59 変わってる?
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レオナルドとシルヴィアの会話が入ります
「承知した」
国王レオナルド様は短くそう仰った後、頭を下げた。
国王様、顔色まだ悪そうだったな。花光玉、効きが悪いのかな?
お城の私の部屋から窓の外を眺めた。窓からは気持ちの良い風が入って来る。お行儀が悪いのは分かってるけど、頬杖をついて考え込む。そう、私はまだお城から帰してもらえてないのだ。参考人がどうとか神代の保護とか言われたけど、正直早く仕事に戻りたい。病気の人がいなくなった訳じゃないんだから。実はここでもいくつか花光玉を作ってみてた。でもあんまりたくさん作って花達の力が枯れちゃうと嫌だなって思って控えめにしてるんだ。
国王様の花光玉って追加した方がいいのかな?ノアは大丈夫なのかな?悪魔ってあれで倒せたのかな?
フィル様とノアとウォルク様が悪魔を倒した時、あの悪魔が笑ってたことは皆さんに伝えてある。あれからあの悪魔が現れたっていう報告はないんだって。悪魔憑きの病の患者さんが増えたってこともないみたい。王都は普段通りなのだ。
悪魔の種子……この言葉が引っかかるんだよね。種子。種ってことは芽が出て葉っぱが広がって育って花が咲くの?
「エリーは優しいな。自分を殺そうとした人間を心配するなんて」
「王都の様子は警備隊が見張っている。今のところ心配はない。僕達が開発した魔法道具の見張りも機能している!」
突然声をかけられて驚いた。
「ウォルク様、シオン様、フィル様っ!いついらっしゃったのですか?」
「ごめん。ちゃんとノックもしたし、声もかけたんだけどエリーは何か独り言を言っていて……」
「私、声に出してましたか?」
は、恥ずかしいっ。私、一人でぶつぶつ言ってる変な人だ……。ちょっと落ち込んだけど部屋の入り口で立っていたフィル様達に入ってもらって座ってもらった。
「王都で人気の店でお菓子を買ってきたよ」
ウォルク様が言ったと同時にメイドさん達がお茶と美味しそうな焼き菓子をワゴンに乗せて運んできてくれた。丸い焼き菓子の上に色付けしたお砂糖でお花が描いてある。
「可愛いお菓子……。こんなのがあるんですね。ありがとうございます、ウォルク様」
「さっきシオンも言ってたけど、城下の様子は変わりがない。安心して、エリー」
「そうですか」
私はホッとした。勘の鋭いウォルク様が城下を歩き回ってて、異変がないなら大丈夫だよね。
「そうだ、これを渡しておくよ」
シオン様が取り出したのは魔法道具だった。これはフィル様の風魔法を防いでた魔法道具?
「エリーには神様のご加護があるようだから必要ないかもしれないが、一応持っててくれ」
「ありがとうございます。シオン様。あれから神様の声は聞こえないので心強いです」
私は魔法道具を受け取った。透き通った紫色の石がはめ込まれたアミュレットだった。
「…………」
「フィル様?どうかしたんですか?」
「ちょっと出しづらいんだけど……」
そう言ってフィル様が取り出したのは花光玉の材料がいっぱい入った鞄だった。
「わぁ!ありがとうございます!フィル様!これで仕事ができます!私、頑張りますね!」
「喜んでもらえて良かったよ」
フィル様が微笑んでる。よーし!これで心置きなく花光玉を作れるわ!
「…………」
「…………エリーってちょっと変わってるよね」
あれ?なんでシオン様とウォルク様、ちょっと引き気味なの?訳が分からないわ。
私は皆さんが帰って行った後、花光玉をたくさん作った。今まで作った分はフィル様達に持って行ってもらった。やっぱり悪魔の事が気にかかってたから、お守り代わりに身につけてて欲しかったのだ。
月の光の牢獄
「何もあんな風に憎まれるような言葉をお使いにならなくても良かったでしょうに」
シルヴィアはレオナルドの腕にそっと触れた。
「あれは紛れもない私の本心だ。私にはシルヴィア、君だけがいればいい。国王になることを承諾したのも、君と共にありたかったからだ。それに……」
レオナルドは苦悩の表情を浮かべて顔を覆った。
「……あの時のクロティルドの表情を忘れたことは無かった。私が裏切って、私が殺した。私は自分を正当化するような言葉を口にする権利は無い。恨まれて憎まれるのが当然だ。彼女は無理だと言ったのだ。それなのに……」
「クルトという少年は一体何故……」
「彼は……、信じていた。クロティルドが素晴らしい魔法使いだと。誰よりも強い力を持っていると。それを証明すると言って輝く瞳で、生意気な顔で私を見てきた」
シルヴィアはレオナルドの首から下がる花光玉を見つめた。
「優しい光だわ。そしてとても大きな深い力……。わたくしには怖くて出来なかったのにあの方は死を恐れずに……。そして今回もご自分を犠牲にしようとした貴方を救ってくださった。わたくしの大切な方を。ねえ、レオナルド、エリー様は躊躇わなかったのよ?止めるノアレーン様を説得までしてくださったの……」
「…………そうか。クルト・アッシュフィールドが言った以上の女性なのだな」
レオナルドは深く息をついた。
「……でも、それでも私は……君と共に生きていきたかったのだ」
「わたくしも同じですわ。貴方と一緒にいたくて罪を犯しました。一緒に償っていきましょう、王国とあの方に」
月の光が射す暗い部屋の中、シルヴィアは俯いたままのレオナルドの肩を抱き締め、離れ離れになっている我が子を想った。
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