2話 出勤の前
月曜日。
いつも起きる時間の30分前にかけておくアラーム。いつもは3回くらい聞き流すが、今日は一回で起き上がる。月曜はいつも憂鬱なのに、今日は体が軽い。
顔を洗って、歯を磨きスーツに着替える。
あんまり気にしなかったひげを剃り、髪にワックスを付けて鏡で何回か確認する。学生の頃は周りを気にして毎日のようにやっていたことだが、歳かなぁと実感する。
ひなたさんとの約束のために、部屋を出て会社に行く前に、俺は隣の部屋に足を向けた。目がいつもより冴えている。
ピンポーン
少し緊張しながらひなたさんの部屋のインターホンを押す。しばらくしてから扉が開き、
「おはようございます、大輔さん」
「うん、おはよう」
「朝ごはんできてますよ、食べましょう」
「ありがとう」
彼女を前に緊張が隠せなくなり、返事が固くなってしまう。
部屋に入ると、この前の甘い匂いと生活感のある部屋があって、ここでひなたさんが生活する姿が想像出来る。
「私もそろそろ朝ごはん食べたら出ようと思ってまして」
「そうなんだね、俺迷惑じゃない?」
「私が提案したんですし、大丈夫ですよ。それに、私が作りたいんです。それじゃあ準備しますね」
「うん、よろしく」
今日は味噌汁とご飯に焼き鮭という、一人暮らしの女子大生の朝ごはんとは思えない充実した献立だった。
「ひなたさん凄いね、これ毎日用意してるの?」
「いえ、今日からは大輔さんが来てくれるので……少し、頑張りました。」
……俺のために頑張ってくれる。その言葉だけでも、俺は今日を頑張れると思った。これはまるで……
そこまで考えて顔が熱くなってしまう。
「あ、えと、じゃあいただきます」
「どうぞ!」
食卓で向かい合って、ぎこちない感じで朝ごはんを食べ進める。会話もなく流れる時間。
「うん、とってもおいしかったよ、ご馳走様」
「はい!お粗末さまです」
「それじゃあ行ってこようかな」
「あ、ちょっと待ってください!」
キッチンに向かって言った彼女は、布で包まれた小さな箱を持ってきた。
「これ、良かったら食べてください……」
「え、弁当!?」
「は、はい。嫌なら私が食べますけど」
真っ直ぐな目で僕に弁当を差し出してきた。
「ほんとにありがとね、じゃあ、貰おうかな」
「……!はい!ありがとうございます」
顔を輝かせる彼女。
「じゃあ、行ってこようかな」
「はい、行ってらっしゃい」
「弁当夜返しに来るね」
「はい!感想待ってます。」
アパートを出てから、さっきの思考が蘇る。
……これって、夫婦みたいだな。