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11 シオン・ウィステリアワイズ

来ていただいてありがとうございます!



「私がウィステリアワイズ家の当主シオンだ」


目の前には綺麗な薄紫色の髪を短く切りそろえた男の子が立っていた。大きな窓からは明るい初夏の光が差し込んでいる。お部屋の中は外と比べて少し薄暗くて、薄紫色の髪と濃い紫の瞳がぼんやりと光っているようだった。どうみても私よりも年下に見える。十三歳くらい?私は隣のフィル様をそっと見上げた。


「初めまして、ではありませんね。しかし今までそれほど親しくお話をさせていただく機会はありませんでした。フィルフィリート・リーフリルバーンです。これを機に是非仲良くさせていただきたいです」

フィル様は丁寧ににこやかに挨拶をした。けど、シオン・ウィステリアワイズ様は無表情だった。というよりもどこか冷たい、不機嫌そうな目で私達を見てる。こんなに小さな子がご当主様なんだ……。フィル様よりも年下の方とは聞いていたけど、もっと大人っぽい男の人かと思ってた。どっちかというと女の子みたいに綺麗な子だった。


「貴方はリーフリルバーン家のご当主殿のお孫さんでしたね。ご当主殿のご体調が回復されたことはお聞きしておりますが、貴方に遊んでいられるお時間があるとは思えないのですが……」

シオン・ウィステリアワイズ様は何やら書類の束を片手に持ってそれを振りながら話している。あれ?なんだかこの人フィル様に失礼な態度取ってないかな?紫の一族の筆頭であるウィステリアワイズ家のご当主様だし立場は偉いんだろうけど。いくら物知らずな私でも何となく分かるよ?


「本日は嫌味を仰るために我々をお呼びになられたのですか?」

「いいえ、流石に私もそこまで暇人ではありません」

「それは我々も同じです。こちらには無理に貴方とお話をしたい理由は無いのですが」

空気がピリピリしてる……。今日は間に入ってくれるエドさんはいないんだよね。ご当主様についてお城へ行っていて。フィル様少し苛立ってるみたい。シオン・ウィステリア様の話し方はとても丁寧なんだけど、なんだか棘があるっていうか、馬鹿にされてる感じがする。話すのが嫌なの?そうだったらどうして私達を呼んだんだろう?変な人……。




「……まあいいでしょう。この報告書は読ませてもらいました。だが私は自分の目で見たことしか信じない。エリーといったか。娘、今ここでその花光玉を作れ」

案内されたお屋敷の書斎(だと思う。フィル様の書斎の感じと同じだから)で机の前に立ったまま、報告書と言った書類を指でトントンと叩きながら、シオン・ウィステリアワイズ様が私を指さして命令した。


馬車が王都に入った時に窓から見た王都の街並みに私は圧倒されて声も出なかった。背が高くて大きな建物がとても多くて空が狭い。人がたくさんいて色々な表情をしてて、お店とかもたくさんあるみたいで、今まで見たことがないくらいたくさんの物がそこここにあった。その中でもウィステリアワイズ家のお屋敷は大きかった。白くて透明感のある石づくりの建物、薄紫色の屋根の尖塔には紫色の旗。最初王様のお城だと思ったくらいに立派だった。


そんなお屋敷の書斎だからかな。リーフリルバーン家のご当主様の書斎よりもずっと広かった。でも、私にはそのせいで逆にシオン・ウィステリアワイズ様が小さく幼く見えてしまった。なんだか小さな子が威張ってるみたいで微笑ましかった。

「はい。分かりました」

私は準備をしようと思って鞄を開いた。


「いや、いい。帰ろう。ここまで無礼を働かれる理由が無い。我々は失礼します」

フィル様が私の手を掴んだ。え?帰るの?フィル様今度は凄く怒ってるみたい。私はフィル様の手に自分の手を重ねた。

「でもフィル様、王都には患者さんがたくさんいるのでしょう?花光玉のことを分かってもらえれば、悪魔憑きの病を押えられるかもしれません」

私はフィル様に訴えた。フィル様がお城に報告をした時には取り合ってもらえなかったとエドさんにこっそり教えてもらった。自分のように大切な家族を救いたいと思う人がたくさんいるのだから、とフィル様が花光玉の研究にとても熱心だったことも見てきた。だからこそ、シオン・ウィステリア様にも分かってほしかった。花光玉のこと。フィル様の優しい気持ちのこと。


「…………分かった。じゃあやってもらえるか?」

フィル様の頬は少し赤かった。きっと呼びつけられて失礼な態度を取られて悔しかったんだと思う。ため息をついた後、躊躇う様に私の手を離した。

「はい。フィル様」

私は持ってきていた鞄の中から銀の盆と銀のボウルを取り出した。

「この机を使ってもいいですか?」

「構わない。……不思議な文様が彫られてる……」

シオン・ウィステリア様は少し身を乗り出すようにして見つめている。

「あ、はい。この道具はおばあちゃんの、いえ祖母の形見なんです」

カレンはこんな古臭いの要らないって言って、可愛らしい柄のある陶器のボウルと細工の美しい真新しい銀の盆を買ってもらってたっけ。私はそんなことを思い出しながら布袋に入れて持ってきていたさざれ石と花をボウルへいれた。


シオン・ウィステリア様は興味深そうに眺めていらしたけど、私が魔力を込めると立ち上がって机に手をついて覗き込んできた。

「これはっ……!」

ボウルの中が光を放った。光が収まるといつものように光の粒をはらんだ花光玉が生まれていた。良かった。凄く緊張したけど、ちゃんとできた。


「なるほど、地属性の魔法か。それにしても特殊だ。この場合火の属性もあるのか……いや。植物の力を取り込んでる。精霊魔法に近いものか……。浄化の力も感じる。そういえば最近読んだ本の中の古代文字の一つがこんな感じだったような……聖なる力……そうか、石が聖なる力を帯びているのか……?いや、それだけじゃないまた何か別の力が働いて……」

シオン・ウィステリアワイズ様が銀のボウルとできた花光玉を手に取り交互に見つめてブツブツと呟いてる。なんかちょっと怖い。


「エリーさんは何処でこの魔法を習った?」

あれ?エリーさん?

「おば、いえ、祖母からです。ええと父方の祖母です」

スゥッとシオン・ウィステリア様が目を細めた。紫色の目に明るい光が宿った。

「リルエリー・フルラ・アストランディア……」

えーーーー?!また名前当てられた!なんで?何で分かるの?

「そうか、そういう家系か……」

シオン・ウィステリア様はニヤリと笑った。



かと思ったら、いきなり頭を下げた。

「?」

「?!」

私は思わずフィル様を見たけどフィル様は私よりも驚いているみたい。

「失礼な態度をお詫び申し上げる。すまなかった!!」

シオン・ウィステリア様はフィル様が謝罪を受け入れるまでそのまま頭を下げ続けた。なんなの、一体?情緒が落ち着かないんですけど?!








ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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