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75 北の神殿

来ていただいてありがとうございます!




今日は北の神殿へ向かうために馬車に乗ってる。北の神殿は北の塔に近くて、王都の中でも外れの方にあって少し遠いんだって。シオン様はまだお城でお仕事中。ウォルク様ともフィル様とも気まずい私は主にノアと喋ることになる。何よりフィル様にはルーナ様が張り付いてるから、話しかけづらいんだよね。


「えっと、北の神殿は星の神様を祀ってるんだったよね?」

「うん。夜空の天体は僕達の生活に影響を与えてるらしいからね」

「そうなの?ノア」

「あと運命を決めてるんだって。光の神が我らを照らし、山の神が大地と境を守護し、星々の神が運命を定め……だったかな?」

「そうなんだ……」

運命が決められちゃうのってなんか怖いな。私がこの先どうなるかも、もう決まっちゃってるのかな?

「神様が決めるのは大きな歴史の流れだっていうから、エリーはそんなに怖がらなくていいんじゃない?」

「う、うん」

私って何考えてるか分かりやすいのかな?私は頬を押さえてノアを睨んだ。

「エリーは昔っから分かりやすいよ」

ノアは嬉しそうに笑った。そんなに?!



「この辺はあんまりお家もお店も無いんだね」

私は馬車から外を眺めた。馬車が王都の中心から離れるにつれて建物がまばらになって寂しい感じになっていく。

「この辺りもかつて激しい戦場になったと聞く。花幽の塔にも近いからあまり人々が居つかなかったんだよ……」

ウォルク様が説明してくれた。

「そういえばそうでしたね」

私も前にこの辺りで戦った覚えがある。当時は建物が多かったのに。そっか、まだここには人が戻ってきてないんだね。隣国へ続く街道。ここを通って隣国はリュミエール王国に攻めて来た。私もあの時は必死で戦った。王国の人々を守る為に。そしてあの恐ろしい悪魔の所業を見た場所……。クロティルドの記憶を思い出すと震えがきた。


「エリー、大丈夫?もしかして体調悪い?今日はやめにしてうちの屋敷へ先に向かおうか?」

ノアが心配そうに私を見ていた。

「ううん。何でもないよ。ちょっと昔の事思い出しちゃっただけだから」

私は笑って見せた。

「前からずっとそうだったけど、そんなに無理しなくていいんだよ?エリーは一人じゃないんだからさ」

「うん、ありがと。ノア」

「そうですわ!私もおります!本当に大丈夫ですの?エリー様。昨夜も花光玉を作り続けていらっしゃいましたね?エリー様は私……、達の希望なのですから無理はいけませんわ!」

ルーナ様も心配そうに私を見てる。ルーナ様はフィル様とお話しした後、寝る前は必ず私の部屋へ来てくれるんだよね。他愛のない話をしたり、髪をとかしてくれたり、美容に良いってクリームを塗ってくれたり、親切な人だなって思ってる。お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな?

「大丈夫です。ルーナ様、お気遣いありがとうございます」

ルーナ様の隣のフィル様も私の方を心配そうに見てるけど、私は慌てて目を逸らしてしまった。



実はあれから何度かフィル様がお菓子をくれようとする……。あああっ!フィル様は優しいんだよね。分かってるの。でも、そんなことされると思い出してまた恥ずかしくなっちゃうんだよ!それに夕ご飯や朝ご飯の後や神殿に向かう馬車の中とか、そんなにしょっちゅうお菓子食べてたらさすがにまずいです、フィル様。って言いたいけど言えない……。




馬車が止まって北の神殿に着いた。この辺りには民家は殆ど無くてただ花畑が広がってる。花幽の塔と雰囲気が似てるみたい。塔の周辺に咲いてた星型の花もたくさん咲いてる。

「ほら、あっちに塔が見えるよ」

ノアが指さす方向、遠くの方に霞んで花幽の塔が見えてる。

「ここにも霊達がいるのかな?」


「いいえ。ここにはもう殆どいませんよ。我々が鎮魂の祈りを日夜捧げておりますから」

振り返ると北の神殿の建物から神官服を着た人達が外に出てきていた。また嫌味を言われるのかとちょっと覚悟したけど、ここの神官様達はそんなことは無かった。

「たまに迷い込んでいる者たちはいましたが、最近はそれもなくなりました」

一番年長らしい細い目の神官様が前に進み出た。この方が神官長様なのだろうけど、他の神官様達と同じ服装をしていた。優しそうだけど少し悲しみを湛えたような微笑みだった。

「ようこそおいでくださいました。神代様」

神官長様が頭を下げると後ろに並んでいた神官様達もそれに倣った。

「エリーと申します!本日はどうぞよろしくお願いします」

慌てて私も頭を下げてご挨拶した。こんなに丁寧に出迎えてもらえたのは初めてで緊張しちゃう。



私は持ってきていた花光玉を奉納するのを止めて、ここに咲いてる花達の力を借りることにした。神殿の外でいつものように花達と今日は星の神様に力を借りれるようにお願いした。花達から光が集まると同時に空の一転から一筋の光が私の手の中に差し込んだ。私の手の中に生まれていたのは無数の小さな光の中に燦然と輝く大きな星を一つ映したような花光玉だった。


「昼間なのに星が降って来た?」

「世界が明るくとも、星々はいつでも天にあるのですよ。我々には見えていないだけで」

いつの間にか神官長様が近くに立っていた。

「神官長様……」

「ありがとうございます。エリー様」

「え?」

「花幽の塔の悲しい魂達を鎮めて下さったのはエリー様ですね。今感じられました」

私が手に持った花光玉に手をかざしている。あ、もしかしてこの方は目が見えてないの?神官長様は自分も何とか彷徨う御魂を鎮めようと何度も花幽の塔へ行ったけど、その数の多さと悲しみの深さの為に思うようにはいかなかったのだと語った。

「けれどある日、悲しみや苦しみの波動が消えたのです。その時に感じた温かい波動は今日のエリー様のものと同じでした。感謝いたします」

「そんな!あの時は勢いといいますか、流れでといいますか、そんな感じだったので神官長様に感謝していただけるようなことじゃなかったんです。自分が連れて行かれるんじゃないかって怖かったからで……!」

「ふふ、謙虚な方ですね」

ああっ!なんか誤解されてる!こんな良い方を騙してるみたいで心苦しい。私は急いで花光玉を神様に奉納してお祈りをした。ついでに持ってきていた花光玉も渡しておいた。悪魔の影響は今のところここには無さそうだけど、心配だったから神官様の人数よりちょっと多めの数の二十個ほどを。


私達が帰る時も北の神殿の皆さんで見送ってくれた。

「よろしければ、またお立ち寄りください。心よりお待ち申し上げております」

神官長様はそう言ってまた深く頭を下げた。


「今回は俺達は必要なかったね」

馬車の中でウォルク様が肩を回しながら安堵したように言った。

「あの神官長様は昔、戦に出て視力を失い、妻子も亡くしたそうだ。北の神殿は山の神殿同様、神官として働きたがる者がいなくて困っていた所を自分が行くと立候補したそうだよ」

フィル様の説明に悲しい気持ちになった。それはきっと浮かばれない魂を救いたかったからだよね。

「きっと他の神官様達も同じ志なのでしょうね。素晴らしいですわ」

ルーナ様の言葉に私も頷いた。私もそう思う。

「これが当たり前のはずなんだけど……。良い人達で良かったね、エリー」

「そうだね、ノア」

花光玉があの優しい人達を守ってくれますように。私は馬車の窓からもう一度北の神殿を振り返った。一瞬、神殿の真上に大きな星が煌めいたように見えた。うん、大丈夫だね、きっと。






北の神殿に行った後は、スミスヴェストル家へ向かった。ノアのお父様、スミスヴェストル家の御当主様に招待をされていたから。今夜はスミスヴェストル家のお屋敷に滞在させてもらう予定になってるんだ。少し緊張する……。今はどんな風になってるんだろう。かつての私の家……。



「あの、ご招待ありがとうございます。ディーアレン・スミスヴェストル様」

「待っていたよ。よく来てくれたね。エリー・ルヴェール嬢。皆様方もようこそおいで下さいました。神代様の護衛お疲れ様です」

ノアのお父様、かつての私のお兄様が穏やかな表情で私達を出迎えてくれた。















フィルフィリート視点


避けられている


フィルフィリートは悩んでいた。エリーに告白して以来エリーへの気持ちは増し続けている。依然として返事は貰えていないが、他の男の申し込みは即、断っているとエドから聞いているから望みはあるのではと思っている。しかし……。

「あれ?フィル?それってお菓子?エリーにあげるの?」

手にした甘い香りのする紙袋に目ざとく気づいたらしいノアレーンに話しかけられた。

「ああ、うん、そうだ」

「マメだね」


フィルは思い切って、ノアレーンにエリーの事を話した。

「…………それって逆効果じゃない?余計避けられちゃうよ?」

笑いを堪えながらノアレーンはフィルフィリートにアドバイスする。

「え?!そうだろうか?花光玉を作るのは大変なんだろうと思って何度か菓子を差し入れたんだが」

「フィルってさあ、真面目なんだけどそういうとこあるよねぇ?」

ノアレーンは呆れてため息をついた。



フィルフィリートは何を間違えたのだろうと更に悩みを深くした。








ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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