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41 青紫色の果実の苗木

来ていただいてありがとうございます!



「よーし!ペース上がって来た!」

リーフリルバーンのお屋敷に戻った私は仕事を再開した。乾燥させた花とさざれ石で花光玉を作っていく。地面に咲いてる花があれば花光玉を作れるようになったけど、魔力の制御とか配分とか、こっちの方がやりやすいから。あと作れる数もすっごく増えた。なんだか前よりも体力がついたっていうか……、魔力が出やすくなったっていうか、たくさん作っても疲れなくなったんだ。病気の人達の為にも、リーフリルバーン家の為にも、もちろん私自身の為にも頑張るぞ!


「へえ!そうやって作ってたんだね、これ!」

何故か私の作業部屋にはウォルク様がいる。出来上がった花光玉を持ち上げて窓からの光に透かして見てる。

「あ、あの…どうしてこちらに?折角ですので、街を見に行かれてはいかがでしょうか?フィル様もそうおっしゃってますし」

「んー?ダメダメ!俺がここに来たのはエリーを守る為でもあるんだからね!」

「お屋敷にはシオン様から頂いた魔法道具の結界もありますし、大丈夫かと……」


「うん。だから、守る為でもあるしエリーに俺の事を知ってもらう為でもあるんだよ。フィルに比べて俺は出遅れてるからね」

「…………」

フィル様は関係ないと思うんだけどな。


「そうそう、シオンにノアレーンもか!ノアレーンってあの黒の一族の神童だろう?どうやって知り合ったんだ?」

「ノアは幼馴染なんです」

私の答えにウォルク様はその青い目に戸惑いの色を浮かべた。でも私はそれ以上の説明はしなかった。というよりできなかった。

「ん-、まあいいか、そのことは。それよりも、来月にある国王の在位十周年の記念式典の舞踏会に一緒に行こうよ!」

「舞踏会、ですか?」

どうして私が?ああいうものって庶民の女の子にとっては確かに憧れだけど、貴族のそれも招待された人しか行けないんだよね?

「そうそう!俺のパートナーになれば、一緒にお城へ行けるよ?俺は一緒に行くならエリーがいいな」

机に肘をついてウォルク様は屈託なく笑う。綺麗なドレスや宝石で着飾った貴婦人達、豪華な装飾のお城。綺麗なんだろうな、って思うけれど私と結びつかなくて戸惑う。遠い世界の事みたい。私は朝から数えて三十三個目の花光玉を仕上げた。それにお城って悪魔が潜んでるかもしれないんだよね?

「ご遠慮いたします」

「即答かぁ……。俺、まだまだだな」

ウォルク様は苦笑いを浮かべる。

「でもさ、気が変わったらいつでも言ってよ」


無いわ……あんなもの肩が凝って疲れるだけよ


あ、まただ。最近多いな。夢は見ないんだけど、私じゃない私の声が時々聞こえてくる。何なんだろうこれって。夢の事も不思議なんだけど、この声には不思議に思うよりは困ることもある。知らないことを知ってるみたいな変な感覚。ウォルク様はおしゃべりがお好きなのか、色々とご自分の話や王都の話をしてくるんだ。その時にあ、これ知ってるってなって戸惑うことがあるんだよね。









「まさか、異母兄(あに)が国王に選出されるとは思わなかった。キングストーンはそういう家系じゃないからさ。金の一族だったら普通はアウルレオニス家からって言うのが決まりだからね」

ウォルク様は自分も堅苦しいのは苦手だと仰った。でも王の弟っていう立場だと式典や舞踏会への出席からは流石に逃げられないらしい。王宮や城の行事が鬱陶しくてお兄様が王に選ばれたことを憎々しく思ってた時期もあったんだって。

「でもまあ、異母兄の戦績は凄かったし、戦を勝利に導いたシルヴィア王女を悪魔の呪いから救ったのもレオナルドだからね。国を救った英雄だから仕方ないよね」


その言葉にズキリと胸が痛んだ。

「王女様を救ったのはお兄様だったのですか?」

恐る恐る聞いてみた。

「うーん、俺はその時まだ幼かったんだ。だからよく知らないけど、黒の一族の二人の魔法使いの協力を得たって聞いてる。その時に魔法使い達は命を落としたんだって」

「ふ、二人ともですか?!」

「うん。そうだけど、どうしたの?」

「……、あ、えと、その、そう、呪いを解くのってそんなに大変なんだなって怖くなってしまって……すみません」

「そっか、そうだよね。エリーも悪魔に狙われてるんだもんね。怖いよね」

ウォルク様は納得したようだった。けれど私はまだ胸がドキドキしてた。


二人とも命を落とした?夢の私だけじゃなくてクルトって子も?どういうことなの?あの後クルトに何があったの?



「ウォルク様、あまりエリーの仕事の邪魔をしないでいただきたい……、エリー?」

仕事部屋のドアは開け放ってある。入り口からフィル様が入って来た。

「どうしたの?顔色が悪い。体調が悪いのではないか?」

フィル様は私に近づいて来て頬に触れた。

「大丈夫だよ。俺がちょっと怖い話をしちゃってね」

ウォルク様はフィル様の手をそっと私から離した。

「ウォルク様、先程も申し上げましたようにエリーは仕事中なのです。邪魔になるようなことは控えていただきたい」

フィル様の表情は硬い。反対にウォルク様はおどけたような表情だ。

「フィルは少しエリーを働かせすぎじゃない?こんなに毎日頑張っちゃってるよ?」

そういってウォルク様は箱いっぱいの花光玉を指差した。今は青紫色の釣り鐘型の花が最盛になってて、箱の中は青紫色の花光玉がたくさん入ってる。


「エリー、少しペースを上げすぎではないか?無理をして倒れては……」

大丈夫です、調子がとてもいいんですって言おうとした時、エドさんが部屋へ入って来た。

「そうですよ。少し休憩にしましょう」

「エドさん」

「フィル様がエリーさんがお好きなお菓子を取り寄せてくれましたよ」

「あ、これ……え?どうして?」

エドさんの後ろから、マーサさんがワゴンを押して入って来た。ワゴンの上、ガラスの器に入ってたのはシオン様のお屋敷で食べたお菓子だった。紫の一族の領地でとれる青紫色の果実を砂糖で煮て、ゼリーにして冷やしたもの。一度だけ食べたけどとても美味しかった。どうして好きって分かったんだろう?一言もそんなこと言ったこと無かったと思うんだけど。


「エリーの顔を見てたら分かるよ」

フィル様が優しく微笑んだ。え?私ってそんなに分かりやすい?顔に出てた?もしかして凄くがっついて見えたの?どうしよう?私は思わず顔を両手で押さえた。

「シオンからこの果実の苗木を貰うことになったから、来年からはうちの領地でも栽培できる。いつでも食べられるようになるから、楽しみにしてて」


「わぁ、それは楽しみです!うちの畑でも育つでしょうか」

私の家は山の麓で少し気温が低いのよね。

「気候が少し違うから難しいかもしれないけど、品種改良をしてみれば何とかなるかもしれないね」

その後はみんなでお茶とお菓子を食べながら休憩になった。

「とっても美味しいです。フィル様ありがとうございます」

冷たいゼリーの甘酸っぱさとのど越しの良さががとても嬉しかった。フィル様優しいなぁ。今回は食べ方すっごく気を付けたよ。恥ずかしいもんね。

「良かった。喜んでもらえて」

穏やかなフィル様の笑顔。エドさんもマーサさんもいる。穏やかな時間。安心できる場所。うん。元気出てきた。この後も仕事頑張ろう。

「うん、エリーはこういうのが好きなんだね。また一つエリーのことが分かって俺も嬉しいよ」

ウォルク様も美味しそうにお菓子を召し上がってる。和やかにその場は過ごすことができた。でもあのウォルク様の言葉は私の胸の中に棘の様に残っていた。



クルト……あなたに一体何が起こったの?



その夜、久しぶりに私はあの夢を見た。









ここまでお読みいただいてありがとうございます!




クロティルドの元婚約者、現国王の名前ヴィンセント→レオナルドに変更しました。申し訳ありません。よろしくお願いします。

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