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32 王都の闇 白と金の青年

来ていただいてありがとうございます!





「もう、もう!何なのよ一体?!私はリーフリルバーンのお屋敷に帰りたいだけなのに……!」

王都の狭い路地を走りながら、私は泣きそうになる。昼間なのに薄暗い路地には人がほとんどいない。時々座り込んでいる人もいるけど眠っているのか私には興味を示さない。

「興味があってもアレが見えるかどうかは分からないけど……」


馬車の中に突然現れたあの黒いモノは、馬車を出て走り出した私を追いかけてきた。走って追いかけてくるのではなくて、振り切ったと思って振り返ると、すぐ後ろにいるんだ。怖いっ。そんなこんなで走るのをやめられない。最初は大通りを逃げてたんだけど誰もあの黒いモノが見えてないみたい。走りづらいから近くの路地へに逃げこんだ。


「どうしよう?このまま走り続けるのは無理だわ……」

息が切れてきた……。どうしよう、どうしたらいいの?あれって幽霊じゃなさそうなんだよね。もし幽霊だったら浄化できる?走りながら花壇に咲いてる花を見た。うーん、そんなヒマないか……。とにかく捕まりたくないっ。触られたくないっ!あの黒い闇って魔物?悪魔?聖魔法で倒せるんだっけ?

「そうだ!神殿!神殿に行こう!」

神殿に逃げ込めば、助けてもらえるかもしれない!

「って、神殿ってどっちだろう?大通りに戻った方がいいかな?」

そう思って方向を変えようとした時、水飲み場のあるちょっと開けた広場に出た。良かった、追いつかれてない。私は少しホッとして水を手ですくって飲んだ。ここにも誰もいない……。王都ってこんなに人が少ないの?


「えっと大通りは……」

周囲を見回して、ゾッとした。


後ろ……すぐ後ろに、いる……。


顔の横に冷たい気配。黒い両手が目の端に見える。咄嗟に飛びのいたつもりだった。今度は足に冷たい感触。捕まってしまった。引っ張られて転んでしまう。鞄を放り出してしまい、その拍子に中身が飛び出した。

「…………っ」

私は咄嗟に布に包んであった星空の花光玉を手に取り抱きしめた。首から下げていた花光玉も服の中から取り出す。もしかしたらこれにも効くかもしれないから。


「やっぱり持ってた。お前がそうか」

くぐもったような声が喜んでいる。

「大きくなった?」

黒い闇がずーんって背を伸ばして覆いかぶさろうとしてきた。

「やだっ!!」

二つの花光玉が光を放つ。黒いモノは弾き返された。広場の隅で揺蕩ってる。助かった……けどまだ消えてない。

「やっぱりこれにも花光玉が効くんだ。あれ?なにこれ?」

二つの花光玉のうちの一つ、首から下げていた方が真っ黒に変色していた。星空の方も少し光が弱くなってるみたい。もう一度襲われたら、次は駄目かもしれない。

「に、逃げなきゃ……」

立ち上がろうとしたけど、足が震えて立てない。ずりずりと座ったまま後ずさった。スカートの上の花光玉が転がり落ちて遠くへ行ってしまった。

「あっ!」

しまった、もう駄目だ……そう思った。



「あれぇ?なんか面白いことになってる!やっぱ俺の勘って当たるよね」

そんな場違いに明るくて楽しそうな声が聞こえてきた。


声の方を見ると、お城の騎士さんのような服装の男の人が嬉しそうに黒い闇を見ていた。印象的なのは髪の色。不思議な色をしてた。白いけど金色の光を放ってる。これって何色なの?瞳の色は深い青。背が高い。石畳にブーツのかかとをコツリコツリとならして、ゆっくりと剣を抜き放ちながら黒い闇に近づいていく。途中ちらりと私と転がった花光玉を見て、ニコッって笑った。人懐こそうな笑顔にホッとする。この人にはあの黒い闇が見えるんだ。


「こういう敵は初めてだな。切れるかな?」

言うか言わないかのうちにその男の人は、黒い闇に剣を振るった。銀色の光の粒が舞う。綺麗……。霧散する黒い闇。

「良かった。ま、何とかなると思ってたけどね」

うんうんと頷いたその人は転がっていた花光玉を拾い上げて、今度はこちらへ歩いて来た。

「これ、君の?」

そう言って花光玉を渡してくれる。

「はい……あの……」

両手で受け取ってお礼を言おうとした。したんだけど、その人は私の両手首をがっしりと掴んできた。

「え?」

「見ーつけた!つーかまえた!」



あれ?私って結局捕まったの?

混乱する私の手を引っ張って立ち上がらせて、その白と金の人はさっきと同じように人懐こく笑いかけてきたのだった。













カーラ視点


つまらないわ。せっかくフィルフィリート様のお屋敷に遊びに来られたのに。エリーさんがいなくなってしまってからフィル様がぴリピリしてらっしゃるの。ノアレーン様が連れて行ってしまったみたい。ノアレーン様がご一緒なら大丈夫じゃないかしら。何もそこまで心配なさらなくてもいいのに。シオン様と何か話し合ってることが多くて、あまりお話しできないし。こんなことならお母様と一緒に領地へ帰れば良かったわ。大体お母様が連絡もなしに来るから悪いのよね。私がフィル様といい感じなのって話しちゃったからいけないのだけれど。「ご挨拶に」って気が早いのよね。もう!お母様ってそういう所あるから……。ノアレーン様のことがエリーさんにバレちゃって。ノアレーン様、何もおっしゃらなかったけど、すっごく怒ってらしたわ。うちにお咎め無いといいんだけど。


「シオン様!フィル様のご様子はどうですか?」

廊下でシオン様とお会いできたわ。待っていたわけじゃないのよ?

「カーラ、こんな事態だ。君も自分の屋敷に帰った方が良くないか?」

「でも、フィル様の事が心配なんです」

「……。もうフィルの事は諦めた方がいいぞ。元々君がこの屋敷へ招待されたのは……」

「花光玉なら、少しは上達したんですのよ?ご覧になって!」

私は自分で作った花光玉を見せた。

「…………。これは確かに花光玉の形にはなっている。しかし似て非なるものだよ。残念だが……」

「そんな……」

「やはり、山の一族の末裔の魔力が関係しているようだな。エリーとカレンそして他には数人しか作れないのか……。普通の地属性魔法とは一線を画している」

シオン様はそう仰って考え込んでしまった。


私とエリーさん、どこが違うんだろう……。でも花光玉の事はもういいわ。私の目的はフィル様だもの。フィル様に関してはエリーさんより私の方が有利なはずだわ!なんていっても私は貴族なんですもの!しかも黒の一族よ!ほら、六大貴族っていってもやっぱり緑の一族や陽の一族は少し格が落ちると思うのよね。国王様に選ばれるのは大体銀か紫、次いで金と黒の一族が多いわけだし。だからフィル様にとってもリーフリルバーン家にとっても黒の一族との縁談って美味しいと思うのよ。ただの平民のエリーさんはやっぱり無理だと思うのよね。黒の一族って基本生まれてくる子どもの魔力を高めるために魔力量重視で婚姻を決めるの。だから、黒の一族同士が基本なのよね。魔力が高ければ他の一族もありなんだけど。貴族学校にいらっしゃらなかったフィル様にはまだ誰も目をつけてない。チャンスなのよ。


「私とエリーさんだったら、私の方が条件は良いと思うのですけれど……。フィル様だってそのつもりでこのお屋敷にご招待くださったと……」

私は作った花光玉を握りしめた。シオン様は私の言葉を聞いてため息をついた。

「君がこの屋敷へ招待されたのは僕の友人だからだ。そして……たぶんエリーの為だよ」

最後の一言はとても小さな声だったけど、はっきりと私の耳に届いた。

「…………え?」

エリーさんの為?どうして貴族の私がエリーさんの為に?私は混乱した。

「カーラがエリーと仲が良さそうに見えたからだ」

何それ……。緑の一族なのに黒の一族の私の事馬鹿にしてる……。私馬鹿みたい。何しに来たの?

「とにかくフィルは諦めた方がいい。緑の一族は愛情が深い。フィルがエリーを大切に想っている以上君に勝ち目はないと思う」


悔しい……あのエリーって子は何なの?あのノアレーン様に特別扱いされて、フィル様にまで……。心が冷たくなっていく。シオン様の声を遠くに聞きながら私は、王都へ帰ろう、そう思った。











ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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