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21 そらうつし2

来ていただいてありがとうございます!



見渡すがきりの空色、白、青だった。


風のない湖は呼び名のとおり夏の青空を映してる。お屋敷で見るよりもクリアル山が近い。なんだかちょっと懐かしい。湖の周りには風琴草という小さな花が群生している。風琴草は深い青や淡い青、白色の三色の種類があって、あちらこちらで可愛い花をたくさん咲かせてる。


「まあ!なんて美しいのでしょう!フィル様、シオン様、連れてきてくださってありがとうございます!」

行きの馬車の中ではカーラ様がフィル様にいっぱい話しかけていて、私はあまり喋る必要もなくて気づまりも無かった。良かった。到着後は一緒に来たお屋敷の人達を手伝ってパラソルやテーブルや椅子の設置やお菓子やお茶の準備を手伝った。こんなのどこに入ってたの?また魔法の何かかな?途中でフィル様が手伝おうとしてくれたけど、カーラ様に呼ばれたので行ってしまった。その後で私達はみんなで早めのお昼ご飯を食べた。



「フィル様!小舟(ボート)がありますわ!私乗ってみたいですわ!」

「……分かりました」

フィル様はカーラ様を小舟(ボート)に乗せて湖を漕ぎだした。

「僕達も乗ってみよう、エリー」

「え?でも私は船を漕いだことは無くて。シオン様をお乗せ出来ないです。申し訳ありません」

「何を言ってる!小舟(ボート)の漕ぎ方くらい頭に入っている。僕は天才だからな!女性に漕がせるはずがないだろう。当然僕が漕ぐぞ」

あれ?それって実際にはやったことないってことなのでは?ちょっと不安だったけど、口に出すことはできなかったので、私もシオン様と一緒に小舟に乗ってみることにした。人生初が増えていくなぁ。


小舟は意外にも滑らかに水の上を進み出した。

「どうだ!僕は凄いだろう」

「はい。初めてなのに凄いです」

得意げなシオン様を可愛いと思ってしまった。改めて向かい合ったシオン様はとても美少年だった。

「古文書を読み進めたんだが、どこを読んでもさざれ石を使ったという記述がないんだ」

「そうなんですか?」

乾燥させた花とさざれ石を使う。これが当たり前だと思ってた。でも咲いてる花でもできたんだから、さざれ石を使わない方法もあるのかもしれない。


「花光玉と言えば王都では今かなり大変なことになっているようだ」

「悪魔憑きの病ですか?」

「ああ、王都から僕の元へも報告が来てる。アルジェ神官の言葉通りのようだ。花光玉が飛ぶように売れ始めている。患者数が多すぎて神官や白魔法使いの手が足りてないらしい」

「そんな……」

悪魔憑きの病はとても辛くて苦しいのだ。リーフリルバーン家のご当主様のアルフレット様の様子を見ていてよく分かっていたはずだった。そんな患者さんが増えてるの?可哀そうだ。やっぱりお屋敷に残れば良かった。花はたくさん咲いているのに、持って来たポーチの中にはハンカチ、ブラシ、日傘くらいしか入ってない。今日はさざれ石を持ってきてない。



シオン様は漕ぐのは上手なんだけど、体力が無かったみたいで私達はすぐに岸に戻った。シオン様はパラソルの下で座ってお菓子を食べてる。私は花畑の真ん中でクリアル山と(そら)うつしの湖をぼんやりと眺めてた。私、なにしてるんだろう?休んでる場合じゃなかった。神官様からお話を聞いていたのに、ピンと来てなかった。私って馬鹿だ。帰ったら本当に死に物狂いで頑張らなきゃ……。

「クリアル山の神様、湖の神様、お花の神様、どうか私にもっと力を貸してください」

病気で苦しんでる人たちの力になりたい。私にもできることがあるなら精一杯やりたい。そんな風にお祈りした。ただそれだけ。魔力を込めたつもりは無かったんだ。


まんまるな光がいくつもいくつも浮かんできた。風琴草の花たちから、もっと下の地面から。

「集まって」

自然とそんな声が出た。光がそっと私に集まって来て差し出した両手の上に収束した。いつもより少し大きな花光玉が三つも生まれた。空を集めたような青いグラデーションの綺麗な花光玉だった。夢を見ているみたい。ぼんやりと思った。シオン様の古文書の挿絵が頭に浮かんだ。


そっか、こうやってみんなの力を借りるんだ……


不思議な感覚だった。ふっと力が抜けてその場に座り込んでしまった私をフィル様が支えてくれた。いつの間に近くにいたんだろう?さっきまでまだカーラ様と小舟に乗ってたと思ってたのに。

「フィル様……」

「…………エリー、君は」

「はい、これ。今日はたぶんこれだけになっちゃいます。すみません……」

私は空の花光玉をフィル様の手にのせた。さらに力が抜けていく。まぶたが重い……。

「エリー?」

フィル様の声が遠い。気が付くと夕方になってて、私はリーフリルバーン家のお屋敷の自分の部屋で目を覚ましたのだった。







「私、後が無いのよ」

「?」

その日の夜、夕食後にカーラ様が私の部屋へやって来た。開口一番にそう言われて混乱した。夕食は部屋でとって、花光玉を作ろうとしていた時だった。体力が戻ったから、少しでもって思って。

「私はみそっかすなの。グレイスフェザー家は黒の一族の一員なの。黒の一族は黒魔法の一族なんだけど。ウチはその末端に近いの。つまり魔力は普通くらいだわ。その中でもみそっかす」

「あの?カーラ様?一体何を仰りたいのですか?」

「やっぱり一族の中では魔力の強い者を伴侶に迎えたいものなのよ」

「はあ、伴侶ですか」

「だから、私にはとても不利なの。王都の貴族学校でもたくさんの殿方とお話させていただいているのですけど中々仲良くなれないの。私の未来の旦那様はいないのかしらって思っていたのだけれど……」

カーラ様はここで言葉を切って宙を見つめた。


「ここにいたわ!フィルフィリート様ならちょうどいいのよ!会わせて下さったシオン様には感謝だわ」

「へ?」

「魔力の事は気になさらないだろうし、家柄も申し分ないし、お優しいし、そして何よりもとても美しい方だわ!!ココ、重要よ!」

「そ、そうなんですか……えっと」

「だから、私は婚約してくださいって申し込んだの!今日」

「…………こ、婚約?」

えっと将来結婚するってことだよね?ご自分から?えっと、アクティブ?結婚、フィル様と……。カーラ様の言葉が頭にしみ込んできた。心がギュッと掴まれたような気がする。


「でも断られてしまったわ。即答でしたのよ……」

フィル様、断ったんだ……。なんかちょっとホッとしちゃった。

「フィル様、好きな人がいるんですって」

カーラ様はちらりと私を見た。

「だから、譲って欲しいのよ、エリーさん!今日のあの力を見たわ!貴女なら、結婚相手に困らないでしょう?」

私は首をかしげた。カーラ様は何を言ってるの?なんだか根本的な勘違いをいくつかしてるみたい。

「あの、私は貴族ではないんです。ただの農家の娘なので結婚なんて……。私はただの雇われ人なんです」

それに譲るってまるでフィル様が私を好きみたいな言い方。引っ掛かったけど、そのことは口に出せなかった。

「ええ?そうなの?え、でもあなたの扱いってまるで……、でも……魔力量とかあの力も……うーん」

カーラ様は考えながら何ごとかを呟いている。


「失礼する」

その時ノックの音と同時にドアが開かれた。

「一体何をなさっておられるのです?カーラ様」

フィル様が少し怒ったように部屋へ入って来た。シオン様とエドさんもドアの外から顔を見せてる。

「エリーは疲れています。今夜は休ませてやって欲しいと言ったはずですが?」

カーラ様を見るのはいつもの優しいフィル様じゃない。冷たい表情に驚いてしまう。

「あ、あの、申し訳ございませんわ」

カーラ様が怖がってる。私も慌てて言い添えた。

「フィル様、カーラ様とは、私も、その、お話してみたくて」


「エリー!君もだ!」

「は、はいっ」

フィル様にすごい勢いで肩を掴まれた。

「何故、花光玉の道具を部屋へ持ち込んでいる?今日は、今夜はゆっくり休むように言っただろう?休むことも仕事のうちだ。君に何かあったら、僕はっ……」

フィル様は一瞬顔を逸らした。

「いや、とにかく今夜はきちんと休むんだ。いいね?」

私が頷くと満足したように笑った。

「いい子だ。おやすみ」

そう言って頬に口づけてカーラ様と一緒に部屋を出て行った。


「また……」

私は頬を押えてその場に座り込んでしばらく立てなかった。










ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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