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49 続 謁見

来ていただいてありがとうございます!




謁見の間はざわついた。国王陛下の御前で一人の少女が倒れたのだ。心配する声もあったが、「不敬だ」「無礼な」「国王陛下の御前で……」「これだから卑しい者は」などといった心なく理不尽な声を上げる者が多かった。集まっていたのが六大貴族の関係者や国の大臣を務める者、そして神殿の関係者が多かったからだろう。


「静まれ」

エリーを抱きとめた国王レオナルドは先程のゆがんだ笑いとは違い、柔和な国王の表情を浮かべた。その変化を目の当たりにしたフィルフィリートは咄嗟に動けずにいた。レオナルドは腕の中の少女を見、カレンの方へ視線を向けた。


(何だ今の表情(かお)は)

フィルフィリートは戦慄した。


「エリー、カレンの両名は素晴らしい力を有しているようだ。花光玉に病の症状を抑える効果があることはすでに調査済みだ。シュ・ロート家の商いはやや、やり過ぎの感も否めない。しかしその効果に対しての正当な対価だと思われる。神殿は対立するのではなく、力を合わせて病の対処に当たれ。


これからは二人を王宮で神代として保護し、その身分を保障しよう。リーフリルバーン家とシュ・ロート家には彼女達とその力を見出してくれた褒美をとらせよう。何なりと申すがよい」


(エリーを王宮で保護だと?)

国王の言葉にフィルフィリートは慌てた。

(駄目だそれだけは。王宮は危険だ。それに……)


「お待ちくださ……」

「ありがたき幸せにございます」

フィルフィリートを遮って声を発した者がいた。シュ・ロート家の赤毛の男、確かブラッドという名だったか。フィルフィリートは記憶を探る。彼の家は最近陽の一族に名を連ねたばかりだ。今回の事で一族の中での地位を上げることだろう。カレンの花光玉にどんな細工をしたのだろう。カレンが作ったとは思えないほどの輝きを持った花光玉が生み出されていた。そして、エリーの方は恐らく素材になんらかの細工がされていたのだろう。明らかにいつものエリーの花光玉の輝きでは無かった。この茶番は仕組まれたものだ。神殿の出頭命令は利用されただけだ。


フィルフィリートは考えを巡らせた。その間もレオナルドの腕の中のエリーが心配でならない。しかし、フィルフィリートの立場では何もできなかった。せめて自分が六大貴族の筆頭家当主であり、エリーが雇われただけの職人でなく緑の一族の貴族の令嬢であったなら、国王に対して異議や意見を申し述べることもできたであろうが……。フィルフィリートは唇を嚙み締めた。


リュミエール王国は権力の一極集中を避けるために六大貴族の間で王位を順番に受け持つことが定められている。当代の国王を輩出した一族は次の国王を出すことは出来ない。国王の候補は議会と六大貴族筆頭当主の選考で決定される。六大貴族の筆頭家の当主は次の国王になる可能性の高い者達であるので、国王に準じる権力を持つ。


(今の自分にはエリーを守れるだけの力が無い)

フィルフィリートは忸怩たる思いでいた。


国王が純粋にエリーの力を認めて神殿から守ってくれるというのなら、本意ではなくとも王宮で保護してもらうのもいいだろう。しかしこのようなだまし討ちでエリーを連れて行かれるのは納得ができなかった。しかもフィルフィリートは見てしまったのだ。レオナルドがエリーを見つめる邪悪ともいえる笑顔を。


「エリーはかなり体調が悪いようだ。王宮で休ませてやれ。頼んだぞ、」

国王の呼びかけに前に進み出てきたのは

「ノアレーン・スミスヴェストル」

「かしこまりました。国王陛下」

無表情のノアレーンがぐったりとしたエリーを受け取った。国王レオナルドは満足したように玉座へ戻って行く。

「失礼。フィルフィリート・リーフリルバーン様。この方は返していただきますよ」

ノアレーンは冷たく言い放ち、エリーを連れ去っていった。その言葉にフィルフィリートは全身の血が沸騰するような感覚に陥った。

「エリーをどうするつもりだ?」


謁見の間の旗が揺れ始める。


「フィル!押さえろ!落ち着け!こんな場所で力を振るえば反逆罪で捕まる」

いつの間にか近づいて来ていたシオンが小声で声をかける。

「シオン……?」

「大丈夫だ。まさかこんなことになるとは思わなかったが、一応打っておいた手が通じるだろう」

「シオン、一体何を?」


「国王陛下に申し上げる」

そう言って玉座の前に進み出たのは緑の一族筆頭リーフリルバーン家の当主、オーガストだった。

「おじい……いえ当主様?」

「発言を許そう」

レオナルドはやや表情を固くした。オーガストは深く一礼してから続けた。


「ありがとうございます」

オーガストはゆっくりとした口調で語り始めた。

「エリー嬢はクリアル山の麓に住む心優しき農家の娘です。家業として装飾品の花光玉の製作も行っておりました」

オーガストの声は広間の空気を支配して、話を聞く気の無かった者達の耳にも届き始める。

「ご存知のように我が領は農業で収益を得ております。我が孫は領内の特産品を増やすべく活動しておりました。花光玉の事を知り、エリー嬢を屋敷へ雇い入れたのです」


「そして彼女はその能力を認められ、今は緑の一族のルヴェール家の養女になっております」


(ルヴェール家だって?エドの家の?どういうことだ?いつの間に……)


祖父の発言はフィルフィリートの知らないことだった。先程言っていたシオンの言葉に思い当たり、フィルフィリートは小声で問いかける。

「シオン?まさか……」

シオンは答えずにただニヤリと笑って見せた。

「更にエリー・ルヴェール嬢はその真面目で勤勉な人柄ゆえにふさわしいと判断し、リーフリルバーン家次期当主であり、我が孫フィルフィリートの正式な婚約者として許可申請を出しております」

「なっ!」

オーガストの言葉に周囲が再びざわついたが、恐らく謁見の間に集まった人々の中で一番驚いたのはフィルフィリートだった。


「フィルがさっさと動かないからだぞ。全く」

シオンがため息混じりに小声でささやく。シオンは神殿からの出頭命令が来た時にリーフリルバーン家の当主と密かに連絡をとって話を進めていたのだ。いくら神殿でも貴族の令嬢、六大貴族の筆頭家の跡取りの婚約者には手が出せないと踏んだのだ。だが、シオンにとっても国王のこの行動は完全に予想外の事だった。相手は神殿だと考えていたからだ。未だに現れていないが、ウォルクの力も借りて神殿の傲慢を糾弾する予定でもあった。フィルフィリートもその事は事前に話し合いその方向で話を持っていくつもりだったのだ。だが相手は国王だ。オーガストの言葉が聞き入れられるかは賭けだった。


「エリー嬢はもう我がリーフリルバーン家の家族同然です。その家族をわざわざ王宮でお守りいただく必要はございません。我が家は六大貴族、緑の一族の筆頭家でございます。我らの力はリュミエール王国を守る為に振るわれます。エリー嬢は今まで通り我が緑の一族で守られ、王国の為に尽くす所存にございましょう」

オーガストの言葉は丁寧だったが、要するにエリーの事はこちらで面倒をみる。今まで通り花光玉を供給するから、口を挟んでくれるなと若き国王に釘を刺したのだ。


国王はそれまで完全な無表情でオーガストの言葉を聞いていたが、ひとつため息をつくとふっと笑った。

「かないませんね。エリー嬢の体調が回復次第、リーフリルバーン家へお返しいたしましょう。ですが、彼女はこの王国にとっても大切な人材だ。くれぐれもそのことを忘れてくださいますな。これからも王国の為、よろしく頼みます」

 

(やはり自分はまだまだだな、シオンとお祖父様に助けられた……)


フィルフィリートは己の未熟さを恥じた。フィルフィリートは自嘲のため息をついた。しかし心底安堵もしていた。


(やはり空気が重い……)


エリーが感じていた違和感をフィルフィリートもまた感じ取っていた。エリーを王宮(ここ)へ、あの国王の元へ置いておくことは絶対に駄目だと本能が告げていた。


(しかしエリーにはどう説明をしたものか……)


自分も預かり知らぬこととはいえ、エリーの知らないうちに話を進めてしまったのだ。もちろんフィルフィリートに否やは無い。だが、エリーに強制するのは嫌だった。


リーフリルバーン家のそして緑の一族の人間は総じて愛情が深い。良く言えば一途。悪く言えば執着が強い。フィルフィリートの父親は亡くなった妻を追い求めて家を出奔、現在行方不明となっている。口にはしないが家族は恐らく後を追ったのではと思っている。祖父のオーガストも早くに妻を亡くしたが、後添いを求めることはなかった。フィルフィリートの母も住み慣れた土地を離れ、緑の一族の家へ嫁入りした情熱的な女性だった。


フィルフィリートもまた、その血を濃く受け継いでいる。自身も思いに溺れ、自分の責務を果たせなくなることを恐れていた。だから、自分に代わる後継者の選出を祖父に打診し、自身も探していた。そうして準備が整い次第、エリーに気持ちを打ち明け、求婚しようと思っていたのだった。責任感の強さが気持ちを伝えることの遅れを招いていた。ノアレーン、ウォルク、シオンと次々に現れるライバルたちの存在に焦って、気持ちをおさえきれないことも多かったが。





ともかくもこれで無事エリーはリーフリルバーン家へ帰れることになった。はずだった。











ここまでお読みいただいてありがとうございます!



じーちゃん無双?

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