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46  謁見

来ていただいてありがとうございます!




「私、エリー。今王都にいるの」


空気が重い。空がどんよりと曇ってるせいだけじゃない気がする。白っぽい建物が多い王都は昼間なのに灰色。馬車で王都へ近づくにつれて体や頭が重くなっていく。馬車はカタカタと石畳を進んでいく。ウォルク様は王都の入り口で馬車から下りていった。

「後で城でね」

って。今はフィル様と二人きり。


「エリー?今何か言った?少し顔色が悪いみたいだけど大丈夫?」

隣に座るフィル様が私を覗き込む。わわ、今そんな綺麗な顔で見ちゃ駄目なんだよー!恥ずかしいのと気分が悪いのとで、もうぐちゃぐちゃなんだ。

「だ、大丈夫です。ちょっと馬車に酔ったんだと思います」

私は出来る限り顔を逸らした。

「そうか、じゃあ」

な、何するんですかフィル様っ!私は抱き寄せられてフィル様の胸に顔を埋めていた。

「あ、あの、フィル様っ?」

「屋敷まではこうしているといい」

あ、フィル様の胸、すごい速さで鼓動を打ってる。私と同じ。フィル様は優しい。私はフィル様と一緒にいると嬉しいし安心する。私、フィル様の事好きなのかな?


でも、もう裏切られたくないの……。


今のは……。私の中に入ってこないで、クロティルド。レオナルド様とフィル様は違うんだよ。


馬車は程なくして王都のリーフリルバーン家の屋敷へ到着した。







お城の謁見の間って広くて天井がものすごく高いんだなぁ。思わず口を開けて見上げちゃった。入り口に立ってる兵士さんに変な顔で見られちゃったよ。恥ずかしい。私はフィル様の後ろに続いて広間に入った。正面にはリュミエール王国の国旗が飾られた高い玉座。入り口から続く長い廊下のような道。その両端には等間隔で帯剣した騎士達が並んでる。広間の中央、玉座の正面には円形に空いた空間があってそこにはもう先に誰かがいるみたいだった。


一応私も職人として呼ばれたけど、フィル様には何も話さなくて大丈夫だって言われてる。私はなるべく視線を上げないようにフィル様の後ろ姿だけを見るようにしてた。なんだか王都に着いた時よりも更に空気が重い感じがするんだよね。お城に入ってからは特に。緊張してるから?


フィル様が先に来ていた人達の隣で止まった。


わ、綺麗なドレスの人がいる!まるでお話に出てくる聖女様みたい。ってあれカレンじゃない?


カレンの姿を見て驚いた。真っ白なAラインのドレスにベールに花飾り。首からは花光玉を下げてる。綺麗だった。カレンは美人だからやっぱりこういう清楚系ドレスの方が似合うよね。カレンの後ろからは二十台後半くらいの赤毛の精悍な顔立ちの男の人がついて来ていた。あの人がシュ・ロート家の人かな?


私はフィル様が用意してくれた深い緑色の装飾の少ない少しかっちりとしたドレスを着ていた。フィル様の正装の生地と同じ。お守り代わりのあの白雪華晶のペンダントも胸に下げてる。こころなしかこのペンダントをつけてるとほんのりあったかいんだよね。守ってくれてるみたい。ポケットには白い花光玉を入れてる。こっちもお守り。お城は危険かもしれないから。フィル様にももちろん大きめのを作って渡してある。腕にはリーフリルバーン家の紋章の入った腕章をつけてる。。私はあくまでもフィル様の使用人だものね。地味に目立たないようにって言われてる。



「大神官様がいらしたよ」

フィル様が小声で教えてくれた。それからしばらくして国王陛下と王妃様が入ってこられたみたい。広間にいた人達が一斉に礼を取った。私もフィル様に続いて跪いた。


「皆の者、ご苦労であった。さて大神官。そなたの話をまずは聞こうか」


懐かしい声……


国王陛下のこの言葉で大神官様の主張が始まった。色々言ってたけど要するに、花光玉で病を治すことなどできないとか、単なるまじないだとか、人心を惑わしている、とかそんな感じの事を繰り返していたと思う。つまり私達は詐欺師だから捕まえて欲しいんだって。酷いわよね。


「ふむ。ではリーフリルバーン家の見解はどうか?」

フィル様は立ち上がって話し始める。

「おそれながら陛下、この花光玉の販売は私、フィルフィリート・リーフリルバーンが取り仕切っております。当主に代わりまして私がご説明させていただきます。私共の領地では元々昔から家内手工芸製品として花光玉を作っておりました。クリアル山地方の特産品として。神殿の権威を損ねるようなことは意図しておりません」

つまり、農産物を売るのと同じなんだよって主張だよね。フィル様は国王陛下や大勢の人の前なのに堂々としてて凄いなぁ。


「そうか。では、シュ・ロート家はどうか?」

「恐れながら陛下、我々としても神殿の権威を貶めるようなことは全く意図しておりませんとも!むしろその逆なのです!」

よく響く声。お芝居の役者さんみたい。

「なっ!」

その言葉に大神官様が口を挟もうとしたけど駄目だった。

「花光玉に病を抑える効果があるというのは民の声を聞けば明白!よって我々は詐欺師ではございません!病の広がりとともに民の中には神官様や白魔法使いの方々の治療を受けられない気の毒な者たちが、日々!日々増え続けています!我々は人手不足の神殿の方々や民の助けになればと思い活動しているのでございます!」



「陛下!騙されては……」

「見てみたい」

「は?」

「花光玉を作るところを」

私は違和感を感じてた。国王陛下は大神官様の話をあまり聞く気が無いみたい?…………あれ?今なんて言った?

「わたくしも見てみたいですわ。陛下」

これは王妃様の声だよね。

「おお!是非見ていただきたいですな!」

え?シュ・ロート家の人も何言ってるの?

「では、二人ともよろしく頼む」

カラカラと二つワゴンが進み出て、花光玉を作るボウルと盆、そして花とさざれ石が準備された。え?え?どういうこと?これって最初から用意されてたみたいじゃない?

「何だこれは……」

フィル様が呟く。


「では、まず我がシュ・ロート家のカレンから!」

カレンは楚々と進み出て、花光玉を作り始めた。私はもう一度驚くことになる。居合わせた人達からも歓声が上がる。


まばゆい光を発してカレンの花光玉が完成した。


綺麗な赤い花光玉。カレンはあれから凄く頑張ったんだね。私は場違いにも感動していた。気分の悪さも一瞬忘れるくらいに。




「では、次はリーフリルバーン家」

って、私?!私もやるの?やらなきゃ。無意識に立ち上がってフィル様の横を通り過ぎた。フィル様の心配そうな顔に思わず、大丈夫ですって笑って見せた。本当は余裕無いけど……。大丈夫!いつも通り花光玉を作るだけだ。私は私の方に準備されたワゴンの前に立った。一瞬、カレンとシュ・ロート家の赤毛の人が意地悪そうに笑ったように見えた。緊張のせいか気持ちが悪くなる。

「?」

魔力を込める。いつも通りに。完成したけど……。

「あれ?」

いつもみたいには出来なかった。どうしてだろう?調子悪いからかな?花光玉も元気が無いみたい。

「リーフリルバーン家のものは確かに装飾品の域を出ないようですな!」

シュ・ロート家の人が馬鹿にしたように笑う。

「なんて美しいんでしょう」

二つの花光玉は玉座へと運ばれた。カレンの花光玉を見た王妃様はとても喜んでいらした。私のには目もくれなかった。国王陛下は無表情で私の花光玉を持ったまま見つめている。えっと、これは何なんだろう?私は混乱した頭で立ち尽くした。



「エリー、エリーこちらへ」

焦ったようなフィル様の声が聞こえる。私は我に返った。重たく感じる心と体を必死で動かす。胸のペンダントがさっきから熱を発し始めてるみたい。

「あ、はい」

私はフィル様の後ろへ戻ろうとした。その時、その場にいた誰もが驚くことが起こった。国王陛下が私達の前へ下りてきたのだ。正確には私の前へ。国王陛下と目が合った。くすんだ金色の瞳と。


レオナルド様……。


濁流のように溢れ出す記憶、記憶、記憶、そして涙。


私の大切な、大好きな人




倒れそうになった私を国王陛下が抱き止めた。気を失う瞬間に見たその人の顔は暗い喜びに歪んで見えた。











ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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