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一章/6話『火蓋を切る急襲』

 辺りは薄暗く、昼間の喧騒を忘れそうなほどの静寂が支配する町中。

 道の真ん中を並んで歩く、見回り中のジークとシャナ。


「――おい、」


「分かってるって」


 ジークの深刻な表情に、シャナは「はいはい」と流すように答える。

 しかし、互いに互いの思う事は、意向は、確かに理解し合っている様に。


「広場まで、だ」


 その一言以降、二人は言葉を交わす事なく、広場までの道のりを黙々と歩いた。広場の中央に設置された鎧姿の石像。そこまで歩くと一度足を止め、背中合わせになる。


 ジークは腰に挿した剣を抜き、シャナはその手に水を以って剣を造り、互いに戦闘準備をする。


「あら?あららら?」


 広場に繋がる通路の一本。ジークたちの向かい側から聞こえてくる、おちゃらけた声。


「あら?じゃねえ、糞っ垂れ。こんな市街地ど真ん中で尾行たぁ、で何のつもりだ」


 ジークの怒鳴り声に触発されるようにして、通路から一人の男が出てくる。

両手をプラつかせ、劇でも演じるように、大げさな足取りでの登場。

 赤で統一された三角帽子と貴族風の上下、それから腰には黄金のヒルトを持った剣。一言でその奇抜な衣装を表すのならば――海賊。


「気ー付かれちゃった?いーやっはや、恐れ入るねっ!さっすが「騎士団長」様じゃないか~」


 帽子を指で弾きながら海賊風の男はジークとシャナの前に歩き出る。そして、改めましてと言わんばかりに笑みを作り直し、


「吾輩、キャプテン・ハウフリッドっと申しますっ★」


意気揚々とした挨拶に送られるのは、ジークとシャナの敵意の視線のみ。それを快く思わなかったのか、ハウフリッドは少し残念そうに口を窄める。


「あんまり変な真似すんなよ。あんた、こっちからすりゃ十分連行必須の不審者なわけ。大人しく連行されてくれる?」


 水の刃を瞳に向けられるも、依然ハウフリッドの余裕綽々、飄々とした表情は崩れない。寧ろその不敵な笑みには磨きがかかる。


「うーんうんうんうーん……悪いねぇ、君のように可憐なレディからのお誘い――断りたくは、無いんだがねっ?」


 その瞬間、シャナが視界に捉えていたはずの敵は消失する。直後、ハウフリッドの足に側頭部を薙ぎ払われて、その身は砂埃と共に広場を横断する。


 ジークが一瞬、シャナの身を案じるように砂埃へ目を向けるが、その油断を許さぬように下腹部からの蹴り上げ。紙一重で避けて後方へ下がり、体制を立て直す。


 対してハウフリッドはそれに追撃せず、身を翻して、石像の頂点……頭部を片足で踏みつけ陣取る。

 

「ん~、さぁっすがに君相手じゃ……肉弾戦は自信がないかなっ」


 天に向けてピンと立てられたハウフリッドの人差し指。その周囲を無数の球体が旋回しだす。一つ一つは鉄砲玉サイズだが、その総数は優に千を超え、ハウフリッドの体を覆い尽くさんとしている。


「さぁ、さぁさぁっ!それじゃあ……」


 ハウフリッドが指を鳴らすと、それに連動するように全ての球体が旋回の軌道を変える。瞬時に全ての玉は鍛え抜かれた軍隊のように、半球状の陣形を成す。中心に、ジークを据えて。 


「ショーッタインムっ★」


 球体による、一斉射撃。完全包囲状態から繰り出される――不可避の攻撃。

 立ち上る硝煙に、広場は一時完全に埋め尽くされるも、次第にそれらは霧散していく。広場は圧倒的質量によって抉られていた。


 が、窪んだ地面に死体は、無い。


 ハウフリッドがそれに気付居た時、時既に遅し。僅かに残った硝煙を吹き飛ばす、高速の影が走る。


「化物か、君ってやつぁ!」


 咄嗟の回避行動虚しく、ハウフリッドは背後からの斬撃に、右肩一帯を切り飛ばされる。痛みに食いしばるような声を漏らしつつ、石像から足を踏み外し、宙を舞う。


「んな実力で挑んでくるたぁ、大間抜けだなァ?」


 血を撒き散らしながら落下途中の体を、ジークが地面に向けて踏み抜く。今度のダメージには声すら上がらない。


 両者とも地に落ち、ピクリとも動かないハウフリッドの頭を踏みつけるジークと言う構図。


「あの石像は英雄のもんでなぁ、バチが当たったんじゃねか?」


 勝利後の余裕に、ジークがゲラゲラと笑う。と、その向かいから、シャナが砂埃を払いながら現れた。吹き飛ばされた勢いに対して、随分と元気そうに。


「あんくらいで不覚を取るたぁ、情けねえなぁシャナ?」


「あっそ、痩せ我慢しながらの減らず口は格好つかねえぜ」


 シャナが指を向けるのは、ジークの腹部。そこには無数の弾痕から血液が垂れていた。


「ってか何発受けたんだよ?」


「12か13か……酷けりゃ15は貰ってっかもなァ?」


 間違いなく早急な治療を要する重症。それをあっけらかんと語るジーク。


「まぁ実際、油断してる初手で決めなきゃマズかった」


 一気に真剣な面持ちになったジークに、一瞬怯えた表情をするシャナだったが、気を取り直して話を変える。


「そんで、あんたにそこまで言わせるこいつは誰なんだよ」


「さぁな?襲ったのも私怨って訳じゃねえだろう。とすりゃあ、騎士団に牙を向ける理由は多くねェ」


 ジークが足を除けるが、仰向けで倒れているハウフリッドの顔は丁度帽子で隠されており、顔が見えない。

 シャナが確認の為、しゃがみ込んで帽子をずらそうとした時……ハウフリッドの髪の毛がほんの少し、手に触れた。その瞬間――


 シャナは右肩から大量の血飛沫を上げ、無言でその場に伏した。


「んっんーんっ★」


 シャナの倒れ込む横で致命傷を受けていたはずのハウフリッドは、身を回しながら起き上がる。その動作に、抜剣の動作を織り交ぜて。

 ジークは眼の前の急展開に数手対応が遅れる。そして、その代償は腹部への斬撃。

 剣を地に突き立てて膝を付くジーク。

 その視線の先。月下、未だにハウフリッドは踊るかの如く身を回していた。

――右手に剣を持って。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「はい……そう、ですよ。ここは王都ヒューウェルです……」


「はぁ~、なるほど」


 テーブル越しに向かい合った二人の間に流れる沈黙。しばらくした後、胡乱げな眼で、


「――あの、本気で言ってます?」


「勿論」


 本気も本気。「異世界」と言う大まかな区分で満足し、クヌギは自身の現在地――その名を知らなかった。


 それはそれとして、どうしてこんな異世界常識をクヌギが習っているのか。

数分前に上がっていた話題、「ルゼの行動がおかしい」というのは本人に聞けば解決するだろうという事で流れた。

 そしてその後に、クヌギが「ついでにい国の情勢でも教えてもらえないかな……」と漏らしたことで今に至る訳だ。正確に言うのであれば、それに対してシエナが「国家間の情勢でしたら、私も詳しいですよ」と、親切心を発揮したことが原因。


「そうですか……」


 続けざまに小声で「可哀想」と聞こえ、クヌギの心が少し痛む。

 と、その時、騎士団の入口をノックする音がした。


「ジークさんですかね?」


――一言挨拶したら、そろそろ寝床探しに勤しむか……。


「いや、多分違う方ですよ。あの人達はノックなんてしませんから」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――






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