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12 初夏の庭園

来ていただいてありがとうございます!


明るい陽射し。リーフリルバーン家のお屋敷のお庭も広かったけど、人の手が入っていないような場所が多かった。ここ、ウィステリアワイズ家のお庭は隅々まで人の手が入って綺麗に整えられてる。といっても私が見た場所なんてほんの一部なんだろうけど。フィル様と一緒に案内された場所には木で作った高い棚があった。蔓の伸びる植物が這わせてあり、ブドウみたいに紫の小さな花がたくさん連なって、いくつもいくつも咲いている。甘い香りがする日陰にはテーブルとイスが置かれていて、テーブルにはお菓子がいっぱい並んでる。本当にいっぱいある……。確かに午後のお茶の時間だけど、物凄い量……。こんなに用意して残したら勿体ないよ。


「本当に申し訳なかった。貴方とはあまり交流が無かったので、手っ取り早く人となりを知りたかったのだ」

フィル様に続いて私も座らせてもらうと、シオン様がもう一度謝った。

「だからって、あんな言い方をなさらずとも……。おおらかで優しい方が多い緑の一族のリーフリルバーン家の方だからこうしてお話を続けさせていただけているのですよ?私は本当にヒヤヒヤしてましたよ」

シオン様の後ろには深い紺色の髪と瞳の背の高い男の人が立っている。この人はクレス・レイクネイビー様といって、紫の一族の人。シオン様に花光玉のことを伝えてくれた人なんだって。隣の部屋で話を聞いてたらしい。


「いや、さすがにおかしいとは思っておりましたよ。何かあるのではとね」

フィル様は出されたお茶を飲みながら苦笑いしてる。

「慎重なのも素晴らしい。そして部下を大事にしているところも」

シオン様はそう言うと自分もお茶を口にする。フィル様は複雑そうな顔で私を見た。あ、私の事?私はただの雇われ人だと思うんだけど……。そういえばフィル様の隣に座らせてもらっちゃってるけどいいのかな?私は今更ながら気になって不安になってしまった。


「私の事はシオンでいいぞ。さあ遠慮なく食べてくれ」

そう言いながらシオン様はクリームがのった小さな焼き菓子を口に入れた。あっという間に飲み込むと話を続けた。凄い早業っ。

「だが、貴方は真っ直ぐすぎるぞ。フィルフィリート殿。銀の一族は聖なる一族と呼ばれているけれど、使う魔法とは裏腹にプライドが高く性根が曲がってる者達が多い。まあ、能力もそれなりだが」

言いながらまた小さな焼き菓子をぱくり。クレスさんがシオン様の前の空の取り皿と、新しくお菓子を取り分けてのせたお皿を交換した。い、いつの間に全部食べたの?

「その根城にあんなものを持っていったら、今回のように馬鹿にされるか、下手をしたらもみ消されるぞ、エリーさんの存在ごと。対応した奴らが愚かで良かったな」

「!……しかし、国民が苦しんでいるのに、自分たちのプライドを優先させるなんてことは……」

そこまで言って何か思い当たったのか、フィル様が唇を噛んだ。


「それで?現在はどんな状況なんだ?何か他に進展は?」

「…………今、はこれから咲く花の効果を検証をしているところです。エリーの故郷で花光玉をつくれる者達に作成依頼をしています」

フィル様は少しだけ何かをためらったように見えた。少し表情が曇ったみたい。どうかしたのかな?

「……ふーむ……クレス、頼む」

「はい。悪魔憑きの病、正式名称、衰弱病は原因不明、伝染性不明。初めて確認されたのは約十年前。当時の王家の王弟。効果的な治療法は浄化のみ。特効薬は無く、治癒魔法もあまり効かないため、巷ではそのように呼ばれます。完治の報告は無し。人により病の進行速度は変わります。主に王都での発症者が多く、国の北側でも発症者が目立ちます。ただし北西に領地を持つ銀の一族は、神聖魔法や白魔法を使う者が多いせいか患者が出ていないようです」


クレスさんの声を聞きながら考え込んでいるシオン様が突然呟いた。

「…………よし。物産市(マーケット)だな」

「では手配いたします」

そう言うとクレス様はシオン様の前に何皿かお菓子のお皿を置いて、お辞儀して屋敷の中へ入って行ってしまった。

「?」

「?」

「大丈夫だ。クレスが手配をしてくれる。それに私の知人に地属性魔法の得意な方がいる。話をしてみよう。今はとにかく早急に花光玉を広める。浄化できる人材が限られているのだから」

「!なるほど、それで物産市(マーケット)……」

え?え?何のこと?フィル様なんで分かるの?

「花光玉をただの装飾品、土産物として売るんだよ」

フィル様の新緑の瞳にいたずらっぽい光が浮かんだ。

「売る?病気の人に配るんじゃないんですか?」

「そう。元々エリーの家でもそうしていただろう?」

「あ、そうか」

無理にお城の人に効果を認めてもらわなくてもいいんだ。病気の人に持ってもらえれば。うちはそれでカレンの花光玉が人気になった。王都でも噂になれば花光玉を持つ人が増えてくれるかもしれない。材料だって無料(ただ)じゃないし、売ることができるならその方がいいよね。


「そうだ、エリーさん、私の元へ来ないか?」

お皿の上のお菓子を高速で食べてるシオン様に何気なく軽い感じで誘われた。

「なっ!」

「ぅへ?」

あまりにも突然の言葉に変な声でちゃったよ。隣のフィル様は腰を浮かしかけてる。

「優秀な人材は私も集めているんだ。君の魔法は面白い。給料は倍いや四倍は約束しよう。花光玉を作るだけならうちでもいいんじゃないか?」


すごい。お金のことを考えるならとても良いお話だわ。

「いえ、私を最初に見つけて下さったのはフィルフィリート様なので、私はこれからもリーフリルバーン家で働かせていただきたいです。申し訳ありません」

でも意外にもスッと言葉が出た。だってあの土地を離れるなんて考えられなかったから。私は頭を下げてから思った。あれ?これってもしかしてまずいかな?シオン様が怒っちゃったらどうしよう……。

「エリー……」

フィル様はホッとしたように私を見つめて、私の膝の上の手に大きな手を重ねた。大きな手……。あれ?顔がちょっと熱くなってしまった。お父さんやノア以外の男の人と手を繋いだことないもんね……。



「想定通りだったな。やはり私は凄いな」

怒られてしまうかなって思ったけど、大丈夫そう。シオン様は何故か自分を褒めてる。

「フィルが私の想像通りの人物なら、断られると思っていたから」

うんうんと頷きながら嬉しそうなシオン様。そしてフィル様をフィル呼び?これにはフィル様も呆気にとられてるみたい。戻ってきたクレス様が呆れたような顔をしてる。

「シオン様……」

「大丈夫だ!フィルとはもう友人だ。フィルごとエリーを取り込めばよい」

「いきなり距離をつめすぎです。貴方にご友人が出来づらいのはそういうところですよ……」

クレスさんは額を手でおさえて呟いた後、私達に申し訳ございませんと謝った。




最初にテーブルいっぱいに並べられたお菓子のほとんどはすでに無くなっていた。クレスさんが言うにはこれがいつものことなんだそう。あの細い体のどこに入るんだろう?シオン・ウィステリア様は変わった、ううん不思議な人だった。






ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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