87 決めたこと
来ていただいてありがとうございます!
「……よく寝た……」
やっぱり目が覚めたのは夜明け前だった。見たことがある天井っていうか天蓋……。ベッドにわざわざ屋根をつける意味ってやっぱり良く分からない。お部屋をうんと狭くして、ベッドだけを置くとかでいいんじゃないかな?なんてどうでもいいことを考えながら起き出した。そう、私が目覚めた場所はお城だった。……なんで?
窓に近づいて重たいカーテンを開けた。ついでに窓も開けてみた。
「寒い……」
少しひんやりした風が季節が進んだことを教えてくれる。
「お城からクリアル山がちっちゃく見えるんだ」
私は朝の冷たい空気の中で考えて、そして決めた。
しばらくすると、ドアが開いて誰か入って来た。
「エリー様!!」
「エリー様!お目覚めになられたのですね!」
「急ぎ知らせてまいります!」
え?ミラレスさんに、マーサさんに、マイヤさん?なんで?なんで?あれ?ここってお城だよね?
急激に部屋の外が慌ただしく、騒がしくなった。人が走る気配やぽそぽそと話す気配。お日様がある程度上っても、私はベッドから動かないように三人に言い含められた。お医者様が来るまでは面会謝絶なんだって。三人が心配するのももっともで、私はひと月以上眠っていたらしい。
「異常はないですね」
「ありがとうございました」
朝食の後、王宮医という人の診察は割とあっさり終わり、私は健康体のお墨付を貰った。
「あの、どうして私はお城にいるんでしょうか?」
ミラレスさんとマーヤさんとマイヤさんは顔を見合わせた。ミラレスさんが淹れてくれたお茶を飲みながら気になっていることを尋ねていった。
どうやら悪魔はあれから出現してない。悪魔憑きの病は新しく罹る人がいなくなって、罹ってた人も殆どが快方に向かってるんだって。
「良かった……」
安心した……。じゃあ私がここにいる理由って?
ミラレスさんとマーヤさんとマイヤさんがここにいるのは目が覚めない私の世話をするためだった。志願してくれたんだって。ちょっと、ううん、かなり嬉しかった。ミラレスさんとマーヤさんとマイヤさんはとても仲良くなったみたい。
「エリー様が目覚められたら式典が行われることになっております」
ミラレスさんが嬉しそうに話してくれた。
「ああ、国王ご夫妻の十周年の式典をやり直すんですね。でもどうして私が起きてから?」
「まあまあ!何を仰ってるんです?」
「エリー様とカレン様の偉業を称えて式典が行われるんですよ!」
「エリー様とカレン様はこのリュミエール王国を救った聖女様なのですから!!」
ミラレスさんと、マーヤさんと、マイヤさんはそれぞれに嬉しそうしている。
なんでそうなるの?
あまりの事にぼんやりしてると、あっという間に式典の準備が整ってしまった。
着替えが終わって久しぶりに控えの間でカレンと顔を合わせたけど、カレンは相変わらずカレンだった。
「あら、エリーったらずっと寝てたんですってね。大丈夫なの?悪いけどそんなことじゃ私には勝てないわよ?」
なんかホーッホッホッホッとかって笑ってたんだけど、どうしたの?この子。
着てるドレスやケープやベールはお揃いのシンプルな物なんだけど、なんかやたら光る指輪やネックレスや髪飾りをつけてる。この子とは趣味が合わないのか、私のセンスが壊滅的なのかちょっと考え始めてすぐに止めた。名前を呼ばれたから。
謁見の間にカレンと二人で入ると、わっと歓声が沸き拍手が起こった。何事?!って思ったけど、カレンが平然としてたから、私も何とか落ち着けた。ウォルク様、シオン様、ノア、アルジェ神官様、ルーナ様、フィル様が王様の前に並んでる。みんなが無事なことは確認したけど顔を見てはいなかったから心配だった。
わあ!みんな正装してる。カッコいい!それにみんな元気そうで安心した。
ウォルク様は騎士様の正装。シオン様は薄紫の上下に深い紫のマント。神官様は大神官様より丈の白の長衣にローブ、ルーナ様はドレスだ!!綺麗!黒にも見える深いブラウンのドレスが良く似合ってる。ノアは黒のローブ。黒の一族の正装だわ。フィル様も髪をまとめて、深い緑の上下に白いマント、そしてあの神剣を腰に差してるみたい。国王様の挨拶の後、それぞれに勲章と褒章を授与された。国を救った英雄とかなんとかで。
国王レオナルド陛下から何か他に望むものは無いかと聞かれたので
「あの悪魔はもうこの世界から消えました。私の役目は終わったと思います。これからは故郷で静かに暮らしたいです。王様にもなりたくありません」
悪魔が消えたのなら、責任を逃れることにはならないよね?今回頂いたお金とお給金を貯めたものもあるし、贅沢しなければ何とかやっていけるわよね。うん。
「クリアル山の南、緑の一族の領地に隣り合う王家直轄領を与えよう。聖山の一族としてそこで暮らすが良い」
え?土地をもらえるの?そっか。そこでお花や野菜を育てて暮らせばいいのね。
「ありがとうございます。国王陛下」
私はホクホクだった。何を育てようかな?シオン様からあの青紫の果物の苗を頂けないか聞いてみよう。
あれ?なんかざわついてるけど、どうしたんだろう?
式典の後は舞踏会が行われるってことで着替えさせられた。同じドレスじゃダメなの?
私もカレンもたくさんの人に囲まれて挨拶されている。カレンはすっごく楽しそうだけど、私はへとへとだった。元々ダンスなんて踊れないし、なんとかバルコニーへ逃げたよ……。
「エリーっ!!良かった。やっと君と話せる」
やっと一息ついてるとフィル様がやって来た。私は目覚めた朝の決心を思い出す。
「フィル様……?どうして?ルーナ様をエスコートなさらないんですか?」
「話を、話を聞いてくれ!誤解なんだ!!彼女とは何もない!!」
「え?でも……」
あの時……、私は思い出してフィル様から目を逸らした。ああ、ダメだ私!ちゃんとけじめをつけなくちゃ。私の気持ちを伝えて、それから求婚をお断りしなきゃ。フィル様だってルーナ様の所へ行けないもの。そう、それが私の決めたこと。
「あ、あの、フィル様、私……」
玉砕覚悟で体が震える。でも頑張れ、私!
「ちょーっとお待ちくださいませ!」
「え?ルーナ様?」
どうしたんだろう?ルーナ様が怖い顔してこっちへ来るわ。いけない。私がグズグズしてたから、修羅場になるの?誤解を解かないと。ちゃんとフィル様との婚約を取り下げてもらわなきゃ。
「ごめんなさい、ルーナ様!」
「私を選んでくださいませ!!」
ああ、やっぱり、ルーナ様はフィル様の事を……
がしっと肩を掴まれた……?
「ルーナ様?」
何で私の肩を掴んでるのかな?
「私、エリー様をお慕いしております!!法律上結婚はできませんが、人生のパートナーとして私をお選びくださいませ、エリー様!!」
「……………………………………………………え?私?」
私は混乱した。私の意識はまたあの白い世界へ飛んでいきそうになったよ?
倒れそうになった私をノアが支えてくれた。ルーナ様の後ろからウォルク様、シオン様、神官様もついて来てたんだ。そしてルーナ様とあの日の真実を話してくれた。
私の知らないことって、まだまだたくさんあるのね……。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!