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78 その時のフィルフィリート

来ていただいてありがとうございます!





エリーを街へ連れ出そうとしたんだ。ずっと部屋にこもって花光玉を作っていると聞いたから。


「エリーは真面目過ぎるところがある。息抜きも必要だ」


都合の良い言い訳だとは分かっていた。本当は自分が一緒にいたいだけなんだ。もっとたくさん話して、もっとそばにいたかった。ノアレーンやウォルクやシオンよりも。本音をいえば、今すぐにでもリーフリルバーンの屋敷へ連れて帰ってしまいたかった。誰の目にも触れさせたくない。女王や王妃になんてならなくていい。


「傲慢だな、私は」


ここのところ、ルーナ嬢がやたら話しかけてくる。彼女は何か隠しているように見えていたから、探りを入れるつもりで話を聞いていた。同性ということもありエリーはルーナ嬢に気を許しているようだったから心配だったのだ。サンセレス家の人間とはあまり接点が無かった。陽の一族とはそれなりに親交があるが、サンセレス家のしかも当主の娘とはこれまで面識も殆どなかった。社交の場に出てくるのは当主と長女くらいだったからだ。


商いを生業にする一族だ。人当たりも良く、話術にも優れている。第一印象で悪感情を持つ人間は少ないだろう。だが、何かが胡散臭いと感じられた。ウォルク様ではないが直感でそう思った。ただ、エリーに対する害意は無いように思われた。むしろ好意を持って接している。友人としてというより敬意のような……。それ以上のような……。いや、考えすぎだろう。


スミスヴェストル家のエリーに用意された客室を訪ねた。

「エリーは出かけたのですか?ノアレーン様と?」

「はい。大変申し訳ございません」

スミスヴェストル家の屋敷でエリーの世話をしてくれているミラレスという女性が対応してくれた。どうやら先を越されてしまったようだ。

「……そうですか」

私はため息をついた。ここはノアレーンのホームだ。そしてかつてのクロティルドの家。二人の間には私の知りえない絆や思い出がある。それが私の気持ちを重く暗いものにしていた。実際、最近のエリーはノアレーンと随分仲が良いようだ。いや、元々家族同然なのだからそれは自然なことだと私は無理矢理自分を納得させていた。



エリーは時々前世の記憶を夢で見ていたらしいと聞いた。他人の記憶として。けれどあの国王と出会ったことで全て思い出してしまったのだ。結果として、エリー今とクロティルド過去が繋がってしまったのだろう。あの二人の間に入り込むことは出来るのだろうか……?私は焦っていた。エリーからの返事がまだない事と、途中で止まってしまっている婚約の手続きだけが私のよすがだった。用意された客室へ戻る気にはなれず、エントランスに近い談話室へ行った。エリーが帰って来たら、少しでいいから話がしたかった。



うかつだったのだ、私は。ルーナ嬢の思惑に気が付いてなかった。談話室に入って来たルーナ嬢は挨拶を交わした後は無言で窓の近くに立ち、何かを見ていたようだった。大体彼女はこんな感じだった。時々妙に馴れ馴れしく話しかけてきたりするが、無言の時も多かった。


あの時もそうだった。いきなりやたら楽しそうな声でにこやかに話しかけてきた。

「あら、エリー様がお帰りになったようですわ!」

「エリーが?」

思わず私は立ち上がって窓に近づこうとした。ドアの外から話し声が聞こえる。ドアが閉まっていたことに私はその時初めて気が付いた。これではエリーに誤解されてしまう。声が近づいてくる。私はドアの外に気を取られていた。だから、体に何かがぶつかってきたのに咄嗟に対処できなかった。


「カフェに寄っても良かったのに」

「どこも混んでいたでしょう?私は人がいっぱいなのは慣れないから……」

そんな声が聞こえてきた。


「……サンセレス殿?」

一体何を……?言おうとした私の首に腕を回しルーナ嬢が顔を近づけてくる。思わず肩を掴み引き離そうとしたその時、ドアがガチャリと開いたのだ。


決して触れてはいない。けれどそう見えてしまっただろう。私は絶望的な気持ちになった。更に次のエリーの言葉に酷く衝撃を受けた。



「ごめんなさいっ!お邪魔しましたっ!」



エリーに求婚している私の不義理(冤罪)を咎めるでもなく謝られた。それは、私にとっては残酷な事実を物語っていた。そのことが数瞬私の動きを止めた。


「なんだ妬かないのね……ならかえって良かったわ」

ルーナ嬢の呟きで我に返った私は彼女を突き飛ばし、エリーを追いかけた。


違う!


心移りなんかしない!



「待って!エリー!」



エリーの姿はもう見えなかった。向かった方向にはエントランスがある。外へ出たのは間違いない。

「どこへ行ったんだ。エリーの行きそうな場所……」

花に囲まれたエリーの姿が脳裏に浮かんだ。

「庭園か」

私は走り始めた。




それは美しいけれど、禍々しい存在だった。黒髪黒い瞳の男、いや悪魔だ。全身が総毛だった。

「……ッ!エリーから離れろ!」

黒い腕がエリーを抱き締めている。怒りで頭がどうにかなりそうだった。神剣で切りつける。

「なっ?!」

闇が霧散した。エリーと共に。



庭園には倒れた一人の老父と黒く濁った花光玉が残されていた。



「っエリーっっ!!」


膝をつき、顔を覆った私の叫びが空しく響いた。













◇◇◇◇◇◇◇◇◇




えーっとここは何処でしょう?


私は悪魔に連れ去られたんだと思うんだけど。悪魔の姿はここにはないみたい。


黒い花をモチーフにした壁紙。暗い色調の家具。そして黒いドレスを着ている私。鏡台に映る私の髪には黒いリボンまでついてる。


「やあ、おはようお嬢さん」

目の前には淡い緑の髪の男の人がいる。その人は大きな黒い椅子に座ってる。誰だろう?誰かに似てるんだけど、思い出せない。

「おはようございます?」

私は一人掛けの大きな椅子で眠ってたみたい。よく体が痛くならずにすんだものだわ。

「あ、あの私、エリーと申します。貴方はどなたでしょう?そしてここはどこなんでしょうか?」

私が尋ねると、その綺麗な男の人は困ったように微笑んだ。

「ごめんね。分からないんだ……」

私も困ったわ。どうしよう……。







ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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