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20 そらうつし

来ていただいてありがとうございます!


「熱下がったー!まだちょっとだるいけど。私って昔から丈夫だったんだよね」

窓から遠くにクリアル山が見える。今日もいい天気だ。

「山の神様、山の一族かあ」

神官様のお話を思い出して、今更だよねと思いつつお祈りをしてみる。

「山の神様、守って下さってありがとうございます……。さあ、今日からまた頑張るぞ!」


神官様のお話では王都で悪魔憑きの病の患者さんが増えてる。それと比例して花光玉の売り上げも伸びてるみたい。私の作った花光玉、役に立ってるといいな。私は今日も気合を入れて花光玉を作り続けた。朝、食堂へ下りていく時は勇気が要ったけど、フィル様はいつも通りだったから私も普通にいられたと思う。

「ご心配をおかけしました」

ってちゃんと言えた。フィル様の顔は直視できなかったけど。「ありがとうございました」も言おうと思ったけど、なんかありがとうって何に?ってなっちゃって言えなかった。


「そういえば、ノア、今朝もいなかった」

いつもなら私が熱を出したなんて聞いたら心配してお見舞いに来てくれると思うんだ。ノア、優しいから。リーフリルバーン家のお屋敷にはノアの他にも花を乾燥させる魔法を使える人がいる。エドさんもその一人だ。今日はエドさんが他の人と協力して花を持って来てくれた。

「エドさん、ノアはどうしたんですか?もしかして具合が悪いんですか?」

「ああ、えっとノア君にはちょっと用事を頼んでいて、しばらく屋敷へは戻れないんですよ」

「え?そうだったんですか?」

そうだよね。ノアも私と同じ雇われ人だもんね。用事ぐらい言いつかるよね。でも、それはそれとして一言ぐらい言ってくれてもいいのにな。

「寂しいですか?ノア君がいないと」

「……そう、ですね。七歳くらいだったと思うんです。ノアが初めて神殿に来たのは。それからずっと一緒にいたから……」

初めてあった日、ノア泣いてたっけ。お父さんもお母さんもいなくて寂しかったんだろうな。私にしがみついてきたんだ。懐かしいな。エドさんは何か言いたげだったけど、結局何も言わずに部屋を出て行った。私は遅れを取り戻そうと花光玉を作り続けた。



「カーラ様がご到着されましたよ」

その日の午後エドさんに告げられたけど、私はご挨拶だけしてそのまま仕事を続けてた。シオン様の時と違ってお茶に呼ばれたりはしなかった。

「エリー、ちょっといいか?」

フィル様が部屋へやって来た。ちょっと緊張したけど、フィル様は普段通りだったから、私も落ち着いてお話しできたと思う。でもやっぱりフィル様の顔を見ることはできなかった。


「明日、シオン達と一緒に湖へ行こうという話になったんだ」

湖……。確か私の家とリーフリルバーン家の間ぐらいに湖があるんだっけ。鏡池とか(そら)うつしの湖とかいわれてる綺麗な湖。周りには花畑もあって綺麗な場所。

「それで、良かったらエリーも一緒に行かないか?気晴らしにもなると思うんだ」

行ってみたい、けど遅れちゃった分の仕事もあるし、ノアもいないし、なによりフィル様の近くにいるのはなんだか恥ずかしい気がしてお断りした。

「…………そう。分かった。けど無理しないで」

フィル様の手が私の顔に触れそうになる。熱が頬に……。思わず顔を上げてフィル様を見てしまった。私を見つめる緑色の瞳が少し潤んでるように見える。フィル様悲しそう……?

「あ、あの、フィル様、私……」


「エリー!一緒に湖へ行きましょうよ!わあ、ここが貴女の仕事部屋なのね!まあ、たくさんの花光玉!凄いわ。とても熱心なのね。でもね、労働者にはお休みの権利もあるのよ?私もエリーが一緒の方が嬉しいわ!ね?」

カーラ様が仕事部屋に突然入って来た。びっくりした。そして入って来たと思ったらいきなり暴風みたいに喋り始めた。気が付くと私はカーラ様に押される形でつい湖行きを了承してしまってた。意志弱いなぁ私って……。

「さあ、行きましょう、フィル様。お仕事の邪魔になってしまいますわ」

カーラ様はそう言ってフィル様の腕を引っ張って部屋を出て行った。うーん、嵐のよう。なんだかちくっと胸が痛い気がしたけど気のせいかな?




最近、私の部屋(自室の方ね)には私の世話を焼いてくれる女の人がいつもいるようになったんだ。マイヤさんていう六十歳に近い女の人。着替えとか身支度とか、時々勉強とかマナーの事とか、本当に色々なことを面倒見てくれる。正直着替えなんかは一人でできるんだけど、その他の事は知らないと恥をかくからって素直に教えてもらってる。仕事の時に必要になるかもしれないから。


そんなマイヤさんに朝、叱られた。いつもの仕事着を着ようと思っただけなのに。

「お出かけするのに、そんな服で行ってはいけませんよ」

そう言ってマイヤさんがクローゼットから取り出したのは薄い緑のレースワンピースドレスだった。花の刺繍も入ってて可愛い。いや、これ、絶対汚れるよね?無理だよね?っていうかそんな服あったっけ?っていうかクローゼットの中の服、増えてるよ?なんで?混乱してるうちに服を着替えさせられてドレッサーの前に座らされて髪を整えられてレースのリボンを結ばれた。前にマーサさんがしてくれたみたいなハーフアップに。

「これで出かけないと駄目ですか?」

恐る恐るマイヤさんにたずねると、鏡の中から笑顔で

「とてもお似合いですよ。エリーさん。いつも忙しいんだから今日は楽しんでらっしゃいな」

そう言われて部屋から出されてしまった。


エントランスに行くと、もう皆さん揃ってた。私は慌てて走ろうとしたけど、靴が……。いつもの靴じゃなくてもっと華奢な作りで歩きづらい。走るなんて難しそう。フィル様が駆け寄ってきてくれて手を取ってくれた。

「待って!慌てなくていいから。それ、着てくれたんだね。……良かった。とても似合ってる」

フィル様はそうささやいてとても嬉しそうに笑った。また恥ずかしくなっちゃってフィル様の顔見れない……。


フィル様、シオン様、カーラ様と私。そしてエドさんと数人の屋敷の人達。二つの馬車で朝早くに(そら)うつしの湖へ向かった。


どうしてこの分かれ方なの?どうせなら私はもう一つの馬車の方が気楽だったのに……。







ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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