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14 マーケット

来ていただいてありがとうございます!




「エリー、お屋敷へ戻ってからすごく頑張ってたね」

「うん!花光玉を売り込むチャンスだもん!あれから毎日限界まで頑張ったわ。今日は売って売って売りまくるわよっ!」

こぶしを握り締める私に若干引き気味のノア。でも構っちゃいられないわ。今日は王都で物産市(マーケット)が開かれるんだから!

「今日は少し暑いくらいだね」

そう言って黒い前髪をかき上げたノアは空を見上げた。


ウィステリアワイズ家に呼ばれてから十日程経った。今、私とノアは王都の中央広場にテントと机を設置しただけの簡単なお店を出している。ノアと二人で花光玉と緑の一族の領地で採れた野菜を並べて売ることになったんだ。広場には他にも同じようなたくさんのお店が並んでる。ライバルって感じかな。


リーフリルバーンのお屋敷に戻った私はとても調子が良くなっていて、一日に三十個以上の花光玉を作れるようになったのだ。もっともっと花光玉を広めようって気持ちが高まったからかもね。並べたたくさんの花光玉を見て気合を入れた。


王都でお店を開いたり、物を売ったりするのにはお城で発行される許可証が必要なんだって。その許可証はもらうのにものすごく時間がかかる。その上ものすごくお金がかかる。だから私達農家も王都で直接農作物を売ることはできないんだ。王都でお店を開いてる人に買い上げてもらってお金を得ていた。それで生活に必要なものを買うんだけど、その値段は買ってくれる人の言い値になっちゃうから、それほど暮らしは豊かじゃなかった。うちは途中からカレンの花光玉が売れるようになったから、うちで食べる分以外は野菜をやめて花を育てるようになったんだよね。材料のさざれ石も買うから、前より少し服とか買い替えられるようになったくらいかな。もちろん税金も納めてたよ。ほんとにちょっとだけど。


物産市 マーケットは主に貴族の主催で行われる市場になる。貴族のお屋敷の敷地で誰でも自由に物を販売できるんだ。リーフリルバーン家や他の緑の一族は王都にそれほど大きなお屋敷を構えていないからウィステリアワイズ家のお屋敷の敷地で行われるんだ。そう思ってたけど……。何と今回は、王都の中央広場を借りてお祭りみたいなマーケットが開かれた。ウィステリアワイズ家、ううんシオン様って凄い人なんだな。


「すごく、人がいっぱいいる……人酔いしそう……」

「エリーには花とか草がいっぱいの場所の方が合ってるんだね」

「うーん。そうかも。カレンも私も王都に憧れてたけど、思ってたのとちょっと違ったかな。見るものはいっぱいあって楽しいけど、落ち着かないや。田舎者なんだね私って」

「エリーはそれでいいと思うよ」

「カレンも連れてきてあげたかったな……」

「…………そうだね」

忙しくてカレンの体調を伺う手紙を書いたきりになってるけど、結局手紙の返事は来てない。今日の花光玉の中にはカレンが作ったものも多くあるから、たぶん大丈夫なんだと思う。けど、相変わらず前みたいな花光玉を作れてないみたい。

「……今日は頑張ろうね」

「そうね!フィル様のためにもたくさん花光玉を売らないと!」

「フィル様のため?」

「そうよ!だって研究費、材料費にお金かかってるじゃない!私気づいたの!いくら貴族だって、タダ働きはダメだと思うのよ。ほら、前にノアも私に教えてくれたでしょう?」

「……ああ、そういう事か」



「わあ、これ可愛いわね!」

可愛い女の子二人組が店の前に立ち止まってくれた。

「いらっしゃいませ!そうでしょう?これは恋が叶う(かもしれない)っていわれるお守りなんですよ。こちらの青いのは健康運にいいんです!」

実際に、悪魔憑きの病に効くってわかる前まではこういう風に宣伝して売っていたので、嘘は言ってないと思う。

「ひとつくださいな!」

「どうぞ……」

「わあ……あ、ありがとうございます……」

二人組の女の子達は花光玉をノアから受け取ると頬を赤らめながらノアの顔を見つめてる。ノアが受け取った代金をしまってお釣りを渡すまで見つめてから、名残惜しそうに立ち去っていった。

「そっか、ノアってかっこいいからモテるんだぁ」

「……」

ノアはかき上げていた前髪をさっと下した。

「えー!何してるの?せっかくノアの顔で客寄せができるのにっ。もったいないじゃない!」

「鬱陶しいから嫌だ」

「ぶー」

「それより、僕ってかっこいいの?エリーはそう思ってるの?」

「え?うん。ノアが神殿に来た時から綺麗な子だなぁってずっと思ってたよ?黒髪黒目はこっちじゃ珍しかったからみんな気が付かなかったと思うんだけど」

「差別感情なんてどこにでもあるしね」

「差別……?」

「自分たちと異質なものを区別する気持ち」

「異質ってなんだろう?ノアと私はそんなに違うの?っていうか同じところなんてカレンと私にもあんまりないわよね?姉妹なのに」

「うん。エリーは分からなくていいんだよ。そのままでいてね」

「?」

そんな会話をしながら、私達は野菜や花光玉をどんどん売っていったのだった。


マーケットは二日間開催されたけど、その間に準備した花光玉のほとんどを売り切ることが出来た。そして後日、王都でお店をしている雑貨店の店主さんの目に留まったらしくて、装飾品として花光玉をお店に置いてもらえることになったんだ。やった!






ウィステリアワイズ家書斎にて


「フィルもエリーと一緒に店をやりたかったんじゃないの?」

シオンは書斎にも菓子を持ち込んで食べながらフィルフィリートをからかうように笑った。

「ご冗談を。僕の姿を銀の一族の者に見られるわけにはいきませんから」

フィルフィリートはため息をつく。

「あの連中が、ああいう場所に来るとは思えないが……。まあ、誰がが報告する可能性も無くはないな。とにかく今は浸透させるのが先決。ばれて銀の一族が騒ぎ立てるようになる頃までに数を行き渡らせればいい。報告では花光玉の売れ行きは好調らしい。エリーはずいぶん張り切ってるようだ」


対面に座るシオンの言葉を聞いてフィルフィリートの頬が緩む。

「……でしょうね」

フィルフィリートの頭の中にはエリーの笑顔が浮かんでいた。

「彼女はいつもまっすぐで一生懸命ですから……」

「ふうん……」

にやにやと貴族にしてはやや品の無い笑いを浮かべるシオン。こういった表情をしていると年相応に見えるが、フィルフィリートは油断するわけにはいかなかった。天才が多く生まれるという紫の一族のトップ、ウィステリアワイズ家。シオンは若干十四歳でその当主を務めているのだ。

「何か?」

「いいのか?大切なエリーをノア君と一緒にいさせて」

頬杖をついてフィルを楽しそうに見てくる。

「……彼らは幼馴染ですので、問題は無いかと」

シオンが自分をからかいたいのだと気づいたフィルフィリートは努めて冷静に答えた。


「幼馴染か……そんなことが可能だとはね。恐れ入るよ」

シオンの声がやや低くなり、菓子を摘まむ手が止まる。

「……ええ、本当に」

フィルフィリートの顔にも汗が浮かぶ。フィルフィリートはあえて話題を変えた。

「シオン様に」

「シオンでいいよ」

「……シオンに聞いておいてもらいたいことがあります」

「なんなりと言ってくれ。僕たちは親友だからね」

フィルフィリートはいつの間にか昇格していた自分の立場に苦笑いを浮かべた。そして切り出したのだった。







ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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