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15 夏の影 

来ていただいてありがとうございます!



「みずみずしい夏野菜が美味しい季節だよね」

本格的に夏がやってきていた。お日様の強い光を浴びて、野菜や果物がどんどん成長してる。もちろん夏の花々もぞくぞくと開いている。同じ種類の花でも先始めや咲き終わりよりも、最盛期のものが一番花光玉の効果が高くなることが分かってきた。今は日向い草っていう、白や赤やオレンジ色やピンク色やたくさんの色の種類がある五枚花弁の大きな花が最盛期になってる。


今日十五個目の花光玉を作り終えた私は、ノアに氷みたいに冷やしてもらった香茶を楽しんでいた。ちょっとペースを上げすぎて疲れちゃった。前は二、三個だったけど今は五個連続で作れるようになったんだ!

「うーん……」

「どうしたの?エリー」

今日もノアは自分の仕事を終えて私の仕事部屋に来ている。

「ノアっていくつ魔法が使えるの?」

前々から気になっていたことを聞いてみた。

「このお茶って氷属性魔法を使って冷やしてくれたんだよね?このお部屋も」

冷たいカップの感触。外は夏の日差しが降り注いでるのに部屋の中は涼しい。ノアが何かを隠してるのは何となく気が付いてた。けど、話したくないならいいかなって思い続けて今日まで来ちゃったんだ。でも、シオン様やカーラ様、フィル様のノアに対する態度はやっぱりどことなくおかしく感じるんだよね……。


「うーん、けっこういっぱいかな?僕に興味が出てきた?嬉しいな」

頬杖をついて私を見つめてくるノア。

「興味っていうか……。私、ノアのことはノアだってことくらいしか知らないから……」

小さい頃から一緒にいた幼馴染で神殿で暮らしてて、よく一緒に遊んでて畑仕事も手伝ってくれて。それだけじゃないのかなって。上手く言えないけど不安になる。

「ノアはノアだよね?どこかへ行っちゃったりしないよね?」

「…………うん」

ノアはそう言って私を抱き締めた。小さい頃ノアが私によくそうしてきた。ノアはお父さんもお母さんもいなくて寂しいんだって思ってた。だから元気がないノアを私がお姉ちゃんぶって抱き締め返してた。


ノアはしばらくずっとそうしてた。

「ノア?」

「…………大丈夫だよ。僕からは絶対に離れないから」

「ひゃあっ」

熱い息が耳にっ!今、ノアの口が私の耳にさわった?!思わずノアを突き飛ばしちゃった!なんてことするの?ノアってば!耳と顔が熱い……。

「なっなにするの?!くすぐったいじゃないっ!」

「あっは、エリーの顔真っ赤!」

私に突き飛ばされてソファのひじ掛けによりかかったまま笑ってる。

「からかうなんて酷いわ!もう知らないっ!」

私は花光玉を作る作業に戻った。はぐらかされたんだと思うけどそれ以上何も聞けなかった。だってノアの顔は笑ってたけど、なんだか悲しそうで今にも泣きそうに見えたから。


やっぱり、ノアの中には私が知らないノアがいるんだなぁ。そう思うとなんだか少し寂しくなってしまった。






「え?シオン様が?」

「ああ、親友の屋敷に遊びに来たいそうだ」

何とシオン様が夏休みを利用してこのリーフリルバーン家に滞在することになったそうだ。フィル様がいつの間にかシオン様の親友に格上げされてる。フィル様は少し疲れたようにため息をついた。私はこっそり笑ってしまった。

「シオン様って学校に通われてたんですね」

そのことにもびっくりした。貴族のご当主様って学校行くんだ……。あ、違う、学校へ行く年齢でご当主様をしてるのが凄いのかな?うーん、やっぱり貴族様のことって良く分からないや。


私とノアは大体いつもフィル様やエドさんと一緒に食事をとらせてもらってる。他の人達は私達の食事を準備すると他の部屋でみんな食事をとったりする。(通いの人は昼食だけとか)フィル様とエドさんは一緒に出掛ける事も多いから、そういう時はみんなと一緒に食べることもある。ご当主様はお忙しいので不在の事が多い。お屋敷にいらしても夕食はいつもお部屋で、朝食は一緒の時もある。


今夜の夕食はフィル様と二人きりだった。エドさんはご当主様と一緒に領地の水路に問題が発生したとかで視察に行っている。ノアは今日は食堂に下りてこなかった。ノアは元々食が細いこともあって、食べないことも多いんだ。小さい頃から熱を出して神官様に今日は遊べないって言われることもよくあった。

「ノア君と喧嘩でもした?」

フィル様が少し心配そうにたずねてくれた。

「いえ、ちょっとからかわれて怒っただけです。あれ?喧嘩かな?」

そうか、今日は私が怒っちゃったから、ばつが悪くて下りてこられないのかも……。考え込んでると、フィル様がふっと微笑んだ。

「早く仲直りできるといいね。でもからかわれたって?何をされたの?」

「ちょっと質問したらはぐらかそうとして、いたずらしてきたんです」

私は食後のお茶のカップを置いて、握りこぶしをつくった。

「急に抱きしめてきて、耳に口をつけたんですよ!すっごくくすぐったかったんです!子どもみたいなことして!」


ガタンとフィル様が突然立ち上がった。

「フィル様?」

テーブルを回って私の席までやって来た。思わず私も立ち上がってしまった。どうしたんだろう?

「どっち?」

「え?」

「どちらの耳?」

「えっとこっちです」

右耳を指さすと、フィル様は右手で私の肩を掴んで左手でぐいぐいと私の耳をひっぱった。ちょっと痛い……。

「エリーは無防備すぎる!」

「え?そうでしょうか?でもノアは弟みたいなもので……」

「君達は姉弟じゃない。ノア君は男性で、君は女性だ。いくら幼馴染でも距離は保たねば駄目だ」

フィル様の手が頬に触れた。ああ、フィル様は心配してくれるんだ。私と二歳しか違わないのになんだかお父さんみたい。優しいお父さん。本当のお父さんより優しいかも。

「はい、すみません。気をつけます」

私が答えると、ハッとしたようにフィル様は私から手を離した。


「……僕も他人(ひと)のことは言えないな……」

フィル様は片手で顔を隠して自嘲するように笑った。







ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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