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39 すれちがい

来ていただいてありがとうございます!




夜。何だか眠れなくて庭に出た。涼しい風が吹き抜けて気持ちが良い。花光玉を作ろうと思ったんだ。最近ちゃんと仕事できてないし。今の私にできることはそれだけだもの。


「いつもの大きさのを作れるように力を制御できるかな?」

庭の白い大きな花に話しかけてみる。

「力を貸してくれる?」

花達が作ってくれた花光玉は片手に余るくらいの大きさだったから。

「いつも通りいつも通り……」

唱えて両手を合わせて魔力を手のひらに込める。こうしておけばいい感じの大きさのができそうな気がする。

「山の神様、この地の神様、力を貸して下さい」

昨日よりは少しだけ控えめな光達がお庭の花達から浮き上がり集まって来る。



「できた!」

手のひらを開くと小さな花光玉が三つできてた。うん。魔力の制御、できたみたい。

「うーん、あれ?ちょっと小さめかな?そっか昨日も力を貸してもらったから?」

うーん売り物になるかな?魔力の制御って難しいとか考えてたら、後ろから声を掛けられた。

「エリー」

「フィル様」

夜の闇の中、金色と翡翠色の髪が綺麗に光って見える。今夜は翡翠色の方が強めかな。

「部屋に行ったらいなかったから、もしかして外にいるかなと。やっぱりここだったね」


夜遅く(さっき)まで話し合ってたのに寝なくて大丈夫?」

「えっと、なんだか色々と考えちゃって眠れなくて……。とりあえず必要かなって思ったので」

そう言って私は手の中の花光玉をフィル様に渡した。

「ちょっと小さめになっちゃいました。売れるでしょうか?」

「綺麗だね…………これはエリーが持ってるといい」

フィル様は私の手に花光玉をのせて両手で手ごと包み込んだ。


「フィル様……?」

フィル様は少しためらった後、切り出した。

「…………ノアレーンは君に酷いことをしなかった?」

「ノアが?」

寝てる間に私を花幽の塔に連れ出したのは酷い事に入るよね?それ以外だとえっと……

「…………ノアって呼ぶことにしたんだね」

少しだけいつもより低い声。責められてるような気がした。

「……ノアが、差別するのかって怒ってきたんです」

「差別?」

「ノアレーン様って呼んだら、貴族だからって態度を変えるのかって。返事もしないし」

「……滅茶苦茶だな」

フィル様が苦笑する。

「滅茶苦茶です……。だから私も怒り返しました。嘘つきだって。喧嘩しちゃいました」

「そうか……寂しい?」

「そうですね。ちょっとだけ」

「…………エリーはノアレーンが、ノアが好きなの?」

「好きですよ」

「…………」

「父も母もカレンもノアも好きです。ショックなこともあったけど、嫌いにはなれません。やっぱり家族だから」


「…………そう」

フィル様は目を閉じてはぁっと息を吐いた。

「でも今までと同じ気持ちではいられません。どうしていいのかも分かりません。家にも帰れないし……、フィル様っ私っ」

私は花光玉をもう一度フィル様の手に乗せて自分の手をかぶせた。そして一歩近づいてフィル様を見上げた。フィル様の顔が少し赤いような気がする。

「エ、エリー?」

「私、必死で帰って来たんです!」

もう一歩近づく。伝われ!私の熱意!

「あ、あの、エリー」

「私、仕事を頑張ることにしたんです!!悪魔憑きの病の事もありますし、もっともっと頑張ります!!私をこれからも働かせてください!」

「……………………うん、頑張ってね」

あれ?フィル様ががっくりと肩を落として俯いちゃった。やっぱりお疲れなのかな?ウォルク様との勝負、凄かったもんね。


「フィル様?大丈夫ですか?」

フィル様、何か言いたげだけど躊躇ってるみたい……?

「エリー、私の事は……どう思ってる?やはり高慢な貴族の一人かな」

フィル様は真剣な顔で尋ねてきた。フィル様のこと……。

「フィル様は、もちろん当主様もですけれど、良い領主様だと思います。優しくて公平で、悪いお話は聞いたことありません」

これは本当。私の故郷でも良い領主様と良い神官様がいてくれて良かったねって言われてたし。

「私はあの土地が好きです。ずっとフィル様のそばで働かせてもらえたら幸せだと思います」

「エリー……私は……いや、今はいい」

フィル様は花光玉を握らせると、私を抱きしめて頬を寄せた。あ、香草の香りがする。

「おやすみ」

耳元で囁くと頬に口付け、そっと腕をほどいた。


部屋に戻った私は不思議な気持ちだった。もう少し……

「もう少しって何?」


名残惜しかった……?


フィル様のスキンシップ過多に慣れちゃったのかな、私。








「ねえエリー、キングストーンに、俺のところへお嫁に来ない?」

カシャンッ、カシャッ、二つ分の食器が鳴る音がした。


フィル様と私、シオン様はそれぞれ屋敷に帰ることになった。フィル様はウォルク様がその強さを認めてくれたので、リーフリルバーンのお屋敷へ。シオン様は新学期と国王ご夫妻の記念式典の準備のために王都のウィステリアワイズのお屋敷に。本当はシオン様はもう少しリーフリルバーンのお屋敷に滞在する予定だったけど、ウォルク様の話を聞いてご自分でも王都の調査をするって仰ってた。


その日の朝食の席でのいきなり発言だった。よめ……、ウォルク様のところへおよめに……お嫁さん!?私の頭が理解するのに時間がかかっていた間に抗議の声が上がった。

「ウォルク様?何を仰ってるんですか?!」

「そうだぞ、エリーへの交渉権は僕の方が先に持ってるぞ?」

フィル様とシオン様は立ち上がりこそはしなかったけど、かなり慌ててたと思う。

「いやシオン、君も何を言ってるんだ!」

「確かに前は断られたけど、エリーの気持ちが変わってるかもしれないじゃないか!」


「あの、ウォルク様、どうしてですか?私は貴族ではないんですけど」

私はどうしてウォルク様がそんなことを言い出すのか、ただただ不思議だった。なので手を挙げて訊いてみた。

「魔力がいい匂いだから!」

人差し指を立てて、片目を瞑ったウォルク様は楽しそうに言った。

「魔力……」

そっか、魔力が見える?感じられる?人だったっけ。確か私の魔力が特殊だってフィル様も言ってた。



そういえばカーラ様も結婚相手の条件に魔力がどうとかって言ってたっけ。夢の人も言ってたっけ。強い力を取り込むための縁談って。私の魔力が珍しいからなんだね。腑に落ちた私は思い返していた。貴族と庶民の結婚は大体は正式な物にはならないって、マイヤさんが教えてくれたこと。つまりはそういうことになるんだよね?正式な奥様の他にってこと。私はどこか乾いたような気持ちになっていた。ノアも言ってたっけ「養ってあげるよ」って。


そうよね。それに能力重視で婚約しても結局、私は捨てられちゃったけどね。


心の奥の声。そうね、碌なことにならなさそう……。

「ありがとうございます。でも私には過ぎたお話ですので、謹んでお断りさせていただきます。ご馳走様でした。お先に失礼させていただきます」

私は笑顔で頭を下げて席を立った。失礼になるとは思ったけど怒られたり、罰を与えられたりはしないだろうって思ったんだ。ウォルク様は強くて親切で、病のことも真剣に考えてる良い貴族の人だから。










ここまでお読みいただいてありがとうございます!






「……大体の貴族はそうなんですけど、フィルフィリート様はそんなことなさいませんからね」

というマイヤの言葉の続きはエリーの頭には入って来てませんでした。

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