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50 ごめんなさい

来ていただいてありがとうございます!




「あの、私はもう大丈夫ですので、帰らせていただきたいのですが」

「でもね、まだ王宮医の許可が下りないのよ。ごめんなさいね」


はあ、このやり取りも何回目かな?結局何も教えてもらえず私が倒れてから二日程が過ぎていた。もうこの無駄に豪華な部屋にも慣れてきたけど、なんだか息苦しい。理由は窓が無いから。置いてある家具も飾ってある絵なんかもとても豪華そうなんだけど、なんだか……そう、牢獄みたい。この部屋ともう一つの寝室以外は外に出してもらえないから、尚更そう思うのかも。


カーラ様のお母様はとても良い人で色々とおしゃべりをしてくれたり、世話を焼いてくれたりする。かつてのクロティルドの親友だった人。クラーラ・ソイリィ様。今は結婚していてクラーラ・グレイスフェザー様。彼女は昔と変わらず朗らかでとても優しくていい人だ。でも、少しだけその瞳には影があるように見えた。


「さあさあ!お茶にしましょうね。美味しいお菓子もこんなにありますよ。王宮のお茶はやっぱり美味しいわねぇ」

控えていたメイドさん達がお茶の準備をしてくれる。

「あ、ありがとうございます……あ、あの、グレイスフェザー夫人お聞きしたいことがあるんです。クルト・アッシュフィールドという人をご存じないですか?黒の一族の方なのですが」

「クルト・アッシュフィールド様?アッシュフィールドという家はあったような気がするけれど……。やっぱり覚えがないわ。ごめんなさいね」

意を決してクルトの事を訊いてみたけどグレイスフェザー夫人は知らないみたい……。そこで一緒にお茶を飲んでいたカーラ様が口を挟んだ。

「あら、エリー様ったら、他にも殿方のお知り合いがいらっしゃるのですか?」

「知り合いというか……昔、その、お世話になった人で……」

カーラ様、なんだか引っかかる言い方するなぁって思ったけど、とりあえずそこは気にしないことにした。カーラ様もご存じないってことだよね。分かったわ。メイドさん達が何だか意地悪く笑ってる。嫌な感じだ。


戦が終わった年にはクルトは十歳だった。それから十五年経っているから生きていれば二十五歳のはず。クルトはあの年でも才能に溢れていたから、才能ある魔法使いとして知られているはず。やっぱりクルトもあの時に亡くなったのかな?でもどうしてクルトまで……?考えても分からないことを私はぐるぐると考え続けていた。気を落ち着けようと淹れてもらったお茶に口をつけた。

『それを飲んではいけない』

え?何?今の声?あ、ちょっと飲んじゃった……。後味に微かな苦み。お茶だから当たり前かもしれないけど、私は声の警告に従うことにして、そのお茶はもう飲まないことにした。


それから考えたのは悪魔の事。グレイスフェザー夫人になら悪魔の事を相談しても大丈夫かなと思ったけど、ここにはお城で働くメイドさん達もいる。何となくクラーラ様以外の人達は冷たくて怖い感じがする。それは私についていてくれてるカーラ様も同じだった。いつもにこやかなんだけど、時々私に対して敵意のようなものを感じる。何となくそういう人達には聞かれたくない気がしたのだ。とにかく早く誰か信頼できる人に相談したかった。フィル様や、エドさん、シオン様やウォルク様……。あれ?私確かに男の人の知り合い多いかも。でも、神殿の学校の友達は女の子ばっかりだったし……。男の子の友達はノアくらいだった。……ノア、どうしてるのかな?塔を出てきちゃったこと怒ってるかな。




ドアがノックされて、その人が入って来た。



「お久しぶりですね、エリー様」

今私の対面にはノアが座ってて、後ろにグレイスフェザー親子が立っている。

「ノア……」

目を細めたノアは冷たい無表情で言った。やっぱり怒ってる?

「私の事はノアレーンとお呼びください」

この時、部屋にいたメイドさん達から小さな笑いが起きた。ノアはメイドさん達の方をちらりと見やった。メイドさん達はノアに見られて頬を赤らめてる。無理もないわ。今のノア、黒の一族の正装に身を包んでいて前髪も上げていて、とてもカッコいいし美少年だもの。


「どうやら、王宮(ここ)に相応しくない者達がいるようだ。グレイスフェザー夫人、彼女達を外へ」

「承知いたしました」

顔を真っ青にしたメイドさん達が部屋の外に出された。あ、何だが既視感……。私ってつくづく馬鹿にされやすいんだわ。まあ、ただの平民がこんなところにいれば面白くないよね、普通。


部屋の中に残ったのは私とノア……じゃなくてノアレーン様とカーラ様。

「さて、エリー・ルヴェール様、」

「?」

「貴女は体調が優れずに婚約者のフィルフィリート・リーフリルバーン様の元へ帰れないという事になっております」

「???」

へ?ノア今なんて言ったの?

「あの、私はエリーですけど、ただのエリーで、ルヴェールなんて立派な名前じゃないんですが?」

「…………」

「それと婚約者ってなんですか?フィルフィリート様はただの雇用主ですが?」

私の気持ちはともかくね。

「…………」

「…………」

ノアもカーラ様も無言のまま。ええ、ちゃんと敬語で喋ってやるんだからね!

「なんで黙ってるんですか?ちゃんと説明してください!私が王宮預かりになったとか、元気なのに病気とか、婚約者とか訳分からないこと仰るし、お屋敷に帰していただけないし、ノアは、ノアレーン様はっ……自分でノアって呼べって仰ってたくせに「ノアレーン様と呼べ」とか仰ってくるし……!」

「……いや、そこまでは言っていないけれど」

ノアの無表情が少し崩れた。戸惑ってる?


「とぼけるのもいい加減になさってください!」

突然カーラ様が怒鳴った。びっくりした。

「エリー様はリヴェール家に養女に入られて、フィルフィリート様と婚約なさったのでしょう?フィルフィリート様に断られた私を可哀想だと同情してくださってるの?でも、お可哀想なのは貴女なんですよ、エリー様!エリー様はもうここからは出られないのよ!フィルフィリート様とは二度と会えないんだから……」

「え?」

カーラ様の言葉に私の視界が一瞬ぐらりと揺れた気がした。

「カーラ・グレイスフェザー!!」

叱責するように名前を呼ばれて、カーラ様は言葉の途中でビクリと体を震わせた。

「君がここへ呼ばれた理由は分かっているだろう。その役目も果たせないのなら、先ほどの連中同様この場にいる価値がない。出ていけ」

ノアの静かな怒りを感じてか、カーラ様はそっと立ち上がり悔しそうに部屋を出て行った。


ノアと私の二人だけになった部屋の中、ノアが私に近づいて来た。

「養女とか婚約とかってどういうこと?王宮預かりって何?あの後何があったの?塔から勝手に戻ったこと、怒ってるの?でも、あれはノアが悪いからね?」

私は立ち上がってノアから距離を取ろうと思ったけれど何故か足元がふらついてノアに抱きとめられてしまった。

「そうですか。貴女は何も知らされていなかったんですね」

ノアはこちらを見ているけど、その黒い瞳は私を映してないみたいだった。

「おかしいですね。そろそろ効いてくるころなのに……。もしかしてお茶を飲まなかったのですか?仕方ないな……もうあまり怖い思いはさせたくないのに」

ノアはそう言うと私の額に手をかざした。視界がノアの手でいっぱいになった瞬間私の意識は薄れていくのだった。






「ごめんなさい」

ノアの声が遠くに聞こえた。









ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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