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38 潜むもの

来ていただいてありがとうございます!




王都はお城をはじめとして背が高くて白い建物が多い。夏の盛りを越えて、日が沈むのが少しずつ早くなっていってる。街は夕焼けに染まりキングストーンのお屋敷にもオレンジ色の光が射している。


フィル様とシオン様と私はキングストーン家に泊めてもらうことになった(私は昨日に続いてだけど)。早めの夕食をとりながらウォルク様、フィル様、シオン様が話し合っていた。セイラ様はシシリー家のお屋敷へ帰って行った。旦那様と一緒にご飯食べたいんだって。仲良しでいいな。


予め食事を用意してもらって、人払いがされ、シオン様が防音の魔法をかけた。外に音が漏れないようにする魔法なんだって。シオン様ってこんな魔法が使えるんだ。凄いなぁ。魔法って色々できるのよね。シオン様は

「悪巧みするのに便利なんだよ」

っていたずらっぽい笑いを浮かべてた。



「十五年前、王女シルヴィアは城の地下深くに封印されていた悪魔を解き放ち、それと契約して王都へ攻めてきた敵国の軍を攻め滅ぼした。悪魔の力は絶大で、敵の軍勢はあっという間に押し返され敵国の王都でも被害者が続出した。こうして突如始まった戦は我がリュミエール王国の勝利で終わった」

シオン様がスープをかき混ぜてる。今日のスープは透き通った野菜のスープだ。冷たくて野菜の甘みが良く出ていてとても美味しい。


「悪魔は王女が闇の世界へ帰したとされてるけど、今、王国を蝕むこの病は戦の時に相手国の民が苦しんだ症状とよく似ている。奇しくも国民の間の一般的な呼び名は『悪魔憑きの病』だしね」

ウォルク様がお肉をナイフで切りながら、そっと野菜をよけた。ウォルク様は野菜嫌いかな。ちょっと悲しい。うちの野菜は美味しいから食べさせてあげたいな。……もう畑ないんだっけ。今から手入れしたら復活するかな?


「それは僕も気になっていた。しかし、病の期間が違う。戦の時の症状はすぐに死に至るものだった。しかも実際に悪魔が力を振るった者達が死んでいったと記録されている」

「さすが!良く調べてるね」

ウォルク様の誉め言葉にシオン様が嬉しそう。シオン様はこういうのに弱いのかな?それにしてもシオン様、ウォルク様にも普通に話しちゃってるけど、大丈夫なの?王弟殿下なのに。ウォルク様も気にしてる様子は無いからいいのかな?

「僕も何とかこの病の原因を調べられないかと色々文献を漁ったから」

ウォルク様は病が王都に潜む悪魔のせいだと思ってて、シオン様は疑わしいけどまだ決めきれないと思ってるみたい。


「王女シルヴィアが、つまり今の王妃が戦を勝利へ導いたことで銀の一族の力は増した。彼らは神の声を聞き、直感に優れ、聖魔法や白魔法に長けた者達が多く生まれる一族だ」

シオン様は銀のナイフを目の高さまで持ち上げた。

「リュミエール王国の神殿の神官は、特に上位の者達はほぼ銀の一族で占められている。このままだとやがてまずいことになるとは思っていたが、もう始まってたんだな」

シオン様は難しい顔をして考え込んだ。



私は皆さんが話をするのを少しぼんやりと聞いていた。王女シルヴィア様、つまり今の王妃様が悪魔に呪われて死にそうになっていた所を夢の人が助けた、というか助けさせられたんだよね……。これって本当にあったことなんだろうか?それともただの夢?で、夢が本当なら国王陛下は夢の人の婚約者だったってことだよね?私は頭の中のもう一つの記憶が蘇ってくる感覚に対応しようとしていた。




「それで、衰弱病とエリーの件が悪魔によるものだという殿下の言葉は……」

あ、それ、私も気になってた。どういう事なんだろう?なんで私が悪魔に襲われるの?

「ウォルクでいいよ。フィルフィリート殿」

「では、私の事もフィルとお呼びください。ウォルク様」

「うん、じゃあ、フィル。それは俺の勘!」

「勘、ですか……」

勘なんだ。フィル様は困ったような顔をした。私も似たような顔をしてたんじゃないかな。


「そもそも、治癒魔法より浄化魔法の方が効くって時点で怪しくない?」

ウォルク様はフォークを持ったまま頬杖をついた。

「っていうか、あの黒い闇を見て俺の勘は当たってたんだって思ったんだよね。悪魔憑きの病は悪魔が原因だったってね。エリーの花光玉を目掛けて襲い掛かってきたように見えたから。エリーが邪魔だったんじゃないかな?」

そう言ってウォルク様は切った肉を口へ放り込んだ。

「悪魔が病の原因だとすれば、病を広める邪魔をする花光玉を作る人間が目障りだということですか」

フィル様は心配そうに私を見つめてる。


「あ、あの……、どうして私が花光玉を作れるって分かるんでしょうか?」

ウォルク様とは初対面だし、悪魔とも会ったことなんてない。夢の中の人は関係ないと思うし。多分。

「…………」

「…………」

「…………そうか、無自覚か」

シオン様がため息をついた。

「エリー、魔力にはその人特有の色みたいなものがあるんだよ。そしてそれは魔力が強ければ強い程目立つんだ」

「俺は匂い、香りみたいなものかなって思ってるんだけど」

「気配とか音とか流れとかそういう区別の仕方をする人もいるな」

フィル様、ウォルク様、シオン様が順に口を開いた。


「貴族の方がそうでない人達よりも魔力が強い傾向があるんだ。ただ、エリーの魔力は普通の人より強くて特殊だった。最初はね、それほどじゃなかったんだ。けれど、花光玉をどんどん作っていくうちにエリーの魔力は強さを顕していった。今はおそらく魔力の強さで言ったら黒の一族にも引けを取らない程になってる」

フィル様の説明に息をのんだ。

「もう、乾燥させた花も要らない。さざれ石も必要ない。花とそれが咲いている大地があれば花光玉が作れるんだろう?文献にあった通りの力だ」

「それに、今フィルも言ったけどエリーの魔力の匂いは特殊で分かりやすいんだよ。清らかで神聖な匂いがする」

ウォルク様が人差し指で自分の鼻に触れる。

「エリーの花光玉は、カレンや他の人達が作るものとは全く異なる。強さも質も輝きも宿る魔力の色も……。とても分かりやすい。分かる人には」

フィル様が気づかわし気にそっと言った。


つまりもしも悪魔がいるとして、私がどこにいるのか悪魔にはバレバレだってこと?本当に敵認定されていたとしたら、すぐに見つけられてまた襲われるってこと?そして悔しいけど私には対抗手段がないんだ。真っ黒になった花光玉を思い出す。誰かに守ってもらうしかないんだ。私は俯いた。


「この屋敷には一応結界が貼ってある。悪いものが入り込めないように。だから安心だよ」

ウォルク様が慰めるように優しく笑った。私はやっと自分の置かれた立場と昨日ウォルク様の言った言葉の本当の意味を理解できたのだった。





「実は以前ある実験をしておりまして。エリーの花光玉には恐らく病の予防の効果があります。それを証明するために私はエドに花光玉を持たせ、私は持たずに王都のあちこちを歩き回っていました」

フィル様が話題を変えた。

「フィル様っ?どういうことですか?そんなことをしたら……」

「ごめん、エリー。病の発生源があるならそれも探りたいという気持ちもあって」

「そんな……お体は大丈夫なんですかっ?」

自分を実験台にするなんて……。

「うん。大丈夫だよ。結局私が病に罹患することはなかった。驚かせてごめん」

フィル様は申し訳なさそうに謝ってくれた、けど、だけど……。

「ただ、偶然、花光玉を緑の一族の者に渡すために持って城へ行きました。その時に今回のエリーと同じように花光玉が真っ黒に変色していたことがあったのです」


「え?」

「ふうん……ってことは……」

シオン様は無言。知ってたのかな。


「敵は城に潜んでるってことか……。灯台下暗しってやつだね」

ウォルク様は果実酒のグラスを静かに傾けた。









ここまでお読みいただいてありがとうございます!




元婚約者、現国王の名前ヴィンセント→レオナルドに変更しました。申し訳ありません。よろしくお願いします。


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