48 悪魔の本当
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+ウォルク視点です
クルトはどうなったんだろう?
ぼんやりする頭で考えた。ウォルク様のお話ではシルヴィア様をお助けした魔法使いが二人死んだって。一人は私で決定だし。もう一人はやっぱりクルトよね?
目を開くとため息が出た。
「はあ、またこれかぁ」
ここどこ?豪華そうな部屋。また見知らぬ天井だ。寝台に天蓋もそうだけど、天井に絵を描く必要ってあるかな?あの謁見の間みたいな場所なら何となく分かるけど。あそこの天井画はリュミエール王国の創生神話が描かれてるんだって。むくりと起き上がるとやたら煌びやかな家具が目に入った。
「お目覚めになられましたか?エリー様」
声をかけられて驚いた。
「カーラ、様?」
え?なんで?カーラ様が?カーラ・グレイスフェザー様。黒の一族のグレイスフェザー家のご令嬢。灰色の髪、薄緑色の瞳の綺麗な女の子。シオン・ウィステリアワイズ様のご学友でシオン様と一緒に夏休みの間リーフリルバーン家に滞在なさってた。私が色々あっていない間に帰られたって聞いてそれきりだった。
「ふふ、お久しぶりですわね、エリー様」
なんだか雰囲気が変わったような気がする。どこがとかは具体的には言い辛いんだけど……。それにエリー様って?
「あ、あの、カーラ様、ここはどこでしょうか?黒の一族の方のお屋敷ですか?」
私がそう思ったのはカーラ様がノアと同じようなローブを着ていたから。
「まあ、いいえ!ここは王宮ですのよ?」
ニコニコと笑いながら答えてくれるカーラ様。王宮?私は確かにお城にいて、そう、王様の前で倒れたんだったわ。でも何で王宮なの?お城の救護室とかじゃなくて?
「あの、私はどうして王宮にいるんですか?それにフィル、フィルフィリート様は?」
フィル様の名前を出した時、カーラ様の雰囲気が更に変わったような気がする。冷たくて重い感じに。白いフリルのついた豪華な夜着の胸の辺りが温かくなる。思わず手をやるとあの白雪華晶のペンダントがあって熱を持っていた。
「リーフリルバーン様はこちらにはおいでになりませんわ」
カーラ様の後ろから、ひょいと顔を出したのは茶色の髪、薄緑色の瞳の女の人だった。母さんくらいのお年のご婦人で、ノアやカーラ様みたいな黒のローブを着てる……。ああ、そうだわ!この方ってカーラ様のお母様だ。あの時リーフリルバーンのお屋敷に訪ねていらした方。そして、懐かしい人……。クロティルドの親友だった人。あれから十五年も経ったのだから、年を取っていても当然よね。レオナルド様もシルヴィア様も……。
そうだわ!シルヴィア様……!私は大切なことを思い出した。山の神様に言われたことを。それから、フィル様とシオン様とウォルク様の言ってたこと。
悪魔は二体いたの。シルヴィア様の中にまだ残っていた。小さな黒い悪魔が。そしてそれはまだ城のどこかに潜んでいる。もしかしたらまだ……。
王女様は悪魔に呪われていたのではなくて、悪魔を体に封じてそのまま死のうとしていた。国の為にそこまで……。凄いわ……私にはとても真似できない……勝てないわよね、こんな魔法馬鹿の引きこもりだった私じゃ……。王女様も悪魔が二体だと気づいていなかったのかな。クロティルドに移されたのは分離した一体の悪魔。それは山の神様の力を借りて闇の世界へ帰した。
何とか誰かに知らせなきゃ。私は豪華すぎる寝台から下りた。
「あの、私、もう大丈夫なので、フィルフィリート様のところへ帰りたいんですけれ……」
「無理ですわ」
被せる様にカーラ様が笑って言った。
「え?どういうことでしょうか?」
もう、体調は良くなったし。あれ?そういえば体、あんまり重くない。不思議だ。
「だって、カレン様とエリー様は国王陛下のご命令で王宮預かりになられたのですもの」
「え?」
何それ?
ウォルク視点
フィルフィリートとエリーと共に馬車で王都へとやって来たウォルクは一度自身の屋敷へ帰る為に途中で二人と別れて馬車を降りていた。道中のフィルフィリートと主にエリーの様子が気になってはいたが、大事の前だったので特に口に出さなかった。あるいは二人の雰囲気に自分に不利な状況を察していたのかもしれない。
「セイラ、一体どういうつもりなんだよ!」
正装に着替え、普段はそのままの金の光沢をたたえる白い髪も整え、国王から賜った剣を持った。ウォルクの本来の身分は正騎士だった。ただし王弟であり実力も相当であったため、ある程度の自由な行動が許されていた。そして国王のために様々な情報集めを行い、その補佐をしていたのだった。
屋敷を出ようとした時、やって来ていた姉、セイラ・シシリーに呼び止められた。セイラはウォルクの腕を掴んで離さない。華奢に見える姉であってもやはり金の一族、力は強い。
「だから、何度も言ってるでしょう?あなたは城へ行ってはいけないわ。邪魔になってしまうから」
「セイラ?何を言ってるんだ?今日は城にフィルとエリーが呼び出されてるんだ。彼らは国の為に、民の為に動いてただけなのに神殿の奴らがくだらないいちゃもんをつけてきたんだよ!」
「大丈夫よ!レオナルド兄様は国王陛下は全てお分かりになってらっしゃるわ。悪いようにはしないって言ってくださったのよ?」
「は?何だって?レオナルドが何だっていうんだ!」
「もう、国王陛下よ!!駄目じゃないの。いくら異母弟だからって、呼び捨ては駄目よ!」
呑気な姉にイライラとしながら、ウォルクは怒鳴りつけるように言った。
「だから!一体国王陛下が何だというんだ!!」
ウォルクは神殿のありようと国王の無関心ともいえる無策に不満を持っていた。フィルやシオンの方がよほど国民の事を考えている。自分も城へ行って口添えをし、彼らを助けるつもりだった。その為には見せかけや権威も必要だったので着替えに自分の屋敷へ寄ったのだ。
「とにかく!俺は急いでいるんだ!そこをどいてくれ!セイラ!!」
「あなたが城へ行く必要は無いのよ。エリーさんが大切な人だってことはお異母兄様もちゃんとわかって下さってるのよ。今回の事は神殿を抑えるためになさっていることなの!」
レオナルドは花光玉の事を知っていた。城下の情報も集めさせ、花光玉が病に有効であることも、神殿の横暴のせいで国民が苦しんでいることも調べていたというのだ。
「だったらどうして!」
「国王陛下は仰ってたわ。エリーさんがいれば問題を一気に解決できるかもしれないって。その為にエリーさんの力を確かめたいんですって。神殿の主張にのって二人を呼び出したのはその為なんですって!さすがお異母兄様ね!」
「は?一体何を言ってるんだ?確かにエリーの力は凄いけど、だからって病の原因が無くなる訳じゃない!」
「黒の一族の手を借りれば、病の根源を消すことが出来るかもしれないのですって」
セイラは無邪気に微笑んでいる。
「病の根源って、悪魔を?神殿、銀の一族の力じゃなくて、黒の一族の力を借りる?何なんだ一体……。とにかく、俺は城へ向かう!!」
悪魔を滅する力。それは魔法の中でも白魔法、聖魔法、神魔法の領域の力だ。
衰弱病。いやもう悪魔憑きの病でいいだろう。あれは治癒魔法が殆ど効かない。神官達の白魔法や聖魔法で進行を押えたり和らげることが可能だ。エリーの花光玉だけがほぼ無症状にまで病を押えることが出来ている。もちろんカレンやその他の者達が作った花光玉にも同様の効果がある。期間は限られてしまうが。
シオンが言っていたという。エリー達は山の神様の加護を受けた一族の末裔だと。つまりはあの花光玉は聖魔法あるいは神魔法の領域の力の結晶だという事だ。あの悪魔の病は、そして悪魔には、黒魔法では対処できないはずなのだ。なのに何故黒の一族なんだ?
ウォルクは引き留めようとする姉の手を振り払い踵を返した。
「あ、ちょっと待ってウォルク!」
嫌な予感がした。一体異母兄は何を考えてる?ウォルクは城へ急いだ。
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