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6話 休日②

酔いが覚めたあとは、できるだけ激しくないアトラクションを回った。と言っても結果的に激しいのには乗ったが、もう体が慣れたからか、2回目以降は平気になっていた。


お昼ご飯を食べて、午後になった時には人が園内に溢れかえっていて、歩こうとするだけで精一杯になっていた。


「すごい人ですね」

「だね、離れないようにね」

「はい!……あの」


人混みの中、彼女の方を振り向くと、彼女は僕の方を見ないように、顔を近づけて、周りに聞こえないように俺に言う。


「はぐれないように、手を繋いでもいいですか?」


一瞬理解が追いつかなかった。

理解して、一瞬湧いてきた考えを即座に否定する。彼女は大学生で、俺はもう中年のおっさんだ。


「う、うん、いいよ」

「えへへ、ありがとうございます」


顔と顔を離して、彼女は俯いて、俺からもわかるくらい耳を赤くして俺の手を握る。彼女の手は冷たいのか、あるいは暖かいのか。そんなことすらわからなかった。


「じゃ、じゃあ行こうか」

「は、はい」


ぎごちない会話。まるでそれは、出来たてのカップルのようで。何年も忘れていたこんな気持ちに、どうしていいか戸惑ってしまう。


もしかしたら……


そこまで考えたけど、やっぱりわからなかった。

それからの会話もあまり覚えていない。


日が落ちて、園内の有名スポットがライトアップされ始める。昼ほど客はいなくて、客層もカップルに偏る。


「わぁ、綺麗ですね、お城」

「そうだね、やっぱり上から見ると違うね」


最後に観覧車に乗りましょうと、彼女に誘われて乗ってしまった。2人きりという状況に、今日何度経験したかわからない気持ちを感じていた。


「大輔さん、今日はありがとうございました。お土産まで」

「いいよ全然。これはひなたさんに対するお礼だから」

「そう……ですよね」


何かを考えるように、ゴンドラから覗く景色を眺める彼女の、今まで意識してこなかった、彼女の横顔や大人びた服装を、嫌でも意識してしまう。


「あの、大輔さん」

「ん?なに?」

「隣に座ってもいいですか?」


話しかけられたと思ったら、微笑みながらそんなことを言う。


「うん、いいよ」

「ありがとうございます」


彼女は席を立って、俺の隣に座る。ゴンドラが少し傾くのを感じて、それから、彼女の匂い、腕が触れ合っている感覚、彼女を近くで感じた。

もしかしたら、この緊張は彼女にバレているかもしれない。

誤魔化すように、明るい声で


「どうして遊園地に来たかったの?」


聞くと、彼女ははっとしたようにこちらを向き、少し間をあけて


「わからないです。けど、大輔さんと来たかったんです」

「なにそれ」

「わからないです」


ふふっと軽く笑う彼女。


「ねぇ、手を繋いでくれませんか?」

「え?」

「ダメですか……?」


夜景に照らされ、真っ赤になった彼女の顔が見える。手を繋ぐ理由がない。そんなのは分かっている。


「いや、さすがに……」

「私へのお礼なんですよね」


そう言って、無理やり彼女の手が俺の手の中に入り込んでくる。しかも、指を指の間に入れ込むように。


「どうしたの?いきなり」

「ごめんなさい、でも今日はこれがいいんです」


ゴンドラは観覧車のてっぺんに着き、降り始める。下ではパレードが始まったのだろうか、音楽が小さく耳に入る。だが下は見る余裕はなく、彼女から目が離せなくなってしまう。


どこまでも彼女を知りたいと思った。


ゴンドラがに下につくまで、着いてからも、手を解くことはなかった。

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