罪
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ハァ、ハァ、ハァ…
私はその足で家の裏山まで鳥籠を持って走った。
午後2時。陽が高く昇っている。
その場に座り込んだ。
私の髪は汗で湿っていて、首筋から汗の粒がしたたり落ちた。
フフフ…と自然と口角が上がる。日曜日にローラが礼拝堂に来ているから私も通う事にしたんだ。この日のために。
いいよね…
私はカナリアの入っている鳥籠の蓋を開けた。
しかしルナの想像に反してカナリアはそこから出なかった。
ルナ「もう出ていいんだよ」
ルナは優しくカナリアを右手で掴み、鳥籠から取り出した。そして優しく、地面に置いた。
ピーちゃんは初めてその足で若草色の草の上を踏んだ。
ぴょん、ぴょん。跳ねて草の上の感覚を楽しんで、たまに草をついばんだ。
カサッ。近くの木に茶色の小鳥が一羽飛んできた。
ルナ「ピーちゃん、見て。」
カナリアに教えようと小鳥の方を指さす。
小鳥も、こちらを見ている。
パサッ
私と目が合うと、その小鳥は直ぐに逃げていってしまった。
…あれから調べたんだ。切った羽はいずれ抜けて生え替わるって。
ルナはカナリアを両手でつつみ、空高く放り投げた。
ルナ「飛べ!」
カナリアは羽をばたつかせ3メートルほど飛んで、ぎこちなくしずんで、それを数回繰り返した。
ルナの金色の髪が風になびく。
それと同時にカナリアは風に乗った。
ルナの紫色の瞳に映るのは羽ばたき始めた黄色いカナリアただ一羽。
青空の彼方に、全速力で羽ばたいていった。
青空と、森の中で、自由になったんだ。
黄色いカナリアはルナの瞳の中から消えていった。
地面に残されたのは無機質な鳥籠だけで。
ルナ「ちゃんと、飛べるじゃん」
それは夢にまで見た美しい光景だった。
鳥籠の中のカナリアと自分をいつのまにか重ねてしまったから。
8歳のルナは、カナリアを見送るように、しばらくそこに立ち尽くした。
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ヤクでトランス状態のルナに記憶が流れ込む。
飛ぶ、飛んでる。私はカナリア
美しい光景。
得られた自由。先の見えない大空。
ルナ「残酷なことをしたと思う」
カナリア「どうして?その時、思うようにやっただけでしょ」
ルナ「今まで鳥籠の中で人に餌を貰い生かされていた鳥が、これから自然の中で自力で生きていけると思う?」
カナリア「さあね。でも私なら嫌だね。檻に入れられっぱなしは。で、その子にはなんて言ったっけ」
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