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43 白雪華晶のペンダント

来ていただいてありがとうございます!



「ミラレス……」

年齢を重ねて随分とやつれてしまって面差しが変わってしまっていたけれど、間違いない。あの花幽の塔にいたのはミラレスさんだ。まだ薄暗い部屋の中。リーフリルバーン家のお屋敷の私の部屋。私はむくりと起き上がった。

「やっぱり、あの夢は本当の事なんだ……。クロティルド……それがあの夢の人の名前」

弟子のクルト君、そして元婚約者のレオナルド様……。今の国王陛下。それから姫君……、王妃シルヴィア様。悪魔に呪われていたお姫様だった方。

「うーん、情報過多だわ……。私が夢で見てるのはクロティルドの記憶なのね」

寝てたのに頭が重い。二度寝するか悩んだけど、やっぱりいつものように起きだしてしまった。



窓に近づきカーテンを開けて、季節が進んで、少しだけ高くなってきた空を見上げた。

「もうすぐ夜明けだね」









あれから特に夢を見ることもなく、毎日毎日、花光玉を作りまくる日々だ。一度だけウォルク様にクルト君のことを尋ねてみた(名前は出してない)けれど、やっぱり良く分からないらしかった。


「クロティルドはともかく、クルト君はどうして……?」

あの場には私とクルト君とレオナルド様とお姫様しかいなかったと思う。もしかすると他にも誰か別の人が犠牲になったのかもしれないけど、亡くなったのはクロティルドとクルトなんだと思う。

「確かめようもないけれど……」

確かめるならレオナルド様とお姫様になんだけど(つまり国王ご夫妻)、お会いするなんて無理だよね?訊けたとしてなんて言うの?夢で見たんですけどなんて言ったらどう思われるだろう?

「下手したら、頭がおかしい奴って投獄されちゃうかも……」


「投獄されちゃうの?」

「わっ、ウォルク様!いつの間にいらしたんですか?」

作業机の向こう側、ウォルク様が頬杖をついてこちらを見ていた。

「何言ってるの?さっきからずっといたよ?エリー、花光玉を作るのに夢中で気づいてくれなかったけどね」

「……申し訳ありません」

「集中してるエリーは綺麗だね」

「はは、ありがとうございます……」

ウォルク様の軽口にもだいぶ慣れてきたぞ。


「そういえば、あれ以来悪魔、襲ってきてないよね」

そういえば……、忘れてた。あんなに怖い思いしたのに。このお屋敷に戻ってこれた安心感で気が緩みすぎかも。

「魔法道具の結界に、フィルも俺もいるし流石に手を出せないのかもね」

「そうですね。ありがとうございます。……それにここはクリアル山が近いので、山の神様が守ってくれてるのかもしれません」

遠くに小さくクリアル山が見える。窓から入って来る涼しい風に懐かしい匂いを感じる。久しぶりに家に帰りたいな。うーん、家っていうよりあの場所、土地かな。






ある日の午後のお茶の時間にフィル様とウォルク様とエドさんと私でお茶を飲んでいたら、エドさんが少しためらうように告げてきた。

「え?花光玉が送られてこなくなったんですか?」

「ええ、エリーさんのご実家の周囲の家からは今まで通りなのですが、エリーさんの家からはここ一月ほどは……」

「何かあったのでしょうか……」

フィル様も困惑した顔をしてる。

「それと、王都で他にも花光玉を取り扱う店が現れたようなんだ。そちらはシオンが今調査してくれている」

え?何それ?誰かが私達の真似をしてるの?取り合えず王都の方はシオン様にお任せしておくとして、私は家の方が気になった。

「あ、あのフィル様、私、一度家に帰ってもいいですか?様子を見てきたいんです」

「分かった。私も一緒に行こう」

「あ、もちろん俺もね!エリーの家、見てみたいから」

はいはいっと手を挙げるウォルク様。

「…………」

フィル様がため息をついた。翌朝、魔法の馬車が準備されてフィル様とウォルク様と一緒に私の故郷へ行くことになった。フィル様が魔法を強化してくれたので数時間で馬車は故郷へ到着した。






驚いたわ。帰ってきて一番最初に目に入ったのは畑だった。荒れて駄目になってると思ってた畑が元気だ!花半分と野菜半分と。店は開いてる様子がない。

「エリー!帰って来たのかい?」

「父さん!」

そこにいたのは土に汚れて畑仕事をする父だった。



「カレンと母さんは王都へ行ってしまったんだ」

「え?なんで?」

父さんの言葉にまた驚いてしまった。

「わざわざお越しいただいてありがとうございます。しかしリーフリルバーン様には大変申し訳ないのですが、私は花光玉を作ることはできないので、もうお送りきなくなりました」

父さんはそう言ってフィル様に頭を下げた。


「一体何があったのですか?」

「陽の一族の方の使いがいらっしゃって、そちらの店で働かないかとお誘いいただきまして。カレンが王都へ行けると飛びつきまして……。妻も保護者として同行していってしまいました。これ以上家族がバラバラになるのはと思い、止めたのですが聞いてくれませんでした」

「こちらがお呼びしたとはいえ、エリーさんの時とは随分と対応が違うようですね」

フィル様は眉をひそめてる。

「…………カレンはまだ心が幼く、失礼な言動も多かろうと思いまして。それに本来の力は姉であるエリーの方が大きいことはわかっておりました」

またまた驚いた。てっきりカレンが可愛いから私を送り出したんだとばかり思ってたわ。まあ、そっちの方が理由としては大きいみたいだけど。カレンと母さんがいなくなって憔悴してるし。


「陽の一族、ですか」

フィル様はなにか思うところがあるみたい。顎に手を当てて考え込んでる。

「エリーからの送金で、カレンと妻はすっかり働かなくなってしまって。私もだが」

「私がお金を送ったから……。余計なことをしてごめんなさい」

「いや、そうじゃない!本当にありがたかったよ。エリーの言う通りに農機具を新調しようとしたけれど、母さんとカレンに散財されてしまって」

一度楽をしてしまうと、もっともっとって思うようになったみたい。花光玉作りにも身が入らなくなってしまった。父は最近になって危機感持ったのか、目が覚めたのか、もう一度畑を再生させることにしたそう。


「やっぱり、私のせいだわ……」

「エリー、それは違う」

「そうそう!それはエリーのせいじゃないでしょ?人の性分の話だから。現にエリーのお父さんはちゃんと反省してしっかり生活してるでしょ?」

フィル様とそれまで黙って話を聞いていたウォルク様が私の言葉を否定してくれた。

「そうだよ、エリー。お前にそんな思いをさせてしまって悪かった。お前は家族を思ってくれていたのに……。悪いのはカレンや母さんを甘やかしてしまった私だよ」

父さんはそう言って肩を落とした。




私は改めて久しぶりに帰って来た家を見回した。ほんの数か月離れていただけなのになんだか懐かしい。そういえば、私の住み慣れた家にフィル様とウォルク様がいる……。なんだか不思議な感じ。


不思議な感じと言えば帰ってきて馬車を降りた瞬間にも感じてた。この土地ってこんなに澄んだ空気の場所だったんだ。体から悪いものがスゥッって抜けて軽くなる感じがした。そしてああ、帰って来たんだなって嬉しくなったの。

「凄いね、ここ。空気が……。厳かというか霊涼というか、身が引き締まる気がするよ」

ウォルク様がクリアル山を見上げて呟いた。

「そうですね。畏れすら感じる山ですね」

フィル様も馬車を下りた時そんなことを言ってた。そうかな?そんなに怖い山じゃないと思うんだけど。私が慣れてるだけ?



「もう、戻るのか?」

家を出る時に父さんに声をかけられた。

「ええ、仕事があるから。今日は様子を見に来ただけなの。手紙ではあまり分からないし」

父さんは文字を書くのが得意じゃないし、手紙は最近ごたごたしててやり取りをしてなかった。

「そうか……。体に気を付けて頑張りなさい。と、そうだあれを……」

そう言って父さんは自分の部屋から持ってきたものを私に渡してくれた。


「綺麗……、これって花光玉?」

真っ白くて、透き通った石のペンダント。球体の石の下にしずく型の同じ石がゆらゆら揺れてる。

「いや、それは違うよ。それはクリアル山で採れた鉱石で、白雪華晶という石を加工したものだ。うちの家計に代々伝わっているペンダントで、母が、エリーのおばあちゃんがエリーにといってくれたものだ。お守りなんだそうだよ」

「おばあちゃんが……」

「すまない。本来はエリーの十五歳の誕生日に渡すつもりだったんだが、カレンに見られてとられてしまって……。その、あの子が置いて出て行ったから」

「そうだったんだ……」

ほんと、うちの親はカレンに甘いわよね……。私はため息をついた。もう、慣れてるからどうでもいいけどね。


おばあちゃん、ありがとう。大切にするね。

私は遅れてやってきたおばあちゃんからの誕生日プレゼントを胸に抱き締めた。













ここまでお読みいただきありがとうございます!

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