籠の中の鳥 過去
他人の家に行ったのは初めてだ。とても緊張する。自然に肩に力が入り、両手はこぶしを握っていた。
スクールバスから降りて少女の家に着くと、彼女の庭の芝生から大型犬が飛び出してきた。
ワンワン!!
ルナ「きゃっ」
驚きのあまり腰を抜かしてしまった。
少女「こら、ジョン。おすわり。ごめんね、びっくりさせて」
ルナ「ううん、大丈夫」
少女に手を引かれて白とピンクで統一された彼女の部屋に通された。気の良さそうな彼女のお母さんがオレンジジュースとクッキーを差し入れてくれた。
少女「それでね、カナリアってこの子」
ルナ「わあ、綺麗」
小さなくちばしに黄色い羽。チュン、チュン、と、籠の中で跳ねるように動き回る。
少女「新しいペット、可愛いでしょ」
ルナ「うん可愛いね」
その同意に心は込められていなかった。
可愛いし綺麗だけど、ずっと籠の中に入れられてたら可哀想だよ。なんて言えるはずもなく。
ペットって閉じ込められて、前の私みたい。愛されてる分だけいいけど。
少女「こうやって眺めてるの、楽しいね」
ルナ「そうだね。でも例えば、餌をあげる時に籠を開けるでしょ。逃げたりはしないの?」
少女「それは大丈夫!」
少女は得意げに話す。
少女「逃げないように、ペットショップの人が飛べる羽を切ってるってお父様が言ってた。クリッピング?とかっていって普通らしい」
ルナ「え…」
ルナは絶句してしまった。あまりにも残酷なのに、どうして普通にそんな事を話すのか。
少女「びっくりするよね!でもこうして元気だし大丈夫。ね、ピーちゃん」
ルナ「ローラ…」
ルナはその時初めて少女を名前で読んだ。
ローラ「どうしたの?」
ルナ「あ、もう帰る時間だ。またピーちゃんに会わせてね」
ローラ「もちろん!またね」
ガチャン。ルナは足早に部屋を後にした。ローラの名前を呼んでから、ローラの目を一度も見れなかった。怒りからか、それが伝わるのが怖かったからか分からないが、無邪気にカナリアを愛でる彼女に何の罪もないはずなのに、許せないという気持ちが湧き上がった。
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ルナ「ただいま」
よちよちと歩く弟を追いかける義母のシンシアはルナに優しく声をかける。
シンシア「お帰りなさい。学校どうだった?」
ルナ「普通だよ」
ルナは義母のことをお母さんと呼んだことが一度もない。今まで誰も自分に構ってくれなかったのに、急に家に来て母親面してくる事が不快だった。
シンシア「暗い顔してどうしたの。レオに付きっきりでルナの話を聞いてやれずごめんなさいね。学校には馴染めてるかそれが心配で…ほら、私が学校に通う様に言ったでしょ」
ルナ「シンシア、それは私をレオから遠ざけたかったからでしょ。それに母親ヅラしないで」
私は、嫌な私になっていた。
シンシア「そんな事はないわ。レオとも仲良くしてほしいの。…それに、お婆様から意地悪されていたでしょう。助けてあげられなくて、ごめんなさい。あの頃はレオを産んだばかりでお婆様にもお父様にも何も言えなかったの。本当にごめんなさいね」
ルナ「言い訳するな。もう聞きたくない。アンタはうちの財産目当てでしょう」
シンシア「ルナ…違うわ」
ルナ「なにが違うって?元々貧乏な家の出だったくせに。身寄りもいなくて私のお父様に近いたんでしょ」
シンシアは絶句していた。
よたよたと近づいて小さな手を伸ばしてきた弟をふりはらい、自室へ向かいバタンと扉を閉めた。
能天気に振る舞い愛されてる弟が憎い。
何を考えているのか分からない義母には嫌悪感しか沸かない。
飛べなくされたカナリアを可愛いと言って閉じ込めておくローラが怖い。
父は最近帰りが遅くなっていた。私にとって都合の良いことだ。
そして私が8歳になった頃、初めて罪を犯す。




