がった。


 そしてシャドウは、嬉しそうに「いいぞ」と言った。

 応接室に案内された俺は、白衣を着た中年の魔導士と向かい合っていた。背筋の伸びた彼は、淡々とした口調で魔力量の測定について説明を始める。


「魔力量測定は、この魔晶石に手をかざすだけで行えます。反応により色が変化し、量に応じた数値が表示されます。通常、成人男性で平均は【100】前後。貴族の血筋であれば【200】を超えることもあります」


 魔晶石は淡く青白く輝いていた。見るからに魔法の世界の産物。俺はその表面に、ゆっくりと手をかざす。すぐに石が光り始めた。青、緑、黄色、赤――光が変化し、内部が明滅する。そして、部屋の空気が一気に震えた。魔晶石が唸りを上げ、測定装置が軋み、数値表示の魔導具がビリビリと音を立てて、


 ――バチンッ、と破裂音と共に煙を上げて停止した。


「な……なんだこれは……!?」


 魔導士が目を見開く。執事も使用人も、息を飲んだまま言葉が出ない。俺自身も驚いていた。力を込めたつもりはなかった。ただ、普通に手をかざしただけだ。それなのに――装置が、壊れた。


「こりゃあ、測定不能ってやつだな。想定以上の魔力量、または存在そのものが“計測対象外”ってことだ」


 隣でシャドウがククッと笑う。俺の力は、“普通の枠”では測れないらしい。


「レイ様……これは王都に報告すべきレベルの異常です」


 執事の声は冷静だが、目が泳いでいた。測定不能。普通なら恐れられる。それでも、何かが始まる感覚があった。これは俺に与えられた力。そして、この世界での“居場所”を掴む第一歩。


 応接室を出て、自室に戻る途中。廊下の窓から空を見上げた。どこかで見たような、優しい星の光が滲んでいた。


「なあ、シャドウ。俺って……何者なんだろうな」


「さあな。でもひとつだけ確かだ」


「なんだ?」


「おまえの中には“星の欠片”がある。神に選ばれた証ってやつだ」


「そんなもんがあっても、俺はただの三男坊だぜ?」


「でもその三男坊が、神の力を持って、黒猫と旅をする――そりゃあもう、面白そうじゃないか」


 シャドウの尾が、ふわりと揺れる。なんだか少し、心が軽くなった。


「……で、これからどうすればいい?」


「決まってんだろ。仲間を探して、力を集めて、世界をひっくり返す。まずはギルド登録だ」


「ギルドねえ……」


 俺は軽く息を吐いて、空をもう一度見上げた。星が、ゆっくりと瞬いている。この世界は、たぶんまだ眠っている。けれど、その眠りを覚ますために、俺はここに来た。チートでも、転生でも、星の継承者でもかまわない。どうせなら、やってやる。


――これはきっと、世界を変える物語の、ほんの始まりだ。

 

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