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02 黒闇の記憶Ⅱ

来ていただいてありがとうございます!



「え?今なんて仰ったのですか?」

「私達の婚約を解消したい」

「どうして?」

「すまない……。だが私はこのリュミエール王国を守りたいんだ。姫君と共に」

「私だって今まで一緒に戦ってきたのに……」


私を見ようともせず、一方的な宣言をして去っていった金の一族の婚約者。何を言っても駄目なことは分かってた。戦場で先頭に立って戦う二人は人々の希望だった。誰がどう見てもお似合いの二人。父からも言われたわ。

「お前がこの国に影を差してはならない」

とまで。私が身を引くよりなかった。私の家は代々魔力が強い家、婚約者の家は代々騎士の家。お互いに強さを求める家同士の縁組だったけど、私と彼は仲良くやって来てたと思う。隣の国が攻めてくるまでは。お姫様が戦場に出て戦い、彼と出会うまでは。


隣国が突如始めた戦。魔法が使える私も戦場に出た。私の専門は魔法の研究だったけど、騎士である婚約者の力になりたかったから。国民が一丸となって戦った。それでも戦況は悪くなる一方だった。敵国の兵士達がとうとう王都に迫ろうとした時、お姫様は禁断の一手を打った。王宮の奥深くに封印されていた悪魔と契約し、これを解放したのだ。


敵の兵士達は苦しみもがいて次々と死んでいった。なんとか逃れて国へ戻った兵士達も次々と倒れ、まるで伝染するかのように隣国の人々も次々に死んでいった。恐怖に怯えた隣国の国王は負けを認めて戦争は終わった。隣国は消滅し、私達の国はその領土を広げた。お姫様の身に起こった不幸と引き換えに。


封印されていた悪魔は怒りを溜めていた。自由になるためにお姫様と契約したけれど、散々自分を実験台にしてきた王国に強い恨みを持っており、戦争が終結したのちにお姫様に死の呪いをかけて去って行った。





終戦後いきなり元婚約者が訪ねてきた。

「一体何のご用ですか?」

私の迎え方は随分とそっけないものになったと思う。仕方がないわよね。

「頼みがあるんだ。姫君を助けて欲しい」

一連の事情を聞かされた。お姫様にかけられた呪いを解くという依頼のためにやって来たのだった。うちの家系は悪魔についての研究もしていたから。


「……無理だわ。私には出来ない。あんな強い悪魔の呪いを解くことなんて」

戦場で見たあの悪魔と苦しみにのたうち回る敵兵達のことを思い出すと寒気がした。

「お師匠様!できるかどうかはやってみないと分からないでしょう?」

同席していた弟子のクルトが瞳をキラキラさせてそう言ったけど、私は厳しく窘めた。

「貴方の才能は認めるわ。でもね、今回の案件は無理よ。私達にはどうにもならないわ。下手をすれば命の危険があるもの。そういう訳で残念ですけれど……」

私が断りの言葉を口にすると、元婚約者は信じられないことを言ってきた。

「君は……、もしかして姫君に嫉妬を?それで無理だと言ってるのではないのか?」

「…………」

驚きすぎて言葉がしばらく出てこなかった。何?この人は。勝手に心変わりをしておいて、さらに私を貶めるの?確かにお姫様には複雑な気持ちを持ってるわ。でも、でもね、国を救ってくれた方に死ねばいいなんて思わないわよ。この人は私をそういう人間だと思っていたの?婚約の解消まで仲良くやれていたのは私の思い込みだったのだと思い知らされた。悔しくて涙が滲む。


「何を仰っているのですか!お師匠様はそんな方ではありません!」

元気なクルトの声が元婚約者を非難する。

「確かに、お師匠様は魔法の研究馬鹿でちょっぴり変態ですが、とても心の優しい方です!」

「馬鹿に変態って……」

かなり引っかかるところはあったけど、クルトの言葉に少しだけ気持ちがほぐれた。大体「姫君を助けて欲しい」だなんて、私を裏切っておいてよくも頼みに来れたわよね。でも、私の腹立ちとは関係なく私には無理な案件だったから断ったわ。お姫様には恨みは無いとは言えないけど、私にはどうしようもなかった。


「お師匠様と僕だったら、何とかなりそうだと思うんだけどなぁ」

不満顔のクルトにはもう一度、しっかり無理だと伝えて叱っておいた。これまた不満げに帰っていった元婚約者はおそらく他の黒の一族の元へ向かうのだろう。でもきっとどこの家でも無理だと言われると思う。

「私も戦場でお姫様と一緒にいる悪魔を見たわ。あれは無理なの。強すぎるのよ」

暗くて深い闇のようなあの瞳。人の形をとっていた邪悪な存在。

「お姫様はどうやってあんなものと契約を結んだのかしら……」

「でーすーかーらー!お師匠様ならきっと楽勝ですよー!」

おもちゃでもねだるように腕を掴んでくるクルトを私はもう一回叱りつけた。










♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「何?あの婚約者の人、勝手だし自信過剰すぎじゃない?」

目覚めて最初の感想。またあの夢だ。この前見た夢の少し前の時間?もう、この夢って何なの?

「そういえばあの婚約者の人リュミエール王国って言ってなかったっけ……?それってこの国の事よね?」

頭働いてないや……。えっとここはリュミエール王国で、リーフリルバーン家の領地で、この辺はすごい辺境で、隣の国との戦争は……確か私が生まれた年だか、前の年に終わったんだっけ?うーん、勉強は嫌いじゃないんだけど、歴史の本とか話って読んだり聞いたりすると眠くなっちゃうのよね。大昔のことだと物語みたいに楽しめるんだけど、現代に近づくと特に細かくなってくるから……。学校(神殿)行けるようになったらもう少し真面目にやろう。私は一つ伸びをして起き上がり身支度を整えて今日を始めた。






ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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