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01 私の一日

来ていただいてありがとうございます!



早朝から昼前




朝日が昇る前から畑にでる。一面の花畑。今はクリアセインという青い花が咲いている。私と両親と近所に住んでるパーソンさんご夫婦、そして幼馴染の男の子とみんなで花を収穫する。幼馴染はノアと言って、近くの神殿で暮らしてる孤児だ。神殿では食事もきちんと食べさせてもらっているはずなのに、がりがりに痩せているのでちょっと心配だ。

「随分沢山咲いたわね。乾燥が追いつかないかも……」

私は花摘みの手を止めずにつぶやいた。

「エリー、こっち終わった」

ノアが私に声をかけてきた。相変わらず仕事が早い。

「あ、ありがとう!じゃあ、これもお願い」

「分かった」

ノアは私と同い年の十五歳。この辺では珍しく黒髪に黒い目をしている。無口で無表情な男の子だけど、優しくて働き者だ。風を扱う魔法が得意で、摘んだ花を乾燥させる作業をしてくれてる。ノアが魔法を使うと暖かい風に乗って良い香りがふんわりと漂ってくる。



「よーし、だいたい終わったなぁ。みんなお疲れさん。一休みしてくれ」

父さんがみんなに声をかけた。乾燥させた花を積んで荷車を引いていく。

「エリー、朝ごはんの支度手伝ってくれる?」

母さんが汗を拭ってる。春の初めだけど一生懸命に働いたのでみんな汗をかいてる。

「わかった。すぐ行くわ。ノア、行きましょ」

「うん」

ノアが住んでる神殿までは少し距離があるので朝食は大体うちで食べるのだ。

「じゃあ、また後でね、エリーちゃん」

パーソンさんご夫妻は近所の自分の家に朝ごはんを食べに帰って行った。








「おはよう~」

花畑からすぐ近くの家に帰って朝食の支度をしていると、一つ年下の妹のカレンが台所のある部屋へやって来た。

「ちょっとカレン!日が昇ってどれくらい経ってると思ってるの?畑の方も手伝ってって言ってるでしょ?今は最盛期で手が足りないのよ?」

野菜と干し肉のスープを器によそい、スライスしたパンを並べた皿にのせた。母さんは焼いた卵をパンの上にのせていく。

「ごめんなさい、姉さん。私どうしても朝早くは起きられなくて。ほら、私は花光玉を作るのが大変でぇ」

カレンが悪びれることも無く朝食のテーブルについて食べ始めた。カレンはいつもそう。食事の準備すら手伝おうとしないのだ。

「まあ、まあ、適材適所ってあるでしょ?カレンちゃんがお店で花光玉を作るとね、本当にお客様に受けがいいのよねぇ!」

お母さんは嬉しそうにカレンの肩を抱く。お母さんとカレンは金髪で緑の目の美人でそっくりだ。自分に似た娘が可愛いのか、カレンの我儘を何でも聞いてしまう。カレンもえへへと無邪気に笑っている。




「花光玉」


特別な花を摘んで乾燥させる。聖なるさざれ石と乾燥させた花を合わせて魔力を込めるとほのかに光る透き通った球体になる。その良い香りと綺麗な色は魔物が嫌うといわれてる。花によって、作る人によって色や光り方が変わってくる。昔はただの工芸品、お土産物、装飾品、アクセサリーでしかなかった。でもいつしか国の中で悪魔憑きと呼ばれる病が流行り始めた。偶然この花光玉が病をおさえる効果があることが分かった。




うちは元々、農業の傍ら、副業として花光玉を作ってきたけれど、病に効果があることが分かってから売り上げが爆増した。いくつかこの花光玉をつくってるところはあるんだけど、うちの店が、っていうかカレンのつくるものが一番効果があるんだって。もう最近は大忙しで近所の人にも花の栽培を手伝ってもらってる。それまで別の野菜を作っていた畑も全部花畑に変えたんだ。


「そうだな、カレンが店に出ると売り上げが段違いだからなぁ」

父さんは私と同じ茶色い髪で緑の目。私も父さんも平凡な顔立ち。でも母さんのことをとても愛しているから、母さんに似てるカレンにはとても甘くなるのだ。パンをかじりながらカレンを優しく見つめてる。

「ちょっと!父さんまで!!材料の花が無かったら花光玉も作れないのよ?それに花光玉を作るのは私だって出来るわ」

「いや、しかしカレンの花光玉が一番効果が高いって評判だからな」

「そ、それはそうなんだけど……、不公平だと思うの」

「まあまあ。お前が育てた花は元気が良くて素晴らしいし、今の役割分担が一番家にとっていいから堪えておくれ」

父さんは朝食を済ませると立ち上がり台所から出て行った。

「じゃあ私、支度と店番があるから!」

カレンも食器もそのままに出て行ってしまった。

「あ、ちょっと!もう!」

「母さんも納品に行ってくるわ」

なんと母さんも朝食を食べ終えてさっさと台所から出て行ってしまう。うちはいつもこう。誰も私の話をまともに聞き入れてくれない。


「後片付けをしておけってことよね……」

私は食器の残されたテーブルを見てため息をついた。

「手伝う」

「いつも、ありがとね。ってノアったら!またほとんど食べてないじゃない!ダメよ!ちゃんと食べないと!」

「……」

無言のノアにスプーンを握らせてなんとか朝食を全部食べさせた。



後片付けを終えてお茶を飲んでると、ふいにノアが言ってきた。

「エリーが花光玉作ってるの見てみたい」

「あ、そっか、見せたことなかったね」

「カレンのは見たことあるけど」

「そうね。私も久しぶりに作ってみようかな」

最近は花の収穫で忙しくて時間が無かったし、腕が鈍ってると嫌だし。作ってみよう!


私専用の銀の盆と銀のボウルを持って来た。銀のボウルにさざれ石をいれて、乾燥させた花を入れる。ボウルの上に手をかざして魔力を込める。小さく小さく凝縮させるイメージ。ふわっと光がボウルの中に溢れた。少し時間がかかったけどカランと乾いた音がして淡く薄紅色に光る透き通った球体が生まれた。

「綺麗だ。エリーみたいだね。カレンが作ったのよりずっとずっと綺麗だ」

ノアは出来上がった花光玉を掌に載せて呟いた。何かを見透すように花光玉をじっと見つめてる。

「それは言いすぎよ。カレンのはもっと綺麗だもの」

「ううん。そんなことないよ!」

ノアの強めの口調と真面目な顔に驚いたけど、褒めてもらえて嬉しかった。

「ありがと。これはノアにあげるね」

「いいの?ありがとう」

そう言ってノアは笑った。あれ?私ノアの満面の笑顔って初めて見たかも?




その後ノアと一緒に朝食の後片付けをして、ノアは畑仕事に戻って行った。私は昼食の準備をして、もう一度身だしなみを整えてから、花光玉を売る店の方へ出た。


店の入り口近くのテーブルには人だかりができてる。その中心にはカレンがいる。カレン専用の銀の盆の上に銀のボウルを置いて、さざれと花びらを入れた。魔力を注ぐと綺麗な透明な球体が出来上がる。おおっと歓声が沸く。

「やっぱりカレンちゃんが作ってくれたやつが一番だよ!ありがとうな!!」

ちょっと裕福そうな商人風のお客様は喜んで受け取ると規定料金に色をつけて払ってくれた。これが妹効果だ。美人の妹が目の前で作ってくれた花光玉はありがたいんだって。


「エリーちゃんこれ二つちょうだい」

「ありがとうございます!二十ジルヴァになります!」

カレンが作れる数には限りがあるから、私や母さんが冬の間に作りためた花光玉もお店には置いてある。一つ十ジルヴァの価格で販売してる。ちなみに十ジルヴァは私達家族の一週間分の食費くらい。ちなみにカレンのはその倍の価格でも飛ぶように売れていく。



昼から夕方まで


「エリー、午後から神殿に行ってくるから」

「うん、父さん気を付けて行ってらっしゃい」

「エリー店番はしておくからお昼食べていらっしゃい」

「うん、わかったわ、母さん。畑の方に持って行ってついでに収穫も手伝ってくるわ!」

店の方は母さんとカレンに任せておけばいい。どうせ母さんもカレンも畑の方に行く気はないだろうし。

「ええ、お願いね」

私はエプロンをつけてキッチンのテーブルに置いてあった大きなバスケットを持った。家の裏手にある畑に向かう。

「おじさん、おばさん、ノア!お昼ご飯にしましょう!」

「おお!もうそんな時間か!エリーちゃんありがとう!」

私達は畑の近くに設置したベンチとテーブルに食事を広げて一緒に食べた。昼食はうちがふるまうことになってるんだ。

「今年は花のつきが良いな」

「そうね、作業が追い付かないくらいだわ」

「忙しくてすみません。いつもありがとうございます」

「いやいや、エリーちゃんも本当に働き者だなぁ。偉いぞう!!」

「本当ね。いつも動き回って、よくやってるわ」

ノアはサンドイッチを食べながらうんうんと頷いている。

「ふふ、そう言ってくれるのはおじさんとおばさんくらいよ。ありがとう」





畑に店に家事にと動き回って夕食を終えるともうくたくた。本当は勉強もしたいんだけど、眠くて無理。花の収穫の最盛期は学校もお休みしてる。(学校と行っても近くの神殿に勉強を教わりに行くだけなんだけど)お風呂に入ってベッドに潜り込むとすぐに睡魔が襲ってくる。そしてまた朝が来る。





これが私、エリーの一日。不満なこともあるけれどずっとこんな穏やかな生活が続いていくんだと思ってた。







ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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