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80 黒い部屋

来ていただいてありがとうございます!



「あの、ここがどこだか分かりますか?」

もう一度目の前の薄緑の髪の男の人に尋ねてみる。彼はぼんやりと私を……見てないわね。というか何も見てないんじゃないかなってくらい、焦点が無い。

「さあ」

「私、多分悪魔に連れてこられたんだと思うんですけど」

「そうなんだ」

「貴方は悪魔なんですか?」

「違うと思う、多分……」

「じゃあ貴方も悪魔に連れてこられたんですか?」

「分からない」

この人は悪魔の仲間なんだろうか?不躾だとは思ったけれど目の前のこの男の人をじっと観察した。うーん、やっぱり悪魔じゃなくて人間みたいに見える。でも何か違和感があるんだけど、なんだろう?私は首を捻った。


「私はエリーと申します。えっと、エリー・ルヴェール、です」

私はまだ言い慣れない名前を口にした。

「……ルヴェール」

その人は考え込む様子を見せた。髪の色からして緑の一族の人の可能性がある。もしかして何か思い出したかも?

「あの、あなたのお名前は?」

私はもう一度尋ねてみた。

「……覚えてない。思い出せないんだ」

優し気な風貌のその人は力なく微笑んだ。ダメだったわ。

「何か大切なことがあったような気がするんだけどな……ごめんね。役に立てなくて」

「……そんな!こちらこそすみません」

謝らせてしまった。私は申し訳ない気持ちになった。


私はなんとかここから出られないかと部屋の外に出てみた。

「外は見えてるんだけど、窓もドアも開かないわ……」

窓からは手入れされた庭が見える。咲いているのは何故か赤や黒の花ばかりだけど。

「外も何だか不気味な感じね」

廊下に置いてある花瓶を叩きつけてみたけど、窓は何かに弾かれたようにびくともしなかった。つくりは豪華な貴族のお屋敷という感じなんだけど、人の気配はなくて恐ろしいくらいに静かだった。それに全体的に薄暗くて、呼吸がしづらい。押しつぶされそうな感じがする。入れる部屋はあったけど、どの部屋もやっぱり無人だった。殆どの部屋には鍵が掛かってる。私は仕方なく元居た部屋へ戻ることにした。




向かい合って座っている薄緑色の髪の男の人のぼんやりと焦点の定まってないような瞳が一点を見据えている。

「……ねえ、そのペンダント見せてくれる?」

「え?これですか?」

私は少しためらった後、白雪華晶のペンダントを見せるために近づいた。何となく体から離すのは良くない気がしたのだ。

「綺麗だね。クリアル山の冠雪のようだ……。とても温かい力を感じる。貴女を守っているのだね」

白雪華晶を両手で大切そうに持ったこの人は最初はどこか遠くを見るような瞳をしていたけれど、次第にそのエメラルドの瞳に意思の光を湛え始めた。


「ルヴェール……そう、ルヴェール……アルブル、エヴァンジェリン、エド……。あれ?エドに妹なんていたっけ?いつ生まれたんだろう?」

「いえ、私は養女でって、エドさん達をご存じなのですか?」

「ああ、よく知っているよ……。そうか君はあの家の養女になったのだね。でもまた何の為に?確かに女の子を欲しがってはいたけど……」

「それは、その……フィル様と婚約をさせていただく為に……」

庶民というか農家の娘の私だと釣り合わないからだったんだよね。


「フィル……フィルフィリート……?」

「フィル様を知ってらっしゃるのですか?」

問いかけながら気が付いたよ。この方は似てると思う。たぶん……。

「フィルフィリートは私の息子だ。私はグラース。グラース・リーフリルバーン。そうかフィルは君と婚約を……。大きくなったんだねぇ。もう縁談が来る歳か。いくつになったんだろう?」

やっぱりフィル様のお父様だった。

「たしかもうすぐ十八歳になられると」

フィル様は秋生まれだって聞いてる。

「そうかぁ。十八か。君のおかげで思い出したよ……。ん?何だい?」

思わずグラース様を見つめてしまってたみたい。

「すみません。随分お若いなって思って。それにフィル様とはあまり」

「似てない?」

「す、すみません」

どう見ても二十代後半くらいに見える。ウォルク様と同じくらいか少し年上くらい?

「いいんだよ。私としてもその方がね。フィルは妻に似てるんだよ。素晴らしいね」

その人は嬉しそうに笑った。

「そうですか?でも、よく見れば瞳はグラース様に似てらっしゃいます」

「そうかな?良く分からないんだ。フィルとは彼が幼い頃に別れてそれきり会ってないからね。何しろ私はとうに死んでしまっているのだから」

「!」

違和感の正体がやっと分かった。存在感が薄いのだ。あの花幽の塔の幽霊達のように。


フィル様……悲しむだろうな……

胸が痛んだ。







ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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