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来ていただいてありがとうございます!



え?ここ?ここ一帯がそうなの?

クリアル山から緩く続く丘陵地帯。なだらかな緑の草原と花。見渡す限りの広大な土地。


フィル様に連れられて国王様がくれた土地を見に行った。土地っていうか、小さな領地だった。そういえば王家の直轄領って言ってたっけ……?

「エリーはここの領主、リュミエール王国の貴族の一人になったんだよ。聖山の一族という貴族の当主だ」

「…………」


いやいやいや、一人しかいないのに一族とか当主とか訳が分からない。私、ちゃんと分かってなかった……。ちょっと土地貰って畑にしようと思ってただけだった。領地経営なんて私できないよ。どうしよう。何も分からずにサインなんてしなきゃ良かった。

「大丈夫だよ。国王陛下がきちんと人を手配してくださってる。エリーはゆっくり学んでいけばいい」

フィル様が優しくそう言ってくれた。フィル様のグリーンがかった金色の髪が風に揺れてる。


そうだ……私いろいろあってまだフィル様に何も言えてないんだった。ちゃんと言わなくちゃ。でもその前にグラース様からお預かりしてたものを渡さなきゃ。ずいぶんと遅くなってしまったけれど。


「フィル様。これを。グラース様からお預かりしてました」

「鍵?」

「はい。グラース様のお部屋の鍵です。奥様、オーレリア様の遺品や肖像画があるそうです。フィル様にって」

「父上が……」

鍵を受け取ったフィル様は悲しそうな、懐かしむような顔をしてた。


風が吹き抜けて草原を揺らす。


「あの後、あの神殿の付近で遺品や遺骨らしきものが見つかったんだ」

闇の扉があった忘れられた神殿は隣国との国境になっている山の中腹にあり、そこへ行くには険しい山道を登る必要があった。神殿の裏には崖があり、かなり危険な場所にあったそうだ。

「……そうですか」

「ありがとうエリー、君のおかげで父を見つけることが出来た」


「……いえ、ごめんなさい」

本当はフィル様がお父さんともっとお話ししたかったよね。それを思うと申し訳無かった。

「どうしてエリーが謝るの?エリーのおかげで父は悪魔から解放されたんだよ」

フィル様は私の肩を抱いて私の手を握った。

「父の言葉を伝えてくれてありがとう、エリー」

相変わらずフィル様近い……。


「フィル様、あの、私、ルーナ様の事誤解してて申し訳ありませんでした」

ルーナ様のことは正直衝撃だった。後日丁寧にお手紙でお断りしたけど、ルーナ様からはまだ諦めませんわとのお返事が来た。もう私にはどうしていいのか分からない。


「父は母を亡くして壊れてしまった。母の魂を求めて世界を彷徨い、その深い愛情を悪魔に利用された」

「あの!でもグラース様はフィル様の事をちゃんと大切に想っていらっしゃったと思います」

「うん。分かってるよ、たぶん。でもね、今は父の気持ちが分かるんだ」

「フィル様?」

「私には君だけだ、エリー。その気持ちは今も変わっていないし、変わることは無いと思う。私は……」

「待ってください!!」

私はフィル様の口を両手で塞いだ。


「わ、私、フィルフィリート様が好きです」


フィル様の目が見開かれた。


「私、自分でも気が付かないうちにクロティルド(前世)の記憶にずっと引きずられてしまっていて、怖かったんです。だから……」

私の言葉は続かなかった。私の両手はフィル様に引かれ、あっという間に抱きしめられ、口を塞がれてしまったから。


その日クリアル山の麓付近には強い風が吹き続け、草原に咲いた花々を舞い散らし続けた。







「あれ?なんで?」

なんかまだ求婚のお手紙が来てる?もうフィル様との婚約が正式に決まったのに?私はエドさんが持ってきてくれた手紙を仕事部屋で開いていた。


「そりゃあ、当然だよ。エリーはまだ十五歳だし、聖女だし、相変わらず王様候補だし、みんな諦めないよ」

「なんで王様候補?断ったのに……。っていうかどうしてノアがここにいるの?」

今、頂いた領地に小さな屋敷を建設中で、私はリーフリルバーン家のお屋敷でお世話になってる。


父さんと母さんにも来てもらおうと思ったんだけど、母さんが王都で暮らしたいらしくて二人ともカレンの元へ行ってしまった。うちの農地はパーソンさんご夫妻に譲ってもう家に帰るつもりは無いみたい。カレンはサンセレス家の養女になってて、将来は女王となるべく勉強中。意外と頑張ってるってルーナ様から手紙が来た。


なんでノアが私の手元を覗き込んでるの?

「エリーは王都の学園に行くんでしょ?僕も行くから」

そうなのだ。私は一応神殿で勉強をしてたんだけど、同年代の子達より圧倒的に学力が足りないらしいのだ。なので来月から王都の学園へ入ることが決まってしまった。ちょっと恥ずかしい。

「え?ノアはもう卒業してるんでしょ?」

「うん。魔法学の教師になるんだ。よろしくね」

ノアはそう言って片目を瞑った。王都の学園は六年制だ。十三歳から入ることが出来る。ノアは優秀らしくてあっという間に飛び級で卒業してしまったんだって。


「ノアレーン、いい加減エリーの事は諦めてくれないか?それに先ふれもなしに跳んでくるのは禁止だ」

私の仕事部屋へ入ってきてフィル様が私を引き寄せた。私が手に持っていた手紙はフィル様の魔法でどこかへ飛ばされていった。たぶんエドさんの仕事部屋に運ばれたんだと思う。


「嫌だよ。それに残念でした!みんなまだ諦めないって言ってるよ?」

ぺろりと舌を出すノア。

「エリーは私の婚約者だ!」

そう言って肩を抱かれて抱き締められた。かあっと顔に熱が上がる。


「……まあ、今はいいや。エリーが幸せならね。でも泣かせたら容赦しないよ?」

「泣かせたりなどしないさ」

「どうかな?まだ先は長いからね」

ノアは挑戦的に笑ってその場から消えた。


「全く……」

「あ、あの、フィル様少し苦しいです……」

「……すまないっ!つい……。随分たくさん作ったんだね」

フィル様はそっと力を抜いて、私の机の上の花光玉を見た。


私は今も花光玉を作ってる。何故か悪魔憑きの病の人はもう殆どいないのに、花光玉を欲しがる人がたくさんいるらしい。お守り代わりなのかな?王都の雑貨店の店主さんから、できたら作って卸して欲しいと打診があった。お世話になったし、学園に入るまでは出来るだけと思ってるんだ。


「学園に行ったらしばらくは作れなくなるので頑張りました」

「ああ、綺麗だ。エリーみたいだ」

フィル様は花光玉を一つ窓の方へかざした。花光玉を通った光が乱反射して部屋の中に溢れた。









小さな(リルエリー) 花の息吹(フルラ) 集めた星のような光(アストランディア)……か



エリーが祈りを込める時、集まって来た光がとても清らかで美しいことをエリーだけが知らない。その姿が同じように清らかで美しいことも。


フィルフィリートは愛しい少女を眩し気に見つめた。











ここまでお読みいただいてありがとうございます!

こちらで完結となります。

長い物語になってしまいましたが、お付き合いくださった皆様ありがとうございました。

ひとときでもお楽しみいただけましたならとても幸せです。

ありがとうございました!

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