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74 妙なる音

来ていただいてありがとうございます!



「エリー、今少しいいだろうか?」


私は夕暮れ迫る庭園で花光玉を作っていた。ベンチの上の籠の中には三十個ほどの花光玉が入ってる。我ながら張った!お腹空いてきちゃった……。キングストーン家のお屋敷には広い庭園があって、秋咲きの花が結構咲いている。実は用意してもらった花光玉の材料は使い切っちゃったんだよね。だからこうして外に出て歩き回ってるんだ。次は温室に行ってみようと思ってたところでフィル様に声を掛けられた。


「フィル様、どうかなさったんですか?あ、何かありましたか?」

また、悪魔が襲ってきたとかだったらどうしよう。私は焦って少し構えてしまった。思わず花光玉の籠を持ち上げる。

「……いや、何も無いよ。驚かせてごめん」

なんだ、良かった……。ん?フィル様は何か言いたそう?でも中々お話をしてくれない。そういえばお昼の海鮮レストランでも元気が無かったような気がする。


「あの、フィル様?私これから温室の方へ行こうと思ってたんですけど、良かったらご一緒しませんか?珍しい花や植物があるんですよ!」

「ウォルク様に見せてもらったの?」

「はい!色々教えてくださいました」

フィル様と私は温室の方へ歩き出した。温室へ入ろうとしてノアのお説教が頭をよぎる。


でも、フィル様はルーナ様と仲良しみたいだし大丈夫よね?


謎の安心感を覚えて私は温室の扉を閉めた。二人で歩きながら、フィル様は無言で温室の中を眺めてる。私は南国の花を見つけては花光玉を作っていた。四十個くらいできたかな?我ながらいい調子だと思う。時々ウォルク様に教えてもらった植物のことをフィル様にも話した。もしかしたらフィル様はもう知ってることかもしれないけど、興味深そうに聞いてくれてた。


フィル様のお話はなんだろう?


満月の夜に咲く花の花壇までやって来てしまったけど、フィル様はまだ何も言ってくれない。ちょっと籠が重たいので近くの花壇の仕切り石の上に置いておく。

「これがウォルク様にお渡しした花光玉の花が咲いてた植物なんです。もう萎れてしまいましたけど、とても綺麗な花でした」

「…………ウォルク様と何かあった?」

「えっ?!」

あの夜の事を思い出して顔に熱が上がる。あの時のウォルク様は悪魔の種子のせいでちょっと変だった……。うわぁっ、思い出すとかなり恥ずかしいっ……。ふいに肩を掴まれた。

「フィル様?」

「何をされた?何を言われた?」

「…………」

いつもフィル様らしくない怒ったような顔に戸惑ってしまい、咄嗟に言葉がでなかった。


「求婚でもされた?まさかウォルクは君に無体を?」

「い、いえっ。ほ、」

「ほ?」

「褒められましたっ!」

「?」

「その、真面目とか、綺麗とか、清らかとか、清楚とか……」

うわあ、言っててどんどん恥ずかしくなってくる……。私は熱くなる頬を手でおさえた。肩を掴むフィル様の手の力が緩んできてる。


「それと、ウォルク様はちょっと怒ってました」

「怒ってた?!」

フィル様には意外な言葉だったみたい。かなり驚いていて私の肩から手が落ちた。

「はい。私が責任から逃げてるって」

私はウォルク様の考えをフィル様に伝えた。

「そういうことか。ウォルク様はああ見えて真面目な方だからね。カレンの話を聞いて良い印象を持たなかったんだろう」

「はい。そうみたいです。でも私には……」

やっぱり荷が重すぎると思う。

「大丈夫だよ。まだまだ先の事だ。それに国王候補というだけで、この先もっと相応しい人物が現れることだってあり得るから。強制じゃないんだよ。それよりも今は目先の問題を片付けないとね」

フィル様のいつもの穏やかな笑顔……、ああ何だか久しぶりに見た気がする。


「ノアも同じようなことを言ってくれて、助けてくれました」

「……ノアレーンが?」

「はい。悪魔の種子のせいか、ウォルク様は強い口調だったので……」

実はちょっと怖かったんだよね。キスされそうになったし。でもあれも悪魔のせいだよね?あの黒い影が消えた後ウォルク様いつも通りに戻ってた。だからあれはノーカウントだよね。うん。

「強制しないでって言ってくれて……」

本当は自分できちんと言わないといけなかったのに、情けないなぁ私。


「……シオンやノアレーンには相談したんだね」

「え?」

何のこと?あ、ウォルク様の影の事?悪魔の事もかな?そうだよね。後から伝えられたら仲間外れみたいに思っちゃうよね。

「すみません。話し合ってたら遅い時間になっちゃって、フィル様とウォルク様とルーナ様には次の日に知らせようってことになったので」

「……私は頼りにならないか?」

「え?そんなことは……」

あれ?フィル様怒ってる?ううん、少し悲しそう?

「すみませんっ!本当はその夜のうちにお伝えしようと思ってたんですけど、フィル様もルーナ様ももう談話室にいなくて……」

一応見に行ったんだけど、もう談話室の灯は消えてたんだ。


「…………っ、エリー!誤解しないで欲しい!」

「ふへ?」

変な声でちゃったよ。だってまたフィル様に両肩を掴まれたから。ガシィって!

「サンセレス殿と話していたのは、少し探りをいや、聞きたいことがあったからであって、甘やかなやり取りがあったわけではないから!!」

「あまやか……」

「男女のそういった語らいでは無いんだ!剣術の話とか」

「男女の……」

「恋人同士とかでは決してないから!悪魔についての見解とかサンセレス家の思惑だとか……」

「恋人……」

「さっきからどうしてそう誤解を招く単語だけ抜き出すんだ?エリー!」

フィル様がなんだか今にも泣きそう?花光玉要るかな?私は近くに咲いてる花にお願いして花光玉を作ってフィル様に渡した。

「これをどうぞ、フィル様」

これで悲しくなくなる?フィル様は私の手ごと花光玉を包んだ。

「エリー、私は……」


そこで限界が来た。お腹が鳴ってしまったのだ……。


うわぁぁぁぁああっ!恥ずかしいぃぃぃっ!!

「きゃーっ失礼しましたぁぁぁっ!!」

私は花光玉の入った籠を持ってダッシュで温室を出たよ!


でも言い訳させて欲しい!花光玉を作るのは体力が要るんだよ。本当に。誰にでもなく頭の中で言い訳を繰り返す私……。


それからしばらくはフィル様とまともに顔を合わせられなかった。








ここまでお読みいただいてありがとうございます!




ごめんよ、フィル。

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