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52  意図

来ていただいてありがとうございます!





「動かないで」

ノアの静かな声が部屋中に響き渡った。


声に力が宿っている。凄い。これがノアの力。クロティルドの時の記憶を思い出した私にはノアがどれだけ強い魔力を持っているのかが分かる。クルトの時も凄かったけど、桁違いだわ。


(ノア……!)

ノアに声をかけたかったけど、胸を押されるような感覚に襲われて咄嗟に声を出せなかった。王妃シルヴィア様から私へ黒いものが移ってくる。くるんだけど、前と違う。体が軽い?体には入ってきてないみたい。でも私の上の魔法石の短剣はどんどん黒く濁っていく。胸の上の魔法石だけが重くなっていく。



私と王妃様のちょうど真ん中辺りに立っているノアは王妃様の方を向いてて顔が見えない。ノアは一体何をする気なの?大丈夫って、安心しててって、どういうことなの?私に呪いを、悪魔を移すんじゃないの?


しばらくすると王妃シルヴィア様は持っていた魔法石を落とした。気を失ったみたい。力が抜けた体を国王レオナルド様が支えようとしてる。でもおかしい。何とか王妃シルヴィア様の方へ手を伸ばそうとしてるけど国王様も動けないみたい。


「ノアレーン?何をした?」

ノアのお父さんがノアに声をかける。苛立った声だ。

「何故我々にまで魔法をかけた?呪い移しの魔法は成功したのか?」

さっきのノアの魔法はこの場にいるみんなに向けたものだったんだ。

「呪い?そんなものは最初からありませんでしたよ」

ノアは無表情で右手を前に差し出し、手のひらを上に向けた。と同時に私の胸の圧迫感が消えた?魔法石の短剣が二本ともノアの手の上に移動してる。


「あの時の未熟な僕には分からなかった。だから不完全な魔法をかけてしまったんです。当時の宮廷魔法使いの見立てを鵜吞みにしてしまった。そのせいでお師匠様は……」

ノアは俯いた。

「ノアレーン・スミスヴェストル?何を言っている?」

困惑したような声で国王レオナルド様がノアに問いかけた。

「あの時、国を救ったそこのお姫様は契約した悪魔をその身に、魂に閉じ込めたまま闇の扉をくぐろうとしてた」

「何だと?お前は一体……」

「僕はお師匠様なら悪魔の呪い(そんなもの)は跳ね返せると思ってた。でもそもそもが違った。あの時の僕は見えてなかった」

ノアは何かを呟いた。その瞬間手にした魔法書は燃え上がり、あっという間に燃え尽きた。


「なんてことを!その魔法書は我が一族の叡智の結晶の一つなのだぞ!何のために我々は……」

悲鳴のような声が上がる。

「そんなものはどうでもいい。こんなものがあるから僕はお師匠様を死なせたのだから。僕の目的の一つはレオナルドが持ち去ったこの魔法書をこの世界から消すこと。二度とこんなことができないように」


「そして」

ノアはそこで一度言葉を切った。ゆっくりと国王様と王妃様に近づく。

「もう一つの目的はお前だ。レオナルド・キングストーン」

言いながら、魔法石の短剣を振り上げた。待って待って、それどうするの?その中には……!

「ノアっ、ダメ!!」

短剣が動けない国王様の胸に突き立てられた。国王様の絶叫が響く。


「お師匠様が死んだあの時に笑ったお前を僕は許さない」

ぎりりっと奥歯を噛みしめる音が聞こえた。


ああ……。嫌な事聞いちゃったわ……。でもそうだったんだ。レオナルド様は悲しんでくれなかったんだね。愛するお姫様が助かったことしか頭になかったんだ。それほど好きだったんだ……。そして今も。悲しいな。クロティルドは本当に少しも貴方の心にいなかったんだね。本当に要らなかったんだ。悔しいな、悲しな、悲しい、悲しい………………


『……いけない』


微かに声が聞こえる。その声に我に返った。ううん。私はエリーだ。クロティルドじゃない。落ち着け、私。



「そして僕が一番許せないのは………驕り高ぶった僕自身だ……」

ノアは自分の服の胸の辺りを握り締めた。待って。何をしようとしてるの?嫌な予感がする。

「ノアっ!クルトっ?!待って!やめて!!」

ノアはその手に残った魔法石の短剣を自分の胸に突き立てた。膝をついて倒れこむノア。これってレオナルド様とノアの中に悪魔が入っちゃったってことだよね?どうしよう……どうしたらいいの?このままじゃ、私と同じように二人とも……。



「いやあああああああっ!レオナルド様ぁっ!!レオ!!」

甲高い悲鳴が響く。シルヴィア様が倒れたレオナルド様に取りすがっている。


弾かれたようにその場にいた全員が動き出した。壁際に立っていた黒いフードの人達もノアのお父さんも。ほとんどの人達が国王様や王妃様の方へ向かう中、そのうちの数人がこちらへ向かってくる。


『……満たされてしまった。不安、苦しみ、焦り、悲しみ、憎しみ……』


「え?」


『十分な力を得てしまっている』



突然、体の拘束が無くなった?黒いフードの一人が拘束を断ち切ってくれたんだ。どうして?



「大丈夫?」

「無事だね?」

「っエリー!!」

聞き覚えのある声が三つ。


「シオン様?ウォルク様?……フィル様!?どうして?」

フードの下の顔は見慣れた人達の顔だった。一気に安心した私は起き上がろうとして台から落ちてしまった。フィル様が手を貸してくれて立ち上がった。今回のはすっごい粗末な幅の狭い木の台だったからバランスを崩しちゃったんだよね。クロティルドの時はもっとましなのだったのに……。は、そうだ!クルト、じゃなかったノアは?人だかりが出来ていてどうなってるのか見えない。



「動けなくなった時はどうなるかと思ったよ」

シオン様が腕を組んでため息をついた。

異母兄(あに)上……」

ウォルク様は複雑そうな顔をしてる。

「ノアレーン様がエリーに酷いことをするとは思わなかったが、何とかすると言ったのはこういう事か……」

フィル様が痛ましげにノアの方を見ている。

「ノア……!」

私はノアの方へ駆け寄ろうとした。

「待って、エリー。駄目だ。このどさくさに紛れて逃げよう」

ウォルク様が私を抑えた。

「でも、このままじゃノアが……!」

「ノアレーンの望みでもあるんだよ。エリーを無事に連れ出してくれって」

シオン様も私の腕を引いている。フィル様を見上げると無言で頷いた。

「……そんな……」



『抑えきれない。彼らでは。そして私にはあれは触れられない』

あ、神様?山の神様の声だ。私を転生させてくれた神様。抑えきれないってどういうこと?

『この場が全てではない』

何のこと?


「エリー、とにかく今はここを出よう」

フィル様も焦ったように手を握る。

「でも!早くあの剣を抜かないと、ノアの体に悪魔が……!そうなったら死んでしまうかもしれないんです」




異変が起こった。


空気のかたまりが弾けた。


国王様と王妃様を取り囲んでいた人達が弾き飛ばされて、壁に叩きつけられて倒れこんだ。


同じようにノアの傍にいたノアのお父さんと他の数人も何か魔法を発動しようとして吹き飛ばされた。



「何だ……何が起こってる?」

ウォルク様の戸惑ったような声。




二本の魔法石の短剣から黒い靄のようなものが噴き出して、一つに合わさった。


「中々良い見世物でしたね」


唇の端を吊り上げて、世にも美しい、でも禍々しい男の人が現れた。ううん、人じゃない。天井に届きそうな背の高さ。燃えるような黒い炎のような体は透けて向こうが見えるのに、その真っ黒な瞳だけは深い暗い闇を宿している。


「いつぞやはどうも、お嬢さん。ああ、以前にも片割れがお世話になりましたか……。お礼を差し上げないといけませんね」


悪魔が私をじっと見つめてる。











ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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