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58 レオナルド

来ていただいてありがとうございます!



「ここからは私が話そう」

国王レオナルド様が一つ大きく息をついた。


「シルヴィアのおかげで戦には勝てた。けれどシルヴィアがある日を境に目を覚まさなくなったのだ。王宮魔法使い達がこれは悪魔の呪いだと言っていた。彼らにはどうにもならないと。一縷の望みをかけてスミスヴェストル家を訪ねた。当主には無理だと言われた。恥を忍んで元婚約者のクロティルドにも話を聞いた。スミスヴェストル家で一番才能があるのは彼女だと言われたからだ」


お父様がそんなことを?クロティルド(わたし)はただの引きこもりだったのに……。それでレオナルド様は私のところへ来たのね。


「しかし彼女は自分には出来ないといった。私は食い下がった。彼女に断られたらもう当てがない。神殿の大神官にも匙を投げられたのだ。酷いことを言ってしまった自覚もある。しかし私はどうしてもシルヴィアを助けたかったのだ。


後日、彼女の弟子のクルトに連絡を取り話し合った。彼は自分ならできると言ってくれた。彼は若干十歳ながら堂々と自信に溢れていた。シルヴィアを助けたくてこの少年の言葉に乗ってしまった。藁にも縋る思いだったのだ」


国王様はここで言葉を切った。そして私を真っ直ぐに見た。


「結果クロティルドの命は失われ、私のシルヴィアは目を覚ました。申し訳ないとは思わなかった。思えなかった。シルヴィアが目覚めた喜びで彼女の事しか目に入らなかったのだ。だからクルトが魔法書と共に倒れていたことにもしばらく気が付くことが出来なかった」


「酷い話だね。自分の望みを叶えるためならどんな犠牲も厭わないってこと?」

ウォルク様が軽蔑したようにレオナルド様を見ている。

「シルヴィアはこの国を守ったんだ。その為に犠牲になるなんてあんまりだろう?」

レオナルド様はウォルク様を静かに見返した。

「でも、その結果がこれだよね?見通しの甘さと不完全な魔法で今現在も国を危機に陥れている」

間髪入れずに言い返すウォルク様。

異母兄(あに)上はただシルヴィア様と離れたくなかっただけだよね?」

「……十五年前はともかくとして、今回の事は独断が過ぎますね。王妃様の異変を知ったのはいつなのです?」

シオン様が冷たく問いかける。あれ?なんだかみんな怒ってるみたい。フィル様も険しい顔をしてる。


「私が異変を感じ始めたのは最近の事だ。シルヴィアの言動に違和感を感じ始めた。外へ出ることを望み始めたのだ。それまでは体調不良もあって、王宮にこもりがちであったのに。国民と触れ合いたいと視察へ行きたがるようになった」

王妃シルヴィア様は先の戦の功労者で、国民の中には女神と崇める人達がいるくらいに人気があるんだって。そんな方が城下へ行ったらきっと一目見たくてたくさんの人達が集まったんだろうね。

「そのせいで病が広がっていく速度が速まったんだね」

憎々しげに吐き捨てるウォルク様。ウォルク様は普段から城下をよく歩き回っている。病のせいで辛い思いをしていた人達をたくさん見てきてるから余計に怒りが湧いてくるんだろう。

「病で苦しむ人が増えれば、苦しみの感情も増える。それを喰らって悪魔の力が増していったということか」

「それも王妃様が悪魔に思考を操作されていたから、か……」

シオン様とフィル様は難しい顔をして考え込んだ。


「その通りです。わたくしがわたくしの意思で行動できる時間は急激に短くなっていったのです。わたくしは全てをレオナルド様にお話ししました。あの時悪魔が二体いたこと。呪いではなかったこと。ずっとわたくしの中に一体を封じてきたこと。その悪魔の力が大きくなってきていること。わたくしはクロティルド様がしてくれたように、悪魔を闇の扉の向こうへ連れて行こうと思っていることを」


ああ、王妃様も死のうとしてたんだ。


「しかし、私がそれを許さなかった。もう一度身代わりとなる器を探し、あの儀式を行えばよいのだと考えたのだ。その時にウォルクが花光玉について調べていることを知った」

「なっ……」

国王様の言葉に、ウォルク様は驚いた後、顔をしかめ唇をかみしめた。

「シュ・ロート家が小細工をしていたことは知っていた。エリー嬢の素材が粗悪品だったことも分かっていた。けれど、私にとってはカレン嬢でもエリー嬢でもどちらでも良かったのだ。器たりえれば。エリー嬢が作った花光玉をシルヴィアは触れようとはしなかった。粗悪な素材で作られた花光玉はそれでも十分な輝きを放ち強い力を持っていた。私はエリー嬢をシルヴィアの身代わりにすることに決めたのだ」


あの謁見の時なんだか花光玉を上手く作れないなって思ったのは、そういう理由だったんだ。シュ・ロート家の小細工って何したんだろう?カレンが凄いって見せつけて、花光玉を高く売るため、かな?なんて考え込んでたから、急にフィル様が立ち上がって凄くびっくりした。


「国王陛下はっ!リーフリルバーン家の当主との約束を最初から反故にするおつもりだったのか!エリーを、エリーを何だと思ってる!」

「きゃあっ」

王妃様の悲鳴が上がる。部屋の中へ窓から突風が吹きこんで来た。カーテンが翻り、壁にかかった額装の絵がガタガタと大きく揺れ始め、花瓶も落ちそうになる。これはフィル様の魔法?そう思った瞬間に私はフィル様の腕に抱きついていた。

「フィル様っ!落ち着いてくださいっ!」

「っエリー…………すまない」

急速に風が止んでいった。良かった……。お部屋が滅茶苦茶になっちゃうとこだったよ……。でもフィル様が怒ってくれて嬉しかった。


「別に止めなくても良かったのに。フィルの怒りは当然だよ」

あれだけの風が吹いたのにウォルク様は平然としてる。

「そうですね。エリーを身代わりにする必要はなかったですね。神殿で幾重にも結界を張った中に入ってもらうといった対策もとれたでしょうしね。正直に話してもらえていたらの話ですか」

シオン様も全く動じてない。なんか紫色の光を放つ魔法道具をポケットにしまったのを見た。あれが防御してくれたのかな。髪も乱れてない。なんだか凄い人達だなぁ。


「私は、シルヴィアが一番大切だ。この国よりも。だからエリー嬢を身代わりにしようとしたことを悔やんではいない。申し訳ないが、今でもエリー嬢にはもう一度悪魔を闇の世界へ送ってもらいたかったと思っている」


あ、これ、全然申し訳ないって思ってないやつじゃない?私は怒りを通り越して呆れてしまった。そんなに王妃様の事だけが好きなんだね。この方なんで王様になったんだろう?


「我が異母兄(あに)ながら真正のクズだね」

ウォルク様が国王様を睨みつけた。けれど国王様の表情は変わらなかった。

「承知している。だが、シルヴィアが助けてもらった礼をしたいと言っているのだ。私に出来ることなら何でもしよう。望みを言ってもらいたい、エリー嬢」

国王レオナルド様がそう言うと、王妃シルヴィア様はそっと頷いた。



「……ノアを、ノアレーン・スミスヴェストル様を助けてあげてくださいっ!」

私は国王様に会ったら、お願いしようと思ってたことをやっと口にできたのだった。











ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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