34 迎えに来た人は
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目が覚めたらまた見知らぬ天井だった。
「天井っていうか天蓋っていうんだっけ。ベッドに屋根がついてるのは何故?」
一人で眠るのには広すぎるベッドからはい出した。ここは、そう。金の一族のキングストーン家の王都にあるお屋敷だ。ふかふかの絨毯の上に裸足で降りた。窓がカタカタ鳴ってる。
「……今日は少し風が強いみたい」
重たいカーテンの隙間から外を眺めた。まだ夜明け前だけど空は明るい。晴れてるから嵐ってわけじゃないみたい。
「この時期に風が強く吹くのは珍しいね」
まだ早朝だ。農家の娘の私はよっぽどのことが無い限りは夜明け前には目が覚めてしまう。もう眠くはないけど、もそもそとベッドへ戻った。
「ノアの正体知って、目が覚めたら塔にいて、幽霊に会って、星空の花光玉作って、ミラレスさんと仲良くなって、一緒に三日間かけて王都へ辿り着いて、変なものに追いかけられて、助けてもらって、そして今ここ。うーん波乱万丈……」
指折り数えてみた。もう、六日も経っちゃった。私は膝を抱えた。
昨日はあれからセイラ様が色々お話してくれた。ウォルク様は隣でションボリしてて少し可笑しかった。
「ウォルクが説明不足でごめんなさいね。エリーちゃん。さっきも言った通りここは金の一族、キングストーン家の屋敷よ。実は私達は貴女の事を知ってるの。花光玉にウォルクが目を付けてね。貴女に会いたくてリーフリルバーン家を一度訪ねたのよ。その時に貴女の事は聞かされてたの。今、お屋敷に連絡したから、リーフリルバーン家から迎えを寄越してもらってるわ。だから安心してね」
「そ……うだったんですか」
「あ、ただし、貴女がリーフリルバーン家が嫌で逃げ出したのだとしたら、正直に言って頂戴ね。私達が何とかするから」
そう言ってセイラ様は片目を瞑り、人差し指を唇に当てた。
「っ、嫌だなんて!そんなことないです!私、帰りたいです……」
そう、今すぐにでも馬車に飛び乗って帰りたいくらいだ。
「そう、わかったわ。とりあえず今夜は部屋を用意したからゆっくり休んでね」
セイラ様はそう言って優しく笑ってくれた。
朝食の後、豪華すぎる部屋が落ち着かなくて、昨日の白い花の庭に出た。不安……。事情が分かって落ち着くと、今度は不安が押し寄せてきた。フィル様からみたら、私とノアが急にいなくなったみたいになってるだろうし。怒ってるだろうな……。帰りたい一心だったけど、勝手にいなくなったから解雇されるのかもしれない。すごく不安……。家に帰されたりして……。もしそうなっても花光玉は作らせてもらえるかな?でもそもそも私、家に帰れるのかな?家に居場所ってないよね?でも帰るしかない……。
「今日は風がどんどん強くなってく……。ここのお花落ちちゃいそう。大丈夫かな?」
大きな白い花達が風にあおられてゆらゆら揺れてる。私の気持ちも不安でゆらゆら。
「私と一緒だね」
目の前の花から光がふわりと浮かび上がった。
「え?」
強い風の中、飛ばされることなく光が私の目の前へやって来た。両手で受け止めると、大丈夫だよ、味方だよ、って言われたような気がした。
「ありがと」
その瞬間、庭中の花から一斉にたくさんの丸い光が浮かび上がって私の手のひらの上に集まった。
「魔力なんて込めてないのに」
気が付くとまるで白い花を閉じこめたような花光玉が生まれていた。
「励ましてくれたんだ……」
私は花光玉を抱きしめた。胸の辺りに温かい熱が伝わって安心する。うん。リーフリルバーンのお屋敷に戻ってフィル様に会えたらきちんと謝ろう。その後どうなっても、みんながいるから大丈夫。そんな気持ちになれた。
ザザザッとひときわ強い風が吹いて庭の花達が一斉に翻る。
「エリー!!」
懐かしい声がする。懐かしいっておかしいね。そんなに長く離れてたわけじゃないのに。
「……フィル様?」
振り返った私は気が付くとフィル様に抱き締められてた。あれ?なんでフィル様がいるの?フィル様の肩越しにシオン様も見える。
「シオン様も?お二人でここへ?」
「良かった。……無事か?心配したよ」
気遣うようなフィル様の声。
「はい。大丈夫です」
そう答えるとフィル様の腕の力が強まった。フィル様が迎えに来てくれたんだ……。怒ってない?心配してくれてたの?
「エリー、顔を見せて」
綺麗な緑の瞳が私を見た。頬に触れたフィル様の手が温かい。安心して、色々思い出して涙がぶわって出た。
「ごめんなさい、フィル様」
「エリーが謝ることじゃない。本当に無事で良かった……」
フィル様の顔が近づいて来る。あ、涙?フィル様の目が宝石みたいにキラキラだ。
「フィル様っ、私、私っ……」
「うん?」
「私の雇用契約ってまだ継続してますかっ?!」
私はとうとう一番気になっていたことを聞いた。
「えっ?」
目を見開くフィル様。シオン様の笑い声が聞こえてくる。
「はあぁ」
腕の力を緩めてため息をつくフィル様。あれ?私何か変なこと言っちゃった?見上げるとフィル様は困ったように笑っていた。
「当たり前だよ。ちゃんと戻って来て、エリー」
今度は私が安堵のため息をついた。よ、良かったぁ……。
いつの間にか風は止んで、白い花の庭は静けさを取り戻していた。
「ごめんね。やっぱり、エリーを返すわけにはいかないな」
いつの間にか近づいて来ていたウォルク様が私の手を引いた。
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