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05 再会と研究

来ていただいてありがとうございます!



「なんか思ってたのと違う」

このお屋敷に到着した夜、私の部屋だという場所に案内されて晩御飯を食べさせてもらった。盛り付けが綺麗で品数が多かった。それに家での部屋が三つくらい入りそうな大きな部屋。その他に眠るだけの部屋も続き扉の向こうにあった。立派な寝台。二つも部屋必要かな?お屋敷がこんなに大きい理由が分かったよ。たくさん働いてる人がいるから部屋数が必要なんだわ。それにしても落ち着かない……。クローゼットにはワンピースドレスが数着入ってる。色は緑色系。この服も上等な布地を使ってある。これを着て働くってことだよね?明日から頑張ろう。


翌朝、案内された食堂にはおじいさんがいた。えっと誰?戸惑っているとフィルフィリート様に紹介された。

「我がリーフリルバーン家の当主、オーガスト・リーフリルバーン。僕の祖父だよ」

「よ、よろしくお願いします。あの、エリーですっ」

あれ?ご病気なんじゃないの?起きて大丈夫なの?

「君がエリーさんか。昨夜は花光玉をありがとう。おかげで久しぶりにこうして皆と朝食の席につくことが出来たよ」


当主のオーガスト様はとても温厚そうな方だった。短い白い髪にフィルフィリート様と同じ深い緑色の瞳。お顔にしわは目立つものの、病気とは思えないくらい姿勢が良くて穏やかに微笑んでいた。私が昨日作った花光玉を首から下げてる。そっか、本当に病気に効果があるんだ。良かった。実は私が住んでる村では悪魔憑きの病の人はいなかったんだ。だから実際どんな病気なのか花光玉がどんなふうに役に立つのかは知らなかったんだよね。

「はい!お役に立てて良かったです!」

朝ご飯もやたら品数が多くて戸惑ったけど、エドさんの食べ方を見よう見真似で何とか乗り切った。味はすごく美味しかったと思う。たぶん。




「君の花光玉について聞きたいんだが」

朝食の後、フィルフィリート様のお部屋に呼ばれて話を聞かれることになった。

「他の人のと変わらないと思うんです。昨日のはいつも通り春の初めに咲く星降り花を乾燥させたものと神殿で清められたさざれ石を使いました。ただ、いつもとは違って反応が強くて、できたものもいつもとは違ってました。何故かは分からないんですけれど……」

「君の花光玉は素晴らしい出来だった。花ならうちの庭にも咲いているから、もっと作って貰いたい」



花を見るためにフィルフィリート様とエドさんと一緒に庭に出た。お屋敷の裏側は広大な庭……ううん。これってもう野原と森だよ。どこまでが敷地なの?

「ご苦労様です」

エドさんが帽子をかぶった庭師の人に声を掛けた。花壇の手入れをしていたその人は、手を止めて振り返った。その顔を見てもう、すっごく驚いたよ!

「ノ、ノア?!」

昨日お別れしてきた幼馴染だったのだ。

「どうしてノアがここにいるの?」

「雇ってもらった。僕はもう十五歳だから、神殿を出なきゃいけなかった」

「いつの間に……」

「神官様に紹介状を書いてもらった。エリーの事と一緒に。昨日の夜中に着いた」


「この、彼、えっとノア君にはこの屋敷で庭師として働いてもらうことになったんです」

エドさんの笑顔がすこしひきつってるような気がする?フィルフィリート様は腕を組んでため息をついてる。どうかしたのかな?でも、でも!

「そうだったんだ……。そっか、じゃあここでも一緒に働けるんだね!」

うわぁ!すっごく嬉しい!心細さが一気に消えた。私はノアの両手をギュッと握った。ノアは嫌そうにそっぽを向いてたけど、そんなのどうでもいい。やっと別れ際にノアが言ってたことの意味が分かった。


その後ノアと一緒に花の手入れをしていたら、フィルフィリート様に止められた。

「エリーには花光玉を作る作業に集中してもらいたい」

「え、でも……」

「ここには様々な花が植えられてる。どの花が一番効果が出るのか研究をしたいんだ」

「研究……」

「そう、王都の病の状況は深刻でね。浄化、治癒系の魔法使いの手が圧倒的に足りてない。花光玉を作れる人間が多ければいいが、今のところその数は少なくて我が領地に集中してる。であれば一番効果的なものを作り出すしかない」

「悪魔憑きの病ってどんなものなんですか?」

「……衰弱していく。徐々に。そして最後には死に至る。その速度は人によって様々だ。一度浄化をすれば病の進行は止まる。だが、再び進み始めることもある。治癒の魔法をかければ進行はゆっくりになる。人によっては完全に治ることもある。効果的な薬もない。何が原因かも判明してない」

だから悪魔憑きの病なんだ。

「……こわいです」

「大丈夫だ。今のところ被害は我が領地には及んでいない。だからこそ、有効な手立てになりそうなものは何でもやりたいと思っているんだ。君には使った花の種類とさざれ石の種類を書きつけていって欲しい」

「え?でも私、文字はあまり書けません」

「はあ?神殿で学ぶだろう?」

「はい。読むのは何とか。少しなら書けますけど、畑作業が忙しくてあまり頻繁に通ってなかったので。農家の子どもは大体そんな感じです」

畑作業をしてないカレンは、勉強嫌いでちょっと遠い神殿に通うのは嫌だって通わなかったけど。

「仕方ないな、僕が教えよう。とりあえずは花の名前を書けるようになってもらう」

こうして私は花光玉の研究と勉強とを同時進行でフィルフィリート様と行うことになった。






不思議……。家にいた頃は一日にこんなにたくさんの花光玉を作れたことは無かった。しかもとっても綺麗なものができあがってくる。このお屋敷には本当にたくさんの種類の花があって、今日はこの花をって乾燥させた花をノアが持ってきてくれる。フィルフィリート様が鉱山から掘り出されたさざれ石を神殿から取り寄せてくれていた。色々な組み合わせで作ってみる。私は花の名前と鉱石の名前とその綴りを教わって紙に書きつけていく。


「ああ、そこの綴り違ってる」

「あ、すみません。フィルフィリート様」

「エリーの勉強も兼ねているんだ。気にしなくていい。エリーの字は丁寧で綺麗だ。その調子で頑張れ」

「はい。ありがとうございます。フィルフィリート様」

「ああ、僕のことはフィルでいいよ。長ったらしいからな」

フィルフィリート様嫌そう?ちょっと意外だった。

「え?綺麗な響きのお名前で素敵だと思います」

「…………そうか。ありがとう」

フィルフィリート様は嬉しそうに微笑んだ。


「失礼します」

その時ノアが追加の花を持って入って来た。こちらを見て一瞬立ち止まった。花を私の作業台に置くと、いつもなら庭仕事に戻るのに今日はそのまま私の作業台を見てる。

「どうしたの?」

「うん。今日はもう仕事終わったから」

そう言ってちらりとフィルフィリート様を見た。フィルフィリート様は少しムッとしたようだった。


良く分からない雰囲気になったけど、追加の花も届いたから作業に戻ることにした。今日の花は細かい花びらが可愛い蜜蜂花という白い花。花の量やさざれ石の種類を変えて作っていく。

そうして出来上がったものをご当主様に身に付けてもらい、病の様子を見る。ご当主様に試してもらっていいのかな?時々辛そうにしてらっしゃるけど本当に大丈夫?

「実験台はおじい様のたっての希望だ。おじい様の心意気には頭が下がる」

割と容赦ないフィルフィリート様。でもおかげで効果のある花と石の組み合わせが分かってきた。


ちなみにフィルフィリート様や、エドさん、お屋敷で魔法が使える人が花光玉作りを試したけど、ぜんぜん変化が起こらなかった。魔力の方向性が違うとか……?そういえば前、家で試した時はノアも駄目だった。もっと作れる人がいたら、病気の人をたくさん助けられるかもしれないのにな……。







ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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