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19 熱

来ていただいてありがとうございます!


何だか恥ずかしくて顔が見られないわ。


その日は婚約者との顔合わせの日だったの。背が高くて、剣の腕が立つと評判の金の一族のレオナルド様。引っ込み思案の私にも根気強く接してくれた優しい人。初めて会ったのは顔合わせの前、緊張して屋敷の庭をウロウロしてた時。庭を見ていたレオナルド様にぶつかってしまったの。慌ててお詫びした私にその人は優しく笑いかけてくれたの。春の日差しに透ける金色の髪。太陽のような人。私は十五歳でレオナルド様は十八歳。私はどんどん彼に惹かれていったのよ。それなのに彼は出会ってしまった。彼の運命の相手に。




「ああ、あなたの好きな人もレオナルド様っていうんだね……。だからあの時あんなに胸が痛かったの?」






「あ、熱いかも……。頭も痛い気がする……」

久しぶりに夢を見た朝、かなり久しぶりに熱を出してしまった。エドさんに伝えてもらって今日はお仕事を休んで部屋で休むことになった。花光玉は身に付けてるから、悪魔憑きの病ではなさそう。

「外は今日も暑そう……。私は寒いけど。熱を出したのなんていつぶりだったかな」

窓の外は良い天気で庭石に光が反射して少し眩しい。けど、カーテンを閉めるのも億劫でベッドの中で丸まって色々考える。

「…………ううぅ~、やっぱり恥ずかしいんですけど……」

ベッドの中で頬をおさえる。顔が熱いのは熱のせいだけじゃないと思う。やっぱり、やっぱり、普通はキスなんてしないよね?どうして?なんで?

「どうしてフィル様はあんな事……」


すーはーと深呼吸。よし冷静になって!そう、あの時フィル様はなんて言ってた?あの時私が泣いてしまったのは違う理由だけど、カレンの事を気にしなくていいって言ってくれてた。そうよ、きっとすごく心配してくれたんだよね。雇用主だし。カレンと両親があまりにもだから、慰めてくれたんだ。そう。勘違いしちゃ駄目。

「だから、勘違いって何?」

熱が上がってきたみたい。目を閉じた私はまた眠りに落ちていった。




リーフリルバーン家居間にて


「エリーは大丈夫なのか?」

シオンがいつものように菓子をつまみながら香茶を飲んでいる。今日のおやつは透き通った蜜を柔らかく固めて冷やした飴菓子だ。

「熱が高いようで心配なんだ。カレンの騒ぎもあって、やはり日頃の疲れが出たのかと」

エリーの部屋へ見舞いに行こうとしてエドに止められ、少し機嫌の悪いフィルフィリートが答えた。

「まあ、あのような家族がいるのなら、さもありなんというところだな」

シオンはひじ掛けに頬杖をついて嫌そうに顔をしかめた。


「エリーさんの両親からは毎回もっと送金額を増やすようにと伝言を受けています。困ったものですよ」

エドはため息をついた。

「それ、エリーには」

「もちろん伝えていませんよ、シオン様。当然のことです」

とんでもない、というように首を振るエド。

「エリーだけ血がつながってないのではないのか?」

「シオン……。さすがにそれは言い過ぎだ。エリーが傷つく」

今度はフィルフィリートが顔をしかめる番だった。

「そうかな?実際あの姉妹はあまり似ていないじゃないか」

「エリーさんは父親似、カレンさんは母親似だということですよ」

「ふーん、そうなのか」

シオンはひょいっと飴菓子を口に放り込んだ。


「それはそうと、フィル様、意外と手がお早いのですね」

意地の悪い笑みを浮かべたエドの言葉に、フィルフィリートはごほっと飲みかけの香茶をふきそうになる。

「…………エド?お前まさか見て……」

「お、とうとう我慢できなくなったのか?やるなフィル。で、どこまでしたんだ?」

シオンが興味津々でたずねてくる。シオンはエドとは違い純粋な好奇心から瞳を輝かせる。

「不埒な真似はしてない。おやすみの挨拶をしただけで……。エリーはかなり傷ついていたから、見ていられなかったんだ」

ためらいがちに吐き出された言葉には真摯な気持ちがこもっていた。が、エドは手を緩めない。


「エリーさんが熱を出されたのって、もしかしてフィル様のせいなのでは?」

「エド……!」

「一応、よそ様の大切なお嬢さんをお預かりしているのですよ。軽はずみな言動はお控えになるべきかと」

「軽はずみではないさ。リーフリルバーン家(この家)には相応しい人間は他にもたくさんいる。父上も帰ってくるかもしれないし」

「ああ、またそのようなことを仰って。アルフレッド様が悲しまれますよ?……でも、まあいいでしょう」

何事かを納得したのか、エドはそれ以上の追及をしなかった。心なしか満足げな笑顔も浮かんでいる。


「ではエド、あれをシオンに」

「はい。フィル様」

エドがそう言ってシオンに差し出したものは、小さな箱だった。

「これを見て欲しいんだ。シオン」

「ん?なんだ?花光玉か?……!これは……」

箱の中に入っていたものは真っ黒く、いやどす黒く変色したいくつかの花光玉だったものだった。


「これは効果が切れた、などという状態ではなさそうだな」

シオンの顔に汗が浮かぶ。

「どこだ?」

「城、いや、王宮だ」

シオンの問いかけにフィルフィリートが答える。

「王宮だと?」

シオンは信じられないという顔だ。

「ああ。しかもこれはエリーの作った花光玉なんだ」

「では、恐らく」

「ああ、病の原因は王宮に」

シオンとフィルフィリートの会話をエドも硬い表情で静かに聞いていた。


外は明るい夏の盛りだというのに、この部屋の中だけ影が濃く揺蕩っているようだった。




ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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