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苦手な方はご注意ください。

旧校舎のアサギリさん【声劇3人台本 男:女:不問 1:1:1】

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過度な改変アドリブは無しでお願いします。

オカ研のみ、自由に演じてください。

()の指示は自分達で演じる時用のメモなので、あまり気にしないでください。




教師:男

朝霧:女

オカ研:不問 口調の変更〇


ネタバレ付きのキャラクター解説は後書きにて

 オカ研生徒「ねぇ、先生知ってます? 旧校舎の首吊り幽霊。後輩も見たって言ってて」


 教師「居ねぇよんなもん。居てたまるか。やめろよ先生旧校舎の鍵番なんだから」


 オカ研「あ……先生幽霊こわいんだ。ウケる」


 教師「うるせぇよ。怖いだろ。襲われたらだいたい隠れるしか対抗手段ないのが無理。反撃出来ずに一方的に逃げることしか出来ないとか、理不尽だろ」


 オカ研「まぁ、昔話から往々にして化け物から逃れるには、朝まで身を隠すのがセオリーですからね。ところで先生」


 教師「ダメだ」


 オカ研「まだ何も言ってないじゃないですか! 生徒の話にまずは耳を傾けてくださいよ 」


 教師「お前の頼みは、どうせ旧校舎のカギを貸してくださいとかだろ。こちとら分かってんだよ、オカルト研究部の問題児め」


 オカ研「そこをなんとか……!! 今までの学校怪談と違って、旧校舎の首吊り幽霊は目撃証言があるんです!  放課後の目撃証言が多くてですね、夜中に忍び込むじゃないですよ! 他の部活動も活動している時間帯! なーんにも問題ありませんね!」


 教師「場所が旧校舎じゃなければな」


 オカ研「いいじゃないですか! このままオカ研成果なしじゃ悔いなく卒業できませんよ。えーんえんえん」


 教師「あー、夏休み明けたらな」


 オカ研「この嘘つき! 私がなんでこのテスト前の時期に頼んでると思ってるんですか! 夏休みに取り壊すって知ってるんですよ!」


 教師「……知ってたのか」


 オカ研「えぇ。怒り心頭ですよ、憤慨ものです。せっかくの我が校が誇る心霊スポットを取り壊すなんて、この市のいいや、県の損失です。なんで壊すんですかぁ」


 教師「そら最初はな歴史的建造物として残そうとしてたよ。昭和からある校舎だしな。ただ、お前のような、老朽化して安全性の保証のない家屋に忍び込む阿呆が毎年出るからだよ。毎年毎年、あの手この手でボロい壁や窓をこじ開けよって。」


 オカ研「……」


 教師「おいコラ。その手があったかみたいな顔をするな。……まぁ、それだけじゃない。今年始めに起きた阪神・淡路震災規模の地震がここを襲ったら間違いなく倒壊する。昨今、震度6以上の地震が数年おきに起こってるだろ」


 オカ研「ぐぬぬぬ……じゃあ先生! 代わりにカメラ渡すので、見回りついでに幽霊さんに会ったらばっちり、写真撮影頼みますよ!  ね、それくらいならいいでしょう!?」


 教師「……やめろよ、俺は会いたくねぇんだから……。でもまぁ、それでお前が大人しくしてるってなら預かるよ。でも、期待すんなよ」


 オカ研「はぁい、じゃあこれお願いしますね」


 教師「あ、あとお前、いい加減貯めてる宿題出せよ」


 オカ研「あ、へへ。その件は後日しっかり耳揃えて出しますんで……へへ。せんせー、さよーならっ!」

 

 教師「あ、コラ!  ……ったく」



 ー間ー


 教師『旧校舎の3階。 三年二組の教室。彼女は梅雨の訪れと共に現れ、杪夏(びょうか)の頃、蝉の死骸と共に去っていく夏の影法師。

 時を止めた白磁(はくじ)の肌と黒絹(くろぎぬ)の髪が、ここ数年で俺の夏を侵食した。……だがそれも今年で終いだ。このひと月が彼女と過ごす最後の課外授業になる』


 朝霧「明智先生。……もう、今日は来て下さらないのかとばかり」


 教師「悪い、待たせたな。朝霧」


 朝霧「いいえ。ところで佐山くんはもう帰ってしまったのでしょうか。一緒に先生の講義を受ける約束だったのに」


 教師「あー。佐山はしばらく渡辺先生が指導するって言っていたな。彼奴体育サボってばかりだったろ」


 朝霧「……きっとまた()たれしまいます。佐山くんは渡辺先生に目を付けられていたもの。あの人すぐ手を出す(かた)だから」


 教師「あまり構うなよ。朝霧も頬を張られていただろ」


 朝霧「……あんなの痛くありません。……。先生、今日は何を教えてくださるのですか」


 教師「朝霧は特に数学の出来が良い。少し気は早いが受験に向けて、応用問題を幾つか持ってきたんだ」


 朝霧「……また先生が作問してくださったのですか? 」


 教師「過去問を少し変えただけだけどな」


 朝霧「いつも、ありがとうございます」


 教師「お前をこんな片田舎で燻らせるにはもったいない。って思ってるのは俺だけじゃないさ。皆お前を応援しているよ」


 朝霧「はい……! 女の私に努力ができる環境に恵まれるというのは大変有難いことです。私、きっとご期待に応えます。そしたら。……明智先生。褒めてくださいましね。」


 教師「……あぁ、勿論だとも、朝霧」

 

 ー間ー


 教師「朝霧、居るか」


 朝霧「明智先生! お待ちしてました。本日もご指導、よろしくお願いいたします」


 教師「はい、よろしく。出した課題はやってきたか」


 朝霧「はい、先生。勿論です」


 教師「よし、見せてみろ。……よく出来ているじゃないか。流石だな、朝霧。」


 朝霧「いえ、そんな……。あの、分からないところがあって」


  教師「お、どこだ? ……あ、この黒ずんでるところか? 何度も書いた跡がある」


 朝霧「はい、そうです。最初の項を括り出すところまでは解るのですが……」


 教師「ん〜。そこは、もうひとつ一緒に出せるやつがまだあると思うけどな?」


 朝霧「え? ……少し時間を頂いても?」


 教師「いいよ、ゆっくり考えな。俺は採点してるから、考え終わったら声掛けてくれ」


 朝霧「……」


(可能であればマーカーで丸やペケを付ける音をいれる)

 

 朝霧「……あ。わかった! せんせ、先生。解けましたよ。ここ、1が隠れていましたね!」


 教師「そうだな。よくできました」(やさしく)


 朝霧「……っ、はい。ありがとうございます」(恋しているのがわかる声音を出す)

 朝霧「でっ、ですが、その。先生にヒントをいただけたから解けたようなもので……精進します」


 教師「ハハッ……次は解けるさ」


 ー間ー


 オカ研「せんせ、写真! 撮れましたか!!」


 教師「撮れてねぇよ。幽霊なんか居ないんだからな。いいか、幽霊は居ないんだよ。いたら先生困る……鍵番できなくなるって。むしろ幽霊居る派なのにお前らはなんで怖くないんだよ」


 オカ研「私たちだって幽霊の存在を肯定するからには、怖いもの知らずじゃないですよ。観察する幽霊は選びます」


 教師「そんな人を選んでイタズラしてますみたいな」


 オカ研「遠からずですよ。良いですか、幽霊には区別があるんです。狙うのは死んでいる自覚が無い者、これはほぼ無害です。人に混ざって生活をしてることもあるくらいで、チャネルの合う人……いわゆる霊感がある人は見えても幽霊だと気付かないでしょう」


 教師「透けてたりしないのか……」


 オカ研「しないですね。できることは生前の域をでませんから。チャネルが合っている、認識しているならば触れます」


 教師「こわ……今日すれ違った人の中にも居るかもしれないってことか」


 オカ研「怖くないですよ。ただ生前の暮らしを繰り返してるだけなので、無害です。死んでいることに気がつけばほとんどの場合、成仏します」


 教師「じゃあずっと気づかなければどうなるんだよ」


 オカ研「経年劣化で幽霊自身の力が弱まれば自然消滅しますし、葬儀が行われているならば、ご家族と住職のお経やら祈りやらが死者を旅路へ導いてくれるので大抵はちゃんと成仏できますよ」


 教師「流石寺生まれのオカ研……なんか地味に説得力というか、信じそうだ。旧校舎で先生に何かあったら頼むからな」


 オカ研「マァ、私は某寺生まれの方みたいに破ァ!  と一息に除霊みたいな芸当はできないですけどね」


 教師「できないのかよ! ……はぁ。なら、あまり先生をからかってくれるなよ。ほんとに俺、心霊系苦手なんだから。……あと出し忘れてる宿題、出さねぇとそろそろ、仏のように優しい俺も怒るからな」


 オカ研「やさしい……? ものぐさ適当教師の間違いでは」


 教師「今すぐに提出させてもいいんだぞ」


 オカ研「寛大なご慈悲に感謝しますぅ〜!  来週には必ず収めますんで!  へへっ、せんせーさよーなら!」



 ー間ー


 教師「朝霧」


 朝霧「はい、先生」


 教師「たまには遊んだらどうだ?」


 朝霧「え?  勉強ではなく……?」


 教師「勉強は山ほどしているじゃないか……疲れているだろ」


 朝霧「ですが……その。特待生入学ではなくては、いけません」


 教師「あまり、新しい家とは上手くいっていないのか」


 朝霧「……そんな風に言ったらバチが当たります。面倒見ていただけるだけ有難いと思わなければなりません。……進学せずに働けと言われてます。特待生入学で学費が免除されれば、全寮制ですし安心できるのですが……」


 教師「そうか。それでも、だ。朝霧、(こん)を詰めすぎては毒だ。わかるだろ」


 朝霧「、ですが」


 教師「……焦るだろう、手を抜くのが怖いな。お前の考えも分かる。先を見据えて1人で立つ用意を懸命にやっているのも分かった。でも、ほら。今日はミスが多いじゃないか。休まずやれば身につく訳じゃないことは、分かるだろ。脳みそが疲れてるんだよ。今勉強しても手の運動にしかならない」


 朝霧「……」


 教師「朝霧。大丈夫だよ」

 

 朝霧「そう、でしょうか」


 教師「あぁ、大丈夫だとも。朝霧は1日休んだってダメになんかならない。必要なことなんだから。これは怠けることじゃない、ご飯食べるのと同じことだ。今日は休もうな」


 朝霧「……はい」


 教師「いい子だ。お前は充分よくやってるよ」


 朝霧「ありがとうございます……」(まだ肩に力が入ってる)


 教師「……まぁ、そうは言っても真面目な朝霧はやらないというのも苦しいだろ。下校時刻まで付き合うよ。ここで好きな本でも読んでゆっくりしな。それか、面白かった本の話でも聞かせてくれ」


 朝霧「えっ、あ、申し訳ないです」


 教師「生徒の健康を守るのも俺の仕事だよ。子供は甘えときなさい」


 朝霧「……はい、ありがとうございます」(ここでやっと肩の力が抜ける)


 ー間ー


 朝霧「……あ、明智先生。お待ちしておりました」(元気ない)


 教師「少し遅れたな。待たせてしまったか」


 朝霧「とんでもないです。本日もご指導よろしくお願いいたします」


 教師「はい、よろしく。今日も」


 朝霧「あの、先生」


 教師「どうかしたか、朝霧」


 朝霧「……あ。その。いえ、すみません。勉学に関係のないことでした」


 教師「……今日はあまり元気が無いな。先生が聞けることは何かあるか?」


 朝霧「……お気遣いありがとうございます。あの、佐山くんのことで」


 教師「朝霧、彼奴にまた構ってやってたのか」


 朝霧「……構ってやるだなんて、そんな。彼、とっても頭が良くて成績もいいのに。渡辺先生は彼の何が気に食わないのでしょうか。いつも青痣(あおあざ)をこさえて、不憫でなりません」


 教師「……気味が悪いんだと。蝶を捕まえて羽をむしったりするような奴だからな。蝶に関しては標本を作ってるみたいなんだが、他にもネズミや烏を殺していただとか変な噂も絶えないだろう? 」


 朝霧「噂に過ぎません。確かに、標本や剥製(はくせい)は作っていますが、どれもとても綺麗にできていて大切にしていました。彼は命に敬意を払える人です。たまに話す程度の付き合いですが、それでも知っているんです。私は何度も彼に優しさを分けて貰いました。彼がそんなことするはずがない」


 教師「朝霧……渡辺先生は異端と決めたら変えられない方だ。悪い事は言わないから、放っておきなさい」


 朝霧「明智先生! (悔しそうに)……私が孤児(みなしご)で女だから、渡辺先生は私のことも面白くないのでしょう。知っています」(最後にかけて苛立つ)


 教師「朝霧。頼むよ。(穏やかに、語りかけるように)お前のそれはきっと、尊いものだ。何も間違っちゃいないよ。ただ、時には正道(せいどう)では敵わない相手も居るんだ。情けない先生を許してくれ。朝霧はきっといい高校に入れる。東京のいい大学にだって行ける。渡辺先生にお前を壊されたくないんだ。俺が守れるところに居てくれ」


 朝霧「っ!?」(キュンしてる)


 教師「佐山のことは気にしてくれるな。お前の代わりにやれるだけ俺が気にかけてやるから」


 朝霧「わ、わかり、ました。……佐山くんのこと、お願いしますね」


 教師「あぁ。ごめんな、朝霧」



 ー間ー


 オカ研「あ、やっぱ先生メガネしてんじゃん! なに、イメチェンですか」


 教師「あー。(以下、嘘)最近、先生夕方なるとパソコンに負けて目が痛くてな」


 オカ研「ブルーライト弱者だ……教師ってそんなパソコン使うんですか? あまりイメージない」


 教師「出席の入力、お便りの作成の他にも、俺の授業プリントは全部Excel使った手作りなんだよ。感謝しろ〜」


 オカ研「あの変なマンドラゴラみたいなキャラクター先生の手書きじゃなかったんだ」


 教師「あれは、背景透過した俺の手書き。かわいいだろ」


 オカ研「無駄に手が込んでる。そっか、旧校舎の窓から先生メガネしてるの見えて気になったんですよ」


 教師「……入ったのか」

 

 オカ研「まっさかぁ。私いい子ちゃんですよ。大人しく、裏庭から観察してたんですよ。目撃証言が多いので。そしたら先生が見回りしてるの見えて」


 教師「この時期の裏庭、虫ヤバいだろ……根性だけは無駄にありやがる……」 


 オカ研「熱意の表れです。それで、先生、アサギリさんに会えましたか」


 教師「……すまん、何の話だ」


 オカ研「旧校舎の首吊り少女、アサギリさん。件の怪談ですよ」


 教師「会ってたまるか!!!」


 オカ研「えーっ。この時期のアサギリさんは特に怖くないですよ。むしろ、会うなら今が旬ですよ」


 教師「幽霊に旬とかあるんだ……」


 オカ研「アサギリさん、普段は3階の右から2番目の教室で首吊り死体の状態で揺れてるんですけど」


 教師「やめて……怖いじゃん……もう今日から見回り行きたくない」


  オカ研「まぁ、最後まで聞いてくださいって。そんなアサギリさん、この6月から8月の頭までの間は生前の姿で旧校舎にいるんですよ。この前高山くんも見かけたみたいで、めっちゃ可愛かったって皆に言ってましたよ」


 教師「……ふーん」(嫉妬 ちょっと苛立ってる)


 オカ研「先生?」


 教師「……あぁ、いや。不思議でさ、なんでアサギリさんって名前で呼ばれてるんだ?  トイレの花子さんもそうだけど、なんで名前がわかるんだろ、って思ってさ。変だろ?」


 オカ研「実はアサギリさん、そんなに古い幽霊じゃないんですよ。何年か前の生徒が旧校舎のアサギリさんで肝試しをしようとして、保護者が付いて行ったんですけど、昔失踪した朝霧さんに似てるって話が広まって。20年くらい前だったかな。ちょうど先生も中高生くらいだったんじゃないですか? 意外と歳近いかもしれないですよ」


 教師「……」


 オカ研「アサギリさんって名前の前は「首吊りさん」って呼ばれてました」(教師の沈黙を待ちすぎない、前のセリフからあまり間をあけない)


 教師「くびつりさん……、アサギリさんより響きが怖いな。あ、予鈴……。っ! やっべ、職員会議! じゃあまた明日、寄り道せず帰るんだぞ!!」


 オカ研「あっ、先生!! ……無視して行きやがった。……おかしいな……旧校舎での様子からして先生には見えてると思ったんだけど。……彼女と会っている時の記憶は無くなってるようにも、わざとはぐらかしてるようにも取れる。……あーっもう! もっと分かりやすい態度とってくんないかなぁ!! ごちゃごちゃ考えるのめんどくさい、人間観察そんな得意じゃないのに。……。


(以下整理するように、聞き取りやすいような速さで)


 もし前者の通り記憶がないなら、先生はアサギリさんに魅入られてることになる。そう考えてみたら、いつもきっかり同じ時間に通ってるとも言えるよね。御百度参り(おひゃくどまいり)みたいに、何かが噛み合って儀式化してる可能性もある。それに、先生が見回るようになってから、アサギリさんは毎日現れるようになった。昔見かけた彼女にはそこまでの力が無かったはず。先生の何かがトリガーになって変質し始めてる?  ……私のカメラは多分持ち歩いてないよね。お守り持たせたかったのに。……最悪の想定だけど。朝霧さんも失踪しているし、因果からそういう性質を持っていてもおかしくない。まずいな。このままだと先生、アサギリさんに連れていかれちゃうかも」



 ー間ー


 朝霧「〜♪」(適当にハミングして歌っててください、先生何呼ばれるまで)


 教師「朝霧」(歌ってる最中に声をかける)


 朝霧「!  あ、けち先生……いらしてたのですか」(びっくりして声が上ずる)


 教師「(笑って)なんだ、続けていいのに。ご機嫌だな。どんないい事があったんだ」

 

 朝霧「あ……えっと。……(つぼみ)でいただいていた芍薬(しゃくやく)の花が咲いたんです。私芍薬が好きで」


 教師「芍薬か。俺はあまり花には詳しくないが、たしか6月頃の花じゃなかったか? 7月の今じゃ終わり頃だろうに、よく蕾があったな」


 朝霧「そうなんです! 先日、佐山くんの怪我を手当したことがあって。彼のお家には芍薬が植えてあるのですが、見蕩れていたら、分けてくれたんです」


 教師「へぇ。」(嬉しそうに)


 朝霧「白色の蕾だったのですが、花びらの先が桃色でそれが可愛らしくて。……ちゃんと咲かせることができたので佐山くんに見てもらいたくて写真を撮ったんです。まだ、フィルムを現像出来てないのですが、先生にもお見せしても良いですか?」


 教師「勿論だとも。楽しみにしてるよ」


 朝霧「ありがとうございます! ……あ、私ったらすみません。勉強のために先生のお時間を頂戴しているのに、無駄話ばかり」


 教師「いいんだよ。朝霧が元気なのを確認できて先生も安心したからな。大変結構なことだ」


 朝霧「はい、いつも気にかけて下さってありがとうございます。今日もご指導よろしくお願いしますね」


 教師「はい、よろしく」


 ー間ー


 教師「とまぁ、今日はこんな所か。お疲れさん」


 朝霧「ありがとうございました。明智先生、国語だけじゃなくて理科も教えられるんですね。とても分かりやすかったです」


 教師「そりゃ中学生の内容くらいどの先生だって教えられるさ。そもそもずっと数学も見てやってただろうに。何を今更」


 朝霧「ふふ、それもそうですね。全部の教科の担当が明智先生だったらいいのにと思っ、あ、いえ、失言でした」


 教師「そうだな、他の先生達が泣くぞ」


 朝霧「先生の教え方が好きなので、欲をかきました。……」

   (↓強調するように、余韻になるように)

「先生、明日もお待ちしておりますね」

 

(少し間を開けて)

 教師「……おう。また明日な、朝霧」

 


 ー間ー



 オカ研「……先生、異議があります」


 教師「なんだ、言ってみろ劣等生」


 オカ研「あーっ! 先生そういうこと言っちゃうんだ! コンプラですよ、コンプラ」


 教師「うるせぇ、課題滞納者。黙って納税しろ」


 オカ研「うぐっ……わかりました! わかりましたからァ! 今度こそちゃんと、家でやってきますってぇ。私の昼休み取り上げないでくださいよぅ!」


 教師「家でやられねぇから、こうして滞納してんだろうが。つべこべ言わず手を動かせ。俺の昼休みだって返上してんだかんな」


 オカ研「くぅ……絶対バレないと思ったのに。何度も出さなかったり出したりしてたら、先生もどれが提出済みかわかんなくなるかなって思ったのに」


 教師「小賢(こざか)しい……」


 オカ研「このために、あたかもきっちり記録して漏れがないように管理してました! みたいに見えるように表まで用意して持ってきたのに」


 教師「この伝票みたいなやつな。よく出来てるよ。まったく本当に脱税する時みてぇな手法取りやがって。無駄な努力ばかりはいっちょ前なんだから」


 オカ研「2年生の時の担任までは騙せてたんですもん」


 教師「誰だったんだ」


 オカ研「小玉(こだま)先生」

 

 教師「あー、パソコン苦手だって言ってたもんな。残念だったな、俺にはExcelが着いている。課題提出管理なんて朝飯前よ」


 オカ研「ぶー。テスト終わるまで逃げ切ったから勝ちだと思ってたのになぁ。先生って意外と神経質ですよねぇ」


 教師「几帳面と言え」


 オカ研「えーん先生眠たいです〜。この状態でやっても手の運動にしかならないですよ。(いたずら)に手を痛め、時間を溶かすだけですって」


 教師「やかましい。罰なんだから、大人しく手を動かせ」


 オカ研「おなかいっぱいになった後に、こんな覚醒下がるような作業続けたら抗えないですって。人間の生理学ですよ、理科です! 先生分かるでしょーっ! その白衣は飾りですか!」


 教師「……はぁ。まぁ、一理ある。それなら少し休憩がてら覚醒度上げるぞ。まずは立つ、歩きながら……そうだなお前の好きなオカルトトークでもしてくれ。5分だけな」

 

 オカ研「え、えーと。あ、じゃあこの前の続きなんですけど」


 教師「いつだ」


 オカ研「2週間くらい前、テスト期間中くらいに幽霊の区別の話ちょっとしたじゃないですか」


 教師「あー。あったな」


 オカ研「先生霊感ありそうなので、注意喚起がてらヤバい区分についても話して起きますね。単純なんですが、死んだ自覚をして尚残ってる幽霊です。未練があるので生者に対して執着が強く、干渉して来ようとします。穢れを溜め込んで悪霊になってる事がほとんどです。なんせ、未練、悔いというマイナスの執着の塊なんですからね、そりゃ生者の負の感情の影響受けやすいってもんです」


 教師「悪霊とか怨霊、ってやつ?  貞子とか」


 オカ研「さだこ……?  あー、お勧め図書の。貞子さんは現象の側面が強いので分けるとしたら怪異の部類ですかね」


 教師「現象?  ……貞子が怪異なら、口裂け女とかメリーさんとかも怪異になるのか」


 オカ研「口裂け女は半々、メリーさんは怪異ですかね。まぁ、その辺の分類は専門家でも意見が別れるところで、面倒くさいかつ、今回の話にはあまり関係無いので置いておくとして」


 教師「あぁ、すまん。脱線させたな」


 オカ研「死んだ自覚のある幽霊達が悪霊というのは合っています。時間が経ち穢れを貯めるほど本来の未練を忘れて歪んだり、元々復讐やら報復系の未練だたったらならより強く膨れたりして力も強くなり、生者への干渉力も高くなります。……そうですね、10年も経てばチャネルが合わない、霊感の無い人間にも干渉できるようになりますよ。ですが、やはりチャネルが合っている方が干渉しやすいので、見える人が被害に会いやすいです」


 教師「……先生を怖がらせたって、お前に昼休憩は帰ってこないからな」


 オカ研「もう、真面目な話ですよ。信じてなくてもいいので、片隅に覚えておいてください。」


 教師「わかったよ。(おど)かしやがって。満足しただろ。目は覚めたか?」


 オカ研「それはもうバッチリ。……あの、先生。反省するので、どうか家にはバラさないでくださいね」


 教師「なんだ、急にしおらしくして」


 オカ研「ポケベル買って貰えるかどうかの瀬戸際でして……その、向こうに買わない大義名分ができると困るんです」


 教師「はぁ……ったくお前は。今週中にちゃんと誤魔化さず提出したらな」


 オカ研「……! (うれしそう)はい!」


 

 ー間ー



 教師「すまん朝霧、待たせたな。職員会議が長引いてさ」 


 朝霧「いえ、とんでもないです」


 教師「今日も始めるか。……?  なんだ、どうした」


 朝霧「あの、今日、佐山くんも出ると言ってて」


 教師「佐山? 俺は何も聞いてないな」


 朝霧「え、でも。凄い剣幕で、少し怖い(くらいで)」


 教師「(被せる)朝霧」


 朝霧「はい……」


 教師「まず、佐山は来ないよ。渡辺先生が引っ張ってったから。……どうしたんだ。そんな青い顔をして」


 朝霧「……わ、わかりません。なんだか、彼、怒ってて、でも、何を怒っているのかよくわからなくて」


 教師「佐山が怒ってたのか? なんだ、 喧嘩でもしたか」


 朝霧「はい……喧嘩、と言えるかもわかりませんが」


 教師「すこし、話そうか。座ろう。な」


 朝霧「ありがとう、ございます。すみません、彼のあんなに怒った顔、見たことなくて」


 教師「……佐山はなんて言ってたんだ」


 朝霧「えっと……ダメだと言われました。朝霧さんは、違う。……だとか。(よご)される? とも、言われました。あ、あと今日から僕も一緒に課外授業にでる、と。……。す。すみません要領を得なくて」


 教師「びっくりしたな。佐山はいつも穏やかだからな。尚更怒った声色が怖く感じたんじゃないか。びっくりしてあいつの言葉、頭に入ってこなかったんだな。大丈夫だよ、朝霧」


 朝霧「え……」


 教師「俺もその場にいた訳じゃないからとりあえず、朝霧から聞いた話だけで話すな。きっとびっくりして怖くて彼奴の話しが入って来なかったんだろ? ……とにかく怒ってることしかわかんないくらいだ。覚えてない、聞けてないだけで行間にもっと他にも何か佐山は言ってたんじゃないか」


 朝霧「そう、ですね。思い返せば何かを必死に訴えていたような、確かにそうだったと……思います」


 教師「彼奴はお前のこと大事な友達だと思ってる。朝霧は俺が止めてもいつも気にかけてやってただろ」


 朝霧「はい……」


 教師「大丈夫、仲直りできるよ。だが、まぁ、それはさておき(朝霧の右手を取る」

 

 朝霧「っ。(息を飲む)」


 教師「これは頂けねぇよな。ったく、こんなくっきり跡がつくほど強く握りやがって……可哀想に。痛むか、朝霧」


 朝霧「は、い、いえ、平気です」


 教師「ハハ、どっちだよ。痛むんだろう。冷やしてやろうな」


 朝霧「ありがとうございます。……? 冷却材はいつも持ち歩いているのですか」


 教師「まさか。たまたまだよ」


 朝霧「たまたま、ですか」


 教師「そ、たまたま。痛いだろうし、今日は口頭審問にしような。それか今日はもう帰るか?」


 朝霧「いえ! か、 帰りません。平気です。本日もご指導よろしくお願いします」


 教師「そうか、じゃあ今日は理科の暗記範囲をやろうな」


 朝霧「……理科?」


 教師「国語は口頭審問しにくいだろ……今日持ってきたプリント文章読解なんだよ。暗記科目ならやりやすいだろ。あー、英語もやろうと思えばできるか。英会話でもしてみるか」


 朝霧「英会話ですか? すみません、私我儘を言った訳では無かったのです。ただ少し気になってしまっただけで」


 教師「? 構わねぇよ。英語でも、なんでも。朝霧がやりたい方を選んでくれ」


 朝霧「以前外国の文学作品について伺った時、外国語は苦手だと仰ってらしたと思って。本当に、良いのですか?」


 教師「……(知らなかった、ミスったっていう息遣い)。苦手だよ、でも朝霧には必要だろ。だから先生も頑張ってんだよ、言わせんな」


 朝霧「えっ、わ、わたしのため(呟く)は、はい。失礼しました」


 教師「それに、先生なんだから苦手って言っても中学生の範囲くらい教えられるよ。……教える前に俺も復習要るけど」


 朝霧「ふふふ」



 ー間ー



 オカ研「こちらで全てになります……お納めを……」


 教師「 よし。あとで耳揃えて提出できてるか、しっかり勘定してやるからな。ったく、20日分も中抜きしやがって」


 オカ研「へへ……すみませんでした」


 教師「なぁ、旧校舎にいるって言う幽霊だけどさ」


 オカ研「お? 先生の方から話題に出すなんて珍しい」


 教師「あと2週間もしたら取り壊すだろ。そこにいる幽霊はちゃんと成仏出来んのかな。って思って」


 オカ研「なるほど。そのことなんですけど……私だけじゃ判断出来なかったので、お父さんに頼んで見てもらったんですよ」


 教師「お父さんっていうと、住職がか!」


 オカ研「はい。父によるとご遺体が学校付近にある訳じゃないみたいで、ただ旧校舎の思い出を依代にして存在を保ってるみたいなんです。依代を失ってそのまま消滅。これが1つ目のパターンかつ最良のものです……まぁ可能性としてはかなり低いですが」


 教師「消える可能性の方が低いのか」


 オカ研「先日も言ったとおり、死んだ自覚が無いということは適切な弔いが行われてないんです。確実に事件性のある死に方をしています。加えてアサギリさんは20年以上残存し続けている幽霊ですから、十分力があります。性質が歪んでないのが奇跡的と言っていいでしょう。旧校舎の破壊がトリガーになって死因を思い出し、恨みや絶望から悪霊や怪異に転じる可能性の方が高い。……というのがお父さんの見解です」


 教師「依代が無くなった後、悪霊になった彼女はどこに行くんだ」


 オカ研「代わりの依代がなければ旧校舎の跡地にそのまま残るでしょう」


 教師「代わりの依代……」(残ると聞いて何かないか考えてる)


 オカ研「彼女のご遺体や、強い思い入れのある品や人など強力な縁のあるものですね……先生、そろそろ教えてくださいよ。本当はアサギリさんのことが見えて居るんでしょう」


 教師「……まさか、俺は理科の先生やってんだぞ。んな非科学的なもん信じてるわけないだろ」


 オカ研「私見てたんですよ。彼女を観察するために。先生、彼女と毎日会って話してたでしょう。とっても優しい顔してた。……毎日会えて、話せて、触れられて。……死んでるなんて思えないでしょう」


 教師「……わーったよ。降参。(1呼吸おいて)……そうだよ、毎日会って話せちまうんだもん、勘違いもしちまうよ。……。朝霧のこと。旧校舎に生徒が入ったんだと思って連れだそうとしたんだ。そしたら途中で消えちまってさ。よく見たら制服が一昔前ので。……はじめて首吊りの状態の彼女を見た時は声も出なかった。どうしようもないくらいの非現実が現実でさ。認めざるを得なかった」(全部、虚言。オカ研に合わせてるだけ)


(少し間を開ける。こっからは半分本心)


 教師「……毎年夏になると、俺の事を先生って呼び出すんだ。いい高校に特待生で入るために勉強してるんだと。笑ったり、落ち込んだりしてさ。これを8年繰り返してるんだ。情なんかとっくに湧いてる。彼奴は、俺の生徒だよ」


 オカ研「……先生も気が付いてますよね、もう彼女には明日がないこと。生前の行いを繰り返しているだけなんですよ。彼女の夏は進まないんです、来年はないんです」


 教師「知ってるよ、彼女の肌は冷たいから。でも、なんでも合理的に判断して行動できないのが人間だろ。俺の頭脳も漏れなく欠陥品だったって訳だ」


 オカ研「そう、ですね……。先生に伝えようか悩んだのですが。今、伝えるべきだと決めました。先生、私たちはアサギリさんが悪霊に転じた場合を想定して、行動を起こすことにしました」


 教師「……まさか」


 オカ研「アサギリさんを祓います。……彼女がここに残ったら必ず引き込まれる生徒が出ます。最悪を想定し、手が着けやすい今のうちに動くことになりました」


 教師「っ、そうか。いつだ」(苛立ちを必死に抑えてる)


 オカ研「3日後です」


 教師「分かった……別れを済ませないとな」


 オカ研「……そう言うと思いました。ダメですよ。もう彼女は不安定になっていると見られています。どう転ぶかわかりません。旧校舎には近付かないでください」


 教師「お前の話は分かったよ。ただ、約束できない」


 オカ研「行かないでください。……せめて、これを受け取ってください。お守りです。念の為持っていてください」


 教師「悪いな」




 ー間ー



 教師「朝霧」


 朝霧「嫌っ!」


 教師「朝霧、落ち着け俺だよ。……鍵、開けてくれ」


 朝霧「あけち先生……? 」


 教師「そうだ。」


 朝霧「すみません。近くに佐山くんいますか」


 教師「……居ないよ。なんだ、まだ仲直りしてなかったのか」


 朝霧「勝手に鍵をかけてすみませんでした」


 教師「そんなことは些事(さじ)だよ。それより何があったんだ。怯えて、また腕でも掴まれたのか」


 朝霧「いえ、ただ付きまとわれて。腕のことは私が何か言うより先に謝ってくれました。でも、その、なんだか佐山くんが佐山くんじゃないみたいで不気味で」


 教師「そうか。理由はどうあれ、お前を怖がらせるのは頂けねぇよな」  

 

 朝霧「えっ」

 

 教師「だってそうだろ。朝霧は女の子なんだから。仲良くなりてぇなら尚更、怖がらせちゃいけねぇよ」

 

 朝霧「いえ、そんな……私も、悪いんです。あれから話も聞かずにただ怖くて逃げてしまって」


 教師「あのなぁ。男が鬼気迫る様子で詰め寄ってきて、アザできるくらいの力で腕掴まれて、怖がるな逃げるなって方が無理あるだろ……朝霧は悪くないよ」


 朝霧「……。はい」


 教師「彼奴は朝霧が、こんなに怖がっているのに分からなかったのか」


 朝霧「……最初はただ様子が変わった佐山くんが少し怖くなって避けていたんです。でも逃げたら逃げるほど、どんどん様子がおかしくなって」


 教師「……佐山はさ、このまま嫌われるのが怖くて、お前がどっか行くのが怖くて追いかけちまうんじゃないかな。仲直りの仕方が下手なんだ。彼奴も怖がらせたくて、やってるんじゃないさ」


 朝霧「……先生も、そう思われますか?」


 教師「そうだな。でもそれは彼奴の都合だ。……朝霧は、どうしたい。もう彼奴と関わりたくないか?」


 朝霧「まさか。違います。仲良くなったんです。友達なんです。……とはいえ、今の佐山くんのことは怖いので、とりあえず落ち着いて欲しい、でしょうか。そして、叶うなら話がしたいです。あんな風に突き放すように逃げざるを得ない形じゃなくて、お互い落ち着いて安心して話せる場が欲しいです。彼が私を(きら)ってやってる事じゃないのは、わかりますから」



 教師「……朝霧」


 朝霧「怖いと思うのはきっと、彼の行動を理解出来ていないから。……怖いなんて、本当は思いたくないんです。……あの異様な様子のわけを知りもせずに拒絶してしまったこと。今でも彼に対して恐怖を感じると同時に、友人として後悔してるんです」


 教師「きれいだ(小声)」(思わずこぼれた声。綺麗なものを見て目が眩んでる)


 朝霧「先生?」


 教師「朝霧の姿勢は立派だが。……ただやっぱり彼奴は普通の奴じゃない。感性や感覚がズレてるんだろうさ。世間一般とはな。……このままだと取り返しのつかないことをするぞ」


 朝霧「そう、ですね。啖呵切ったばかりでお恥ずかしいのですが、さすがに身の危険を感じざるを得ない状況なのも、事実でして……有言実行は難しいですね」


 教師「……俺が付いてやれればいいのに」


 朝霧「へっ」


 教師「こんな状況の朝霧をおいて行くのが心配だって話。俺、明日から長期の出張が決まってさ。他の先生の代打で急遽決まったんだ」


 朝霧「そう、でしたか。私の事などお気になさらないでください。先生がお話を聞いてくださったので落ち着くことが出来ました。……担任の武田先生にも相談してみますね」


 教師「悪いな。せっかく朝霧が話してくれたのに、今日明日で解決してやれそうにない」


 朝霧「とんでもないです。私は大丈夫ですよ。……その、明智先生はいつ頃お戻りになられるのでしょうか? 」


 教師「夏季休暇空けになるかな」


 朝霧「そう、なのですね……(ショックを受けている)今日まで時間を割いて下さりありがとうございました。とても有意義な時間を過ごすことが出来ました。これからも励みますね」


 教師「……あのな、朝霧」


 朝霧「はい、先生」


 教師「昨日の事は覚えているか」


 朝霧「えっ、勿論ですよ。昨日は昨年の入試問題を解説していただきました」


 教師「そうだな。先週のことは、わかるか。怖いこと思い出させてすまない。お前が佐山に手首掴まれた日」


 朝霧「はい、えっと?」

(なんでそんな事聞くんだろうと思ってる)


 教師「日誌付けるの忘れてたんだ。手伝ってくれ」(嘘)


 朝霧「そうでしたか。えっと、話を聞いてなだめてくださいました。痛めた手首に気付いて下さって、口頭尋問で学習しました」


 教師「!  (身を乗り出す感じで)それより前のこと、俺と過ごしたことで何か覚えていることはあるか。なんでもいい」


 朝霧「わ、……そんなに大変なことなのですか。ふふ。先生が焦っておられるのは、なんだか珍しいですね。私は全て覚えておりますよ。いつ、何を教えてくださったかは勿論。自分で自分を追い込む悪癖を叱ってくださったこと、鼻歌をからかわれたこと、わたしの未来を守りたいと仰ってくださったこと、私が良い結果を出せたら褒めてくださると約束したこと。覚えておりますよ」


 教師「……なんだ、良かった。ちゃんとお前の昨日には、俺が居たんだな」


 朝霧「わ、私の勘違いでなければ、その寂しく思ってらっしゃいますか。わたしと離れることが」


 教師「そうだよ。そうだった。ちゃんと覚えててくれて安心した」


 朝霧「私日記付けてますから、必要とあらば」


 教師「いや、充分だよ。ありがとう。ねぇ、朝霧。俺が先生で良かった?」


 朝霧「はい。 先生にご指導頂けて私は果報者(かほうもの)ですよ」


 教師「……それは良かった。俺も朝霧と過ごせて良かったよ。じゃあ、俺出張の準備しなきゃなんないから、そろそろ行くな」


 朝霧「あ、はい先生。左様なら。お気をつけて」


 教師「ありがとう。……。またね、朝霧さん」


 朝霧「えっ……? あ、日記落としちゃった……『7月16日。佐山くんの様子がおかしかった。何もわからなくて怖い。明智先生にも会えなかった』え。あれ、この日は、先生が心配してくださって……他の日は。この日も、記憶と合わない。そもそも明智先生と国語以外勉強した日が、ない……? いえ。それはそうよ、明智先生は国語の先生だもの……じゃあこの記憶は何……?  あれは、誰?」




 ー間ー



 オカ研「先生!  先生!」


 教師「あぁ、ちょうど探してたんだよ。さっきお守りの紐切れちまってさ、壊してごめんな」


 オカ研「見せてください、……! 真っ黒…… やっぱり、先生ですね。旧校舎に行ったでしょう! アサギリさんに何したんですか」


 教師「別に、話しただけだよ」


 オカ研「アサギリさんが変質したんです。彼女、自分が殺されたことに気付いちゃったみたいなんですよ。……なにを、言ったんですか。佐山先生(・・・・)


 教師「……。そっかぁ、やっと気付いてくれたんだね。朝霧さん。あぁ、心配しなくても、もう旧校舎に近付かないし、俺も来ない。辞職したんだ」


 オカ研「先生?」


 教師「あー。もういいか。もう君にも会うことないだろうし、擬態しなくても」


 オカ研「ぎ、擬態……?」


 教師「色々教えてくれてありがとう。おかげで今度こそ手に入りそうだ。もう標本にはできないけれど、独り占めはできそうだから」


 オカ研「標本って……え。先生、どういう」


(小動物に話しかけるように、自然に人畜無害な感じで)

 教師「理解したくないよね。わかるよ。だから擬態してるんだ。嬉しくてつい、加減するの忘れてしまったね。怖いこと言ってごめんね。君を攻撃したりしないから安心してね。1番欲しいものが手に入らなかったから、標本作りもできてないし、する気もないよ。ね、大丈夫でしょ、怖くないよ」


 オカ研「……。分かりました。今は置いて起きましょう。佐山先生、アサギリさんをどうするつもりですか」


 教師「連れてくよ。別の依り代があればいいんだろ? 捨てれなくて取っておいてたんだ。ほんとに後悔しててさ。激情で何も考えられなくなって、勢いのまま殺してしまったこと。迎え入れる道具も準備もできてないのに。馬鹿だった。勢いでやっていい事と悪いことがあるってのにね。本当は彼女の好きな芍薬の花畑を地下に作って、白や薄桃の彼女が好きな家具を揃えて、その中に1番綺麗な朝霧さんを飾るのが夢だったんだ。そのために働くのが楽しみだったし、夢が叶ったら休みの日に朝から晩まで彼女を眺めながらレコードをかけるんだ。……まぁもう叶わないんだけどね。君も衝動に気を付けるんだよ。進路希望でトリマーになりたいって書いていたけどさ。ほら、可愛いものって殴りたくなるだろ。夢が叶わないことが決まった時の喪失感って、本当に首吊りたくなるからさ」


 オカ研「(怖くて逃げ出したいのを必死に抑えてる)……話が逸れてますよ。どうやって彼女を連れてくつもりなんですか」


 教師「あぁ、本当だ。ごめんね。素で人と話せるの久しぶりだから嬉しくてさ。えっと。将来設計に失敗して……腐ってく朝霧さんを埋めることしか出来なくて。……あの時は本当に悲しかったなぁ。だから、彼女の綺麗な髪の毛をひと房貰ったんだ。あ、本当にちょっとだよ。女の命っていうくらいだから、嫌がるだろうし。お守り袋に入るくらい。これ新しい依り代になるよね」


 オカ研「それ、今どこに」


 教師「ここにあるよ。……思い出してくれたなら、迎えに来てくれたら嬉しいなって思って(照れながら)。あ。じゃあ僕はもう行かなきゃいけないね」


 オカ研「先生、待って!」


 教師「今の朝霧さんって見境無いかもしれないんでしょう。君が巻き込まれたら嫌だな。もう僕は先生じゃなくなったけど、それでも君は僕の大切な教え子だからさ」


 オカ研「ダメです! 先生、もう彼女に理性はありません! 絶対殺されちゃう!」


 教師「え、優しいね。僕のこと怖いと思ってるだろうに。そもそも僕が彼女を殺したんだからいいんだよ。それはそれで、ほら、ちょっと両想いみたいで素敵でしょう。(恥じらいながら)彼女がはじめて殺す男が僕なら、いいよ。殺されても」


 オカ研「何一つ共感できませんが!  学校から仕事を受けた以上、犠牲者が出ると困るんです」


 教師「そっかァ。じゃあ仕方ないね」


  オカ研「スタンガン!?」


  教師「ちょっとバチってするよ〜」


 オカ研「やめっ、くっ……」


 教師「ごめんね。寝ててね、風邪ひかないように毛布かけてあげなきゃ……保健室でいいかな」



 ー間ー


(保健室で寝かせる)

 教師「……よし。コレでいいかな。明日怒られちゃったらごめんね」


 朝霧「……さやまくん……さやまくん」


 教師「……! (嬉しそうに)あ、朝霧さん! やっと思い出してくれたんだね。嬉しいな。会いに来てくれたんだね。(照れ笑い)姿が変わってもわかるよ。どんな姿でも、君は綺麗だから。今日の言葉を聞いて、君のまばゆさを思い出したよ。ほら、言ってくれただろ、僕を解かりたいって。いつもまっすぐ見てくれる君の目が好きだった……」


 朝霧「さやまくん」


 教師「本当だ……理性がないんだね。お話するのは難しいのかな。あ、でもいいよ。僕が話せばいいから。ほら、その……ぼ、僕は君が居てくれるだけで、しあわせ者だからさ。(照れ笑い)。いっぱい僕の名前呼んでね。嬉しいから。あ、でも君、酷いよ。よりによって明智先生と僕を見紛(みまが)うんだから。……僕が演じた先生、どうだった? 眼鏡とか髪型とか見た目は寄せてみたけどさ、明智先生はあんな風に君が欲しい言葉をかけてはくれないだろ。君の気持ちに気付きながら無視するような大人だったろ。特別にはしてくれなかっただろ。君を気にかけてはいたけど、君が隠した怪我とか気付かない程度の優しさだっただろ。……だから、さっき僕が先生で良かったって笑ってくれて、嬉しかった」


 朝霧「さやまくん、どぉして(ころしたの)」

 

 教師「! いまどうしてって言ったね? 喋ってくれて嬉しいよ。 どうしてって、そりゃあ。 綺麗な生き物の君が、自らアレに汚されようとしてるのが、嫌だったんだ。どうせ汚れてしまうなら僕が汚す方がマシだ。だから、解ってほしくて……。ね、朝霧さん、僕の方が良かったでしょ?」


 朝霧「……どぉして」


 教師「あ……! も、もしかして、渡辺先生のことかな。気付いてたの?  君が渡辺先生に叩かれた時、守れなかったから。もうこれ以上、彼奴が君を傷付けないように。僕の方に目を向けるように頑張ったんだ……。どうして言わなかったかは……そういうのをひけらかすのは、格好悪いでしょ。恩着せがましいし。だからいつか、君が「もしかして……」って気付いてくれて、褒めてくれたらいいなと思ってたんだ」

 

 朝霧「どうして、ころしたの」

 

 教師「えっと。あれは若気の至りっていうかね、笑わないで聞いておくれよ」



 教師「……君のことが好きだったからだよ」

 

 

 

 ー長い間7秒くらいー

 

 

 生徒A(オカ研役)「ねぇ、この学校さ。出るんだって」

 

 生徒B(朝霧役)「3階のトイレの?」

 

 生徒A「花子さんじゃなくて!  理科準備室のハリツケさん」

 

 生徒B「あー。知ってる。夜の校舎でたまにそこだけ電気がついてて。そこで昔のセーラ服着た黒髪の女の子が、白衣の男に天井から吊るされてハリツケにされてるのが見える……だっけ」

 

 生徒A「そー。それでね、目が合うと指さされて、失踪しちゃうんだって!」

 

 生徒B「それさ、失踪してたらその前のくだり誰も知らないはずじゃね?」 

 

 生徒A「……確かに。あ、ねぇ、ロールアイスのお店近くにできるんだって」

 

 生徒B「最近動画よく流れてくるやつ!! こんな田舎に!? え、行こ。絶対行こ」


 生徒A「そう言うと思った!  今週末の土曜日部活半日だしそこで行こうね」




 【完】

 

教師(佐山くん):シンプルサイコパスのやべぇやつ。オカ研に対してしらばっくれているのは普通の人に擬態しようと頑張ってるので、幽霊が見えるとか言わないようにしてるだけ。身も心も美しい朝霧さんが宝物だった。自分の知る中で1番綺麗だから標本にしたかった。勢い余って準備が整う前に殺しちゃったから、失敗したけど。朝霧さんはそんな男に恋なんかしない、汚されようとしない。解釈違いだった。せっかく殺して誰のものにもならない状態にしたのに、幽霊になっても皆に愛されるなんて(認知の歪み)、流石僕の朝霧さん。仕方ないなぁ、旧校舎壊しちゃおうね。また会えたの嬉しかったから、赴任してきて数年悩んだ。明智だと思われてるのは癪だから、この際明智なんかに君が汚れる価値なかったって分かってもらおう。早く僕だって気が付いてくれないかな。彼奴はここまでしてくれなかっただろ? こんなこと言ってくれ無かっただろ? ね、僕の方が良かったでしょ、朝霧さん。

※これでその執着の正体が恋だという自覚がないのである。びっくりだね、怖いね。

※朝霧さんで標本にするの失敗して強烈な執着が残ったから、朝霧さんより綺麗な生物は見つからず、ちょっと惹かれても持続しなかった。そのおかげで他の犠牲者は居ない。朝霧さんで成功してたら人間標本コレクションするシリアルキラーになってた。

※殺した後1回吊るしたのは、腐る前に目に焼き付けておきたかったのと、本当は標本にして飾りたかったからレイアウトしてみていた。

※どうやっても腐っちゃうから、悲しすぎて泣きながら埋めたし、次の日1回名残惜しすぎて掘り起こしちゃった。そしてまた泣きながら埋めた。



 オカ研:寺生まれ。霊感どころか、低レベルの幽霊なら払える。10年以上残ってる地縛霊のアサギリさんのことは気にしてた。確実に適切に弔われてないし、今は死んでいる自覚が無いようだが首吊り死体の状態にもなることから、少しのきっかけで他殺か自殺か死んだ所以を思い出すと思っていた。まぁ、刺激しなきゃ大丈夫だし旧校舎に封印施しとこうと思っていたら、卒業前に旧校舎が壊されると聞いて大慌て。それがきっかけに無害だったアサギリさんが変質しかねない、なんとか今のうちに払わねば。



 朝霧さん:白百合のお姫さまみたいな、人並みの善性で正しくあろうとする真っ直ぐな清廉な人。明智先生に恋する思春期。孤児で父性を無自覚に求めていたので、自分を気にかけてくれる顔の悪くないおじさんに恋していた。めくらだね。実際の明智先生は、守るなんて言ってくれないし、流石に体裁を気にして渡辺先生の味方だったし、あまり褒めてくれないし、女心わかんないし、でも、ちゃんと先生と生徒として朝霧の恋心に線を引いて子供として守ってくれる大人だった。

つれない態度だった明智先生と違い、理想の明智先生像を佐山くんに与えられて、更に根付いてしまっていた。


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