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55 届く言葉

来ていただいてありがとうございます!




「お願い!レオを、レオナルド様を助けて!」

必死の形相の王妃シルヴィア様が助けを求めてきた。国王レオナルド様の顔色がかなり悪い。もうすでに土気色に近い。その様子を見たノアのお父さんが黒の一族の人に指示を出した。慌てたように数人が走り去り、ノアのお父さんも魔法道具のようなものに向かって救助を求める言葉をかけていた。


「大変!早く助けないと!」

「エリー……ちょっと人が良すぎない?」

ウォルク様が呆れたように言う。あれ?ウォルク様って国王様の異母弟(おとうと)さんなんだよね?心配じゃ無いの?

「え?でもこのままじゃ」

「あいつは君を身代わりにして王妃を救おうとしたんだよ?王妃も同じだ。ノアレーンのおかげで君は助かっただけだ」

ウォルク様は厳しい目を国王レオナルド様に向けた。

「まあまあ、ひとまず私が診ましょうか」

神官様がゆっくりと近づいて来た。真っ白な長衣についた飾りがサラサラと揺れて綺麗な音を立ててる。

「うーん、傷はふさがっていますね。王妃様の治癒魔法が効いているようです。しかし問題が……、ああ、これはいけませんね。衰弱病の末期の症状のようです」

衰弱病……、悪魔憑きの病。


「なるほど、やはり衰弱病の正体は悪魔によるものだったのか。聖属性魔法の素養の無いものが悪魔に触れたか、あるいは病に罹った者に触れて病人が増えていくといったところか」

「同じ家の中でも病にかかる者とそうでない者がいたのはそのせいか。国王陛下には聖属性の魔法が使えない上に、悪魔の強い魔力にさらされたことで一気に症状が進んでしまったのか」

シオン様の分析にフィル様が付け加える。


「だとすると、治癒魔法では焼け石に水。強い聖魔法使いの力が必要だな。今この場にいるのはアルジェ神官様とシルヴィア王妃様だけど」

ウォルク意識の無い国王様の傍らに膝をついた。

「私には無理ですね。先程悪魔を一体倒すのにかなりの力を使ってしまいました」

「そうだ!また神様に力を借りれば……!」

私は神様に頼もうと思った。けれど沈んだ気持ちが伝わってくる。

『貸してもいいが、依り代が命を落とすぞ?』

「ええ?!何でですか?」

『依り代に更なる力を貸すことは出来るが、連続ではその体にかなりの負担がかかってしまう』

いい考えだと思ったのに、神官様が危ないんじゃダメだ。

「そんな……じゃあどうすれば……」

「だから、君は一体誰と喋ってるんだ?それに他にも聞きたいことがたくさんあるんだけど?」

シオン様がじっとりとした目で見てくる。フィル様もウォルク様も同じような表情で私を見てる。う、説明……どうやって、どこからしたらいいんだろう?でも今はそんな場合じゃないよね?


「エリーが悩む必要はないよ」

それまで黙って話を聞いてたノアが口を開いた。

「ノアは何ともないの?」

「うん。不思議なんだけど……。花光玉のおかげかな?」

ノアは服の中から花光玉を取り出した。ノアの花光玉は力を失って黒く色が変わりかけていた。良かった。ノアの事守ってくれたんだね。


「そうか!花光玉を使えばあるいは。どのみち他の聖魔法使いを呼んでも間に合わないかもしれない」

シオン様は一度出入口の方へ目をやった。

「聖魔法なら、王妃様も使えるのでしょう?」

「うーん、無理かもね」

「王妃様の力はすでに汚染され、枯渇寸前だ」

「え?」

王妃様をよく見てみた。

「あ、本当だ。聖なる力が失われてる……」

長い間悪魔を体に封じてきたせい?強かった魔力がとても弱ってる。

「エリーも見えるのか?僕には見えないな……」

シオン様が残念そうに言う。私達は病対策に持っていた花光玉を確認したけど、そのどれもが光をほとんど失ってしまっていた。


「エリーさんにならできるかもしれませんよ」

重苦しい空気の中アルジェ神官様が静かに口を開いた。

「ここは城の地下深くにあります。城の庭園のちょうど真下に当たりますから」

「え?花光玉を作れるってことですか?」

「ええ、本来の持ち主に力が戻り、正しくその力が導かれれば」

そういって神官様は私の胸元を指さした。

「あ、このペンダント……」

さっきからずっと温かい白雪華晶を取り出す。

「あなたの前世、今世、祖先からの縁、神様のご加護……。今のあなたなら呼びかけることも可能です」

そう言った神官様の瞳は夢をみているような、どこかここじゃないものを見てるようだった。

「呼びかける……」

花達に。神様に。私は両手を見て、それから今は暗い天井しかない空を見上げた。



「そんなことする必要ない!そんな奴助ける必要なんかない!」

ノアが私の手を掴んだ。

「ノア……」

「そいつは、そいつらはお師匠様をっ!エリーの事も殺そうとしたんだ!」

「ノア、落ち着いて!!国王様のせいでも、王妃様のせいでもないよ。私が死んだのは」

「お師匠様……?」

ノアが、ノアの中のクルトが困惑してる。


「エリー?」

ノアを止めに入ろうとしたフィル様が不思議そうな顔をしてる。「大丈夫です」ってフィル様に笑いかけてからノアに向き直った。

「お師匠様……?」

「私が選んだんだよ。私が悪魔を闇の扉の向こうへ送り返すって決めたの」

「……何を……?」

「あの時ね、私は生き返ることも選択できたの。でもね、それをすると悪魔がこの世界に解き放たれちゃうことになった。だから私は……、クロティルドは自分で決めたんだよ」

「……そんな……お師匠様は、違う!!僕のせいだ」

「うん。半分くらいはね。もう!私の言うこと聞かないで勝手なことして!!」

「…………ごめんなさい、お師匠様」

ノアの瞳から涙が零れた。これはクルトの涙かな?


「だから、もういいんだよ。あなたは私の弟子なんだから、半分こしよ?クルト。ううん、ノア。私はもうエリーだから。大丈夫なんだよ。許してあげる」

私はノアを抱きしめた。

「あなたも、もうノアだから、今の自分を大事にして」

我ながら拙い言葉だけどクルトにもノアにも伝わって欲しい。

「そんな、子どものいたずら許すみたいに……。馬鹿だ。貴女は……どこまで……」

ノアが抱きしめ返してきた。



私は目を閉じて花の息吹を感じた。青空の下で風に揺れてる花達を思い浮かべて。

「力を貸してくれる?」

魔力を両手に込めた。遠くから楽しそうに笑ってるような声が聞こえた。


私の手の中にはお日様色の優しい光が溢れる花光玉が生まれていた。







ここまでお読みいただいてありがとうございます!




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