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短編(コメディ)

メリーさんは帰れない

作者: 裏道昇
掲載日:2024/12/24

久しぶりに完全なコメディを書いてみました。

よろしければ読んでみて下さい。

 土曜日にも関わらず、何もせずベッドで寝転がっていると、スマホが鳴った。

 見たことのない番号だったが、とりあえず出る。


「……もしもし」


 相手が何も言わないので、俺は少し警戒した声を出す。

 さらにしばらく沈黙してから、か細い声が聞こえてきた。


「あたし、メリーさん……」


 思わず息を呑む。あまりにも有名な怪談だった。

 だが、今時の悪戯電話にしては珍しい気がする。


「あたし、今……」


 悪戯だと思っても、少しだけ緊張してしまった。

 元々は人形が段々と近づいてくるという話だったはず。


「……どこにいるの? ぐすっ」

「迷子じゃねーか!」


 膝から崩れ落ちた音がした。

 両手で顔を覆って天を仰ぐ姿すら見えた気がする。


「ここどこぉ……?」


 知らねーよ。お前が教えるんだよ。

 とんでもない電話が掛かって来た。


「あの、もう切っても……?」

「イヤ! 切らないで! 今切ったらもう出てくれないでしょ!?」

「まぁ……ぶっちゃけしつこいなら、着信拒否も……」

「お願い! 話を聞いて! 協力してもらえないと帰れないのよ……」


 話を聞くと、自分は本物の『メリーさん』だと主張していた。

 電話に出てもらえないと移動できない……らしい。


 どうすれば良い?

 悪戯ならまだしも、万が一にでもただの迷子だったら困る。


「えっと、電話なら何でも良いんだろ? じゃあ、そう言うのは警察に……」

「あのね? あたしがどれだけ他人の後を付け回したと思う?」

「言い方よ……それがどうした?」

「バカ! あたしが警察になんて行ってみなさい!」

「この状況で俺にバカって言えるのすげーな……」

「絶対、自首しに来たって思われるわ!?」

「素直に迷子だって言えっ!」

「イヤよ! そんなことしたら『メリーさん』の老舗ブランドに傷が付くわ!」

「老舗ブランドって言うなよッ!?」

 

 正直、その表現の方がよほどイメージに悪い。

 しかし俺が叫んでも、癇癪を起こしたメリーさんは止まらない。

 

「間違いなくネット記事にされるんだから!

 きっと見出しは『あたし、今……警察署にいるの』よ!」

 

「…………」

 それは何となく有り得そうだった。


「ストーカー規制法とか引き合いに出されるんだわ!?」

「ちゃんと知ってるのも何かイヤだなぁ……」


 終いには泣き出してしまった。

 悪戯電話の方がマシな気がする。


「……ぐすん」

「あー、今まで同じようなことはなかったのか?」


 ついつい聞き返してしまった。

 だが、放っておくわけにもいかない。


「五十年近く怪異やってるけど、初めてよ」

「……そういう感じなんだな」


 勝手な想像だけど、タクシーの運転手みたいなことを言う。

 初めて道に迷ったとか、飲みの場で言われそう。


「はぁ。何か『目印』になるものは?」

「え? えーと……」


 俺が鉄板の質問をする。メリーさんは周囲を見回しているようだった。

 いや、本当はお前がその『目印』を伝えるんだけどな。


「すごく暑い森の中よ。それと遠くで部族の方々が踊っているわ。儀式かしら」

「いや、マジでどこだよ!?」


 南米とかジャングルとかそういう?

 そりゃあ「ここどこぉ……?」ってなるわ。


「どうしてそんな場所に?」

「わかんないけど、今回は出来るだけ遠くから始めようと思ったの」

「じゃあそれが原因だろ!?」

「あちゃあ……融通きかないなぁ……」

「アバウトすぎるんだよ! 何で遠くから? 普通はそこそこ近い場所だろ?」


 確か大元はゴミ捨て場だったはず。どう間違っても海外ではない。

 正確な位置を聞いても、こっちが分からねぇよ。


「たまには変化球も必要かなって……」

「いや、お前は直球じゃなきゃ駄目だろ」


 こんな変化をつけられたら、びっくりするわ。

 メリーさんも疲れてたのか……?


「仕方ないじゃない! 曖昧な距離の指定が精一杯なのよ!

 こんな高位の空間転移、あたしじゃ正確な場所の指定までは……」


「能力が未熟だって言ってんじゃねぇよ!

 曖昧な距離の指定が曖昧すぎるって言ってるんだよ!」

 

 しかし、改めて言葉にするとメリーさんってすげぇな。

 ちゃんと『空間転移』って認識なのか。


「……まあ良いや。とにかく次の電話に出れば良いんだな?」

「ええ、そうよ!」


 何で偉そうに出来るんだ。ここまでに誇れるところは一個もなかったぞ?

 ぶっちゃけ、俺の中で老舗ブランドはかなり傾いている。


 ま、ただ電話に出れば良いだけなら付き合おう。

 出るだけなら通話料金も掛からない。何かあれば切れば良い。


 ……俺は電話を切った。




 電話に出る。


「あ、あたし、メリーさん……」


 予想通りの相手だった。さっきと同じ声。

 すぐに俺の後ろに現れるって話だったが……。


「あたし、今……」


 ? 自分の部屋を見回しても異常はなかった。

 まあ、悪戯で片付ければ良いだけの話ではあるが……。


「……こ、氷の上にいるの」

「そうはならないだろ!?」


 よく聞けば、風の音が聞こえてきた。吹雪の中にいるようだ。

 メリーさんの声も震えている。


「寒いよぉ……」

「そりゃ、さっきまで熱帯地域にいただろうからな」


 寒暖差どころの話ではない。

 だが、それ以上に気になるのは……。


「何で日本まで一気に戻らなかった?」

「回数を三回に設定しちゃったの……忘れてた……」

「何で三回!? 出来るだけ遠くからやりたいなら、三回じゃ足りねぇだろ」

「デフォルト設定で……」

「惰性でやってんじゃねぇか、やめちまえ」

「酷いこと言わないでぇ……寒いの……あ、眠くなってきた……」

「…………」


 待てよ。このまま放っておけば、メリーさんを退治できるのかもしれない。

 ひょっとすると、その方が世の中のためになるのでは?


「……呪ってやるぅ」

「ち」


 流石に年季が違う。

 こちらの嫌がる台詞を的確に言った。


「もう良いよ。さっさと移動して、駄目だったらまた掛け直せ」

「その感じは……やめて……邪険に扱わないで……! 敬って……!」


 ……めんどくせぇ。死ぬ間際でもめんどくせぇ。

 俺はスマホの電源をぶち、と切った。




 数秒と経たずにスマホが鳴ったのですぐに出た。


「あたし、メリーさん……」


 また同じ声。

 だけど……あれ? 後ろからも声が聞こえる?


「あたし、今……あなたの後ろに……いる! やったぁ!」


 西洋風の少女の人形がぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

 金髪は痛み、豪華なドレスは汚れている。

 

 だが、先ほどまでは確かにこんな人形はいなかった。

 と言うことは、信じがたいことだけど……。

 

「本物、だったのか」

「そうよ! 本物に決まってるじゃないっ!」

 

 そう言って、西洋人形は「ふん」と胸を張った。

 これがかつて日本を震撼させた『メリーさん』の本当の姿だったのである。

 

 ……老舗ブランドは死んだ。

 



 日曜日。

 

「……なぁ」

「何よ」


 メリーさんは未だ俺の部屋にいた。俺のベッドの上でごろごろと横になりながら、俺のポテチをつまみつつ、俺の漫画を読んでいる。


「もう自分の家に帰れ」

「んー、無理」


 なんでだよ、と目で訊ねる。

 メリーさんはにやりと笑う。


「今、良いところなのよ。ここ快適だし」

 自分が読んでいる漫画を指さした。


 溜息を吐いてしまう。

 俺のベッドは占領されたままだ。


「続きが気になって帰れないわー」

「…………」


 どうやら俺の部屋に居座るつもりらしい。


読んで頂きありがとうございます!

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