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71 明と暗

来ていただいてありがとうございます!




「花がいっぱい……」

久しぶりに見た王都には花がたくさん咲いてる。道々の家や店の軒先の花壇やハンギングバスケット。上層階の出窓やベランダ、バルコニー。道が交差する広場の中央花壇。前に来た時はこんなにお花が植えられてなかった。

「ああ、あれは国王陛下のご成婚と即位十周年を祝う式典の準備のための花だよ」

馬車の中、私の斜め前に座ってるフィル様が教えてくれた。そういえばもうすぐ式典があるって聞いてたっけ。

「そうなんですね」

お花がいっぱいなのはいいなぁ。でも心なしか花達の元気が無いみたいなのが気になった。


カタカタと石畳の道を馬車が行く。私達は今王都のウォルク様のお屋敷、キングストーン家のお屋敷に滞在させてもらってる。理由は王都の中心地にあるから。ここを拠点として神殿巡りをすることになったんだ。カレンにも協力してもらおうと思ったんだけど、結局駄目だった。王都には神殿が大きなものが五つある。東西南北と中央の大神殿。紫の一族の領地に近い東の神殿にはもう花光玉を奉納してきたからあとは四つ。他にも小さな神殿がいくつかあるからそこへも行っておきたい。


ルーナ様が近い。フィル様に。キングストーン家の馬車は広くてそこまで密着する必要もないんだけど……。

「ですからまずは中央の大神殿を明日、そして北上して北から西、南を巡って行かれるのが一番ですわね」

「スミスヴェストル家から招待が来ているからその時間も予定に入れておくとして……」

ルーナ様とフィル様は二人で馬車の中地図を広げて明日以降の予定を確認してる。ルーナ様が積極的にフィル様に話しかけていて、フィル様がそれに答えてるって感じ。


カレンのいるサンセレス家からの帰りの馬車、フィル様とルーナ様が隣同士で座ってる。行きの時に私の隣に座ろうとしたフィル様に向かってルーナ様がそれを止めた。

「フィルフィリート様はエリー様の婚約者では無いのでしょう?でしたら距離が近いのは良くありませんわ」

「でしたら、サンセレス殿もこちらへ」

フィル様が自分の隣を手で示した。っていうにこやかなやり取りがあった。ん?なんで?私の知らない貴族のマナーとかがあるのかな?良く分からないや。二人の会話は予定確認から、剣の修行についてに移ってた。当然私には内容は良く分からなかった。


私はまた馬車の窓の外へ目をやった。あれ?明るい雰囲気の大通りと比べて路地の方は何だか暗さが増してるように見えるのは気のせいかな?そう見えるだけならいいんだけど。私は少し不安な気持ちになった。






「お疲れ」

キングストーン家のお屋敷へ戻るとノアが帰ってきていて、応接室のソファで寛いでた。すぐにウォルク様も帰ってきて、少し後にシオン様がやって来た。夕刻になっていたので早めに夕食をいただいて、その後お茶を飲みながらの報告会になった。


「花光玉が分配されてない」

街を見て回っていたウォルク様が苦々しく吐き捨てた。

「もう自由に花光玉を買うことが出来ないのに、城の奴らは何をやってるんだ」

ウォルク様の見た感じだと、病人は増えているという事だった。

「そんな……アラーナ様はカレンのおかげで病人は減ってるって仰ってたのに」

「貴族の連中の中ではじゃないか?僕もクレスの調査報告を受けたが、神殿は相変わらずらしい。治療をした患者数を城へ報告する義務が課されたが、水増しして報告しているようだ」

「そんな……」

言い出しづらい……。けどノアとウォルク様とシオン様にもカレンの様子とカレンに協力を断られたことを伝えた。


「なるほど……。カレン嬢は役に立たないという事か」

「カレン嬢は相変わらずなんだな」

「まあ、カレンは変わらないんじゃない?この先も」

がっかりしたようなウォルク様、呆れたようなシオン様、どこか面白がるようなノア。

「うう、妹が申し訳ないです」

私はみんなに頭を下げた。

「エリーのせいではないから、気にしなくていいよ」

相変わらずフィル様は優しいなぁ……。でも私の妹なんだよね、カレンは。本当に申し訳ない。


シオン様が一度退出して小さな鉢植えを持ってまた戻ってきた。

「……これを見て欲しい」

シオン様が持ってきたのは「雪の雫」と呼ばれる真っ白な釣り鐘形のお花だ。

「クリアル山に生息する貴重な花だ。聖なる花とも呼ばれている」

「あ、その花って時々麓でも咲きますよ。確かクリアル山の高い所でたくさん咲いてるんです、シオン様」

「うん。カレン嬢はこれと純度の高いセイカレドストーンを使って花光玉を作っているらしい。共に貴重な材料だ。だから量産できず、カレン嬢の花光玉は貴重品となってるんだ」

「エリーなら材料にこだわる必要も無いというのに……」

フィル様が嘆息する。

「エリーって花光玉を大量に作ってたんだよね?それはどこへ行っちゃったんだろうね?」

ノアが疑問を口にした。ノアは私の座ってるソファのひじ掛けに腰かけて腕を組む。貴族なのにお行儀悪くない?椅子ならまだあるのに。

「配られずに城に置きっぱなしなのか?」

だとしたら勿体ないよね?


「そもそもどうしてカレン様は神に選ばれたのかしら?素材に頼らなければならない程度の力しかないのに」

ルーナ様は不機嫌そうだ。

「潜在能力はあるよ、カレンにも。ただ、怠け者の性格が邪魔してるんだよね。能力って持ってるだけじゃ磨かれないんだよ。エリーは毎日血反吐くまで頑張ってたからね」

「ノア、私そこまでは頑張ってないよ?」

大げさだよ?疲れて寝ちゃうこともあったけどね。

「いやいや、朝は日の出鳥が鳴くより早く起きだして、夜遅くまでずっと仕事してたじゃない」

「それは、農作業ってそういうものだから……」

「エリーは気が付いてなかったけど、魔力をこめて農作業してたから、毎日魔法の修行してたみたいなもんだったよ?」

「え?そうだったの?!」

私そんな状態で仕事してたんだ……。


「花光玉もそうだね。最初は一日にそんなに数は作れなかったけど、今はかなりの数を作れるようになって、材料が切れることもある」

「まあ、フィル様!エリー様はそんなに過酷な状況に自らを置かれていらしたのですね?」

いえ、普通に生活してただけなんだけど……。ルーナ様はまたフィル様の隣に座ってる。今度は自主的に。なんで私を褒めるのにフィル様に言うんだろう?雇用主だからかな?変なの。


「まあ、そんなこんなでエリーとカレンの間には随分差がついてる。ただ、カレンが頑張ってもやっぱり頑張ってるエリーには追いつくことは無理だと思うけどね。それでも神代の名に相応しいくらいにはなれると思うよ、たぶん」

「そうなんだ……」

ノアの言葉に私は感動してた。やっぱりあの子もやればできるんじゃない!あ、でもあの子努力とか死ぬほど嫌いな子だったなぁ……。両親もそうなんだけど、なんだかんだで私もカレンの言うこと聞いちゃってたし。反省だ……。

「ふふっ。エリーはさ、昔から愛情が深いよね。そういうとこ好きだな」

そう言ってノアは私の手を取って口付けた。

「ちょっとノアっ!何貴族みたいなことしてるのよっ!」

「えー?だって僕貴族だし!今はエリー嬢もでしょ?」

「あ、そうだった。けど、褒めても何も出ないからね?」

「褒めてるんじゃないよ?口説いてるの」

「もうっ!ふざけないの!」

ノアってこんな性格だったっけ?ずっと大人しい子だと思ってたから、戸惑っちゃうよ。


「まあ、ノアレーン様もだったのですね。むしろノアレーン様かしら……」

ルーナ様が私とノアを見て呟いてたけど、意味が分からない。ノアが怪訝そうな顔をしてる。

「……?」

「ルーナ様?」

「ああ、いいえ、何でもございませんわ!お二人は仲がとてもよろしいんですのね?ちょっと驚いてしまって……」

「あ、その色々と事情があって、ノア……ノアレーン様とは幼馴染なんです」

「まあ、そうなのですか……。エリー様は人脈が広いんですのね」

「とにかく!私は王妃とかにはなる気はないからね。ちゃんと断ったでしょ?」

私はなるべく小さな声でノアに耳打ちした。きちんと釘を刺しておかないとだよね。

「それはあんまり関係ないんだけどね、まあ今は良いよ」


「…………さてと、それじゃあ明日は大神殿へ行くという事でいいよね?エリー。訪問の連絡はしてあるから」

それまで黙ってたウォルク様が確認した。

「はい。よろしくお願いします」

どんな態度をされるのかな。正直気が重いけど、行くしかないものね。あれ?なんだかウォルク様に見られてる?目が合った。にこって微笑まれた。

「?」

何だったんだろう?










その夜。

「エリーは責任から逃げちゃうの?」

優し気な微笑みを浮かべてウォルク様が顔を近づける。私の後ろはガラスの壁。手をついたウォルク様の腕が私を閉じ込めて逃げられない。どうしてこうなったんだっけ?






ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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