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33 白い花の庭

来ていただいてありがとうございます!




「俺はウォルク。ウォルク・キングストーン。よろしくね」

私を追いかけてきたあの黒い闇を一刀で切り捨てたその人はそう名乗った。

「あ、私はエリーと申します。危ないところを助けていただいてありがとうございました」

私は頭を下げた。まだ、胸がドキドキしてる。もう、アレいないよね?出てこないよね?何だったんだろう……。私は花光玉を抱き締めた。

「キングストーン様ですね。このお礼は必ずしに参ります。私、馬車を待たせておりますのでここで失礼します」

馬車、待っててくれてるかな?とにかくあの場所まで戻ってみようと思った。転がってた鞄を拾い上げようとしたら、ひょいって横から取られた……。

「…………馬車って?」

「あ、えと馬車乗り場で手配してもらって」

「そっか、じゃあとりあえず行こうか」

「え?」

ウォルク様は鞄を持って私の手を引いて歩き出した。正直王都の地理には疎かったから助かったんだけど、馬車は私を待っててはくれなかった。馬が落ち着いた後、別のお客さんを乗せて出発してしまったと言われた。


「どうしよう……」

私は途方に暮れた。王都での知り合いと言えばシオン様と花光玉を置いてもらってる雑貨店の店主さんくらいだ。後は王都にあるリーフリルバーン家のお屋敷だけど、夏の時期は人が少ないって聞いてるし、一度行ったことがあるだけの私の事覚えててくれてるかな?事情を話せば分かってもらえる?シオン様はまだリーフリルバーンのお屋敷に滞在中だろうし……。リーフリルバーンのお屋敷の人に連絡を取ってもらうか、馬車の代金を借りるしかないかな……。


「ねえ、ドレス汚れちゃってるね」

「さっき、転んでしまったので……」

我ながら酷い恰好になってる……。ドレスは汚れて少し裾が破れて、心なしか足首が痛い気がする。転ばされた時に捻ったかもしれない。ウォルク様はうーんと考え込んでうん、と頷いた。

「よーし、うちにおいで」

「え?」

はい?何を言い出すんだろう?この人。助けてくれたし、親切だし悪い人じゃないのは分かるんだけど、そんな見ず知らずの人の家にお邪魔するわけにはいかないよ?

「元々、馬車が君を待ってたら断ろうと思ってたんだよね。大丈夫!俺の家すぐそこだから!」

「いえ、あの」

なんで?すぐそこだからって何?そういう理由じゃないのに……。え?すぐそこ?この辺て、お城が見えてるし王都の中心だよね?こんなところに家があるの?上品な感じはしてるし、貴族の方かなとは思ってたけど、もしかして物凄く身分の高い方なのでは?


ウォルク様に半ば引きずられるように連れて行かれた先は、大きな、それはもう凄く大きな白亜のお屋敷だった。こっちもお城でいいんじゃないかな?

「ウォルク様っ!こちらにお戻りとはお珍しい!」

そんな風にお屋敷の人に迎えられたウォルク様はお屋敷の人達に色々と指示を出した後

「じゃあ、また後でね」

と、あの笑顔を浮かべてどこかへ行ってしまった。


私はあっという間に上品なベージュ色のお仕着せを着て白いエプロンをつけた女の人達に囲まれて、湯あみをさせられ着替えさせられてしまった。花光玉を取り上げられそうになって(実際には預かってくれようとしただけなんだけど)半泣きになってしまったのは恥ずかしかった……。


そして髪を乾かして整えてもらって、かわいいクリーム色のドレスを着せてもらって庭に案内されたんだ。大きな白い花が咲き乱れる庭園の中にあるガセポにはテーブルと椅子。お茶とお菓子の用意がされてた。季節は夏だけど日陰になってるガセポは涼しい風が吹きぬけて日差しの強さを忘れるくらいだった。


「そのドレス似合ってるじゃない!良かった良かった」

花光玉を抱いて立ち尽くしていると、ほどなくしてウォルク様がやって来た。

「どうしたの?立ちんぼ?座って楽にしてよ。ここは安全だから。俺もいるしね」

屋敷の中なのに剣を携えたままのウォルク様は鞘をポンと叩いて見せた。

「あ、あの、キングストーン様、色々良くして頂いてありがとうございます。でも私、帰りたいんです」

ウォルク様は私の後ろに回ると肩を押して椅子に座らせた。

「ウォルクでいいよ。エリー」

「?あ、あの?」

そうして自分も椅子に座ると腕と足を組んだ。


「今、ここを一人で出るのはやめた方がいいよ」

ウォルク様は今までより低い声でそう言った。視線を落とし何かの気配を窺ってるように見えた。

「え?」

私は辺りを見回した。

「大丈夫。さっきも言ったけどここは安全だよ。ただね、君が一人で外に出るのは危ないと思う。緑の一族の街までは遠いしね」

そう言ってウォルク様は私に勧めた後、お茶を一口飲んだ。あれ?私って緑の一族の土地出身なんて言ったっけ?

「うん、俺ってさ、けっこう勘が鋭いんだよね。鼻が効くって言うか?」

「そ、そうなんですか……。あ、あの……」

「これ、作ったの君でしょ?」

「あ」

ウォルク様はそう言いながらポケットから花光玉を取り出した。王都の雑貨店で売ってるものだ。

「これ作った人に会いたかったんだよね。そしたらおんなじっていうか、もっと強い気配が近くでしてさ、なにこれ?って思って追いかけてたんだ。それで君を見つけた。そしたら変なものもいてびっくりしたよ!あ、その手に持ってる花光玉!それ凄いね!それも君が作ったんでしょ」

「え、えとあの……」

「あ、それ、そのお茶美味しいよ?飲みなよ。セイラに任せておけば美味しいモノ選んでくれるんだ。そのケーキもいい感じだと思うから食べてみてよ」

ウォルク様は私の返事を待たずに話し続けた。質問じゃなくて確認してるみたい。セイラって誰だろう?私は仕方なくお茶に口をつけた。すっとする爽やかな香りに気持ちが少し落ち着いた。


「エリーは帰りたいんだよね。うん。分かってる。もうすぐだからもう少し待ってね、エリー」

私を助けてくれたその人は、白い大輪の花々が咲き誇る庭で人懐こさに優しさを加えた温かい微笑みを浮かべていた。


なんだろう?初めてあった人なのに懐かしい感じがする……。


何がもうすぐで、私は何を待てばいいんだろう?聞いたら答えてもらえるんだろうか。頭がボーっとして上手く考えられない。足首が少し痛くなってきたみたい。その後私はウォルク様に問われるがままに色々なことを話してしまっていた。







「ウォルク?貴方こんな所で何をしてるの?こちらの手配は終わったわよ。あちら様すぐにいらっしゃるって……」

夕暮れが近づく頃、女の人がガセポへやって来た。

「やあ、セイラ!やっぱり俺の勘って凄いんだよ!会いたかった人に偶然会えたんだ!」

セイラと呼ばれた人は短い金色の髪、騎士の服装に帯剣という背が高くてカッコいい女の人だった。ああ、この人がセイラ様なんだ。綺麗な人だな。ウォルク様も綺麗な人だし、世の中って綺麗な人が多いんだね。私は慌てて立ち上がって挨拶をしようとしたけど、足の痛みでしゃがんでしまった。何とかテーブルに掴まって体を支えようとしたけど駄目だった。やっぱり足を痛めてしまってたみたい。


「貴女、大丈夫?」

綺麗な青い瞳が私を覗き込む。セイラ様が体を支えて椅子に座らせてくれた。

「ちょっと失礼」

そう言ってドレスの裾を少し上げて、眉を顰めた。

「右足首、腫れてるじゃないの!顔色も悪いし。かなり疲れてるみたいね」

「え?そうなの?痛っ」

ウォルク様は覗き込もうとしてセイラ様に殴られた。うわ、ドゴォって音がしたよ?大丈夫かな?

「婦女子の足を見るんじゃないっ!今、治癒魔法をかけてあげるわね」

セイラ様はウォルク様を怒鳴りつけて、私に優しく笑いかけた。セイラ様が私の足に手をかざすと温かな感覚がして痛みが和らいでいった。

「ありがとうございます」

「私は金の一族なんだけど、銀の一族の血も入っているからこういうのも得意なのよ。初めまして!私はセイラ・シシリー。よろしくね」

「私はエリーと申します。よろしくお願いします。ここは金の一族の方のお屋敷なんですね」

「え?」

私の言葉にセイラ様は再び眉を顰めてウォルク様を見た。

「ウォルク、貴方まさかエリーちゃんに何も説明して無いの?」

「…………そうだったかもね……」

セイラ様の低い声に、まずいという表情を浮かべるウォルク様。


ドゴォッッ!!


セイラ様の本日二度目の拳が炸裂してウォルク様はその場に崩れ落ちたのだった。











ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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